第04話 初志貫徹

「あなた、仁音君でしょ? 私達と同じクラスメートの」

 何日目かの訓練が終わった、ある日の夜の事。

 僕の仕事と生活を兼ねた部屋に、一人の勇者が訪れていた。彼女は部屋に入ってくるなり、確信した様子で僕の正体が仁音であると言ってきた。

 しかも彼女は間違いないと確信している様子であるにも関わらず、僕の口から”そうだ”と言わせようとしているのか、質問するようにして聞いてくる。

 事実としては勇者の少女の言う通り。なんだけれど、召喚の儀式の時には言い逃れるようにして別人であると、僕は彼らに言い放っていた。だから今更、本人でしたと言う必要もない。

「いいえ、違いますよ。僕の名前は確かにジオンですし、あなた達が知っている仁音さんと似ているのかもしれません。けれど、私と仁音という方は完全に別人です」

 彼女の質問に対してしらばっくれた返事をする。けれど、僕の答えを聞いた彼女は納得いっていないという表情をしている。

「嘘。どこからどう見たって、仁音君だもの。写真だって持ってるわ、見てみて」

 自分が正しいことを証明しようと少女は、スカートのポケットから携帯を取り出してきて何かの操作をした後、僕の目の前に取り出した携帯を突き出してきた。

 少女に見てと言われた通り、目の前にある携帯の画面を覗き込んでみる。そういえば、携帯なんて久しぶりに見たなと思いつつ確認する。

 その画面には、集合写真が表示されている。その中に学生服の姿でいる1人の男性、確かに僕の顔が表示されていた。

「確かにこれは僕と顔が似ていますね。ところで、この道具は何ですか?」
「え? これ? 携帯だけど」

 僕の存在について追求を逃れるために彼女が手に持っている物が携帯と知りつつ、何なのかと問いかける。僕のとぼけた質問に、驚きながら答えてくれる少女。

「携帯ですか、絵を写す道具なんですか?」
「いや、コレは電話をする機械だけど。……あれ? 本当に仁音君じゃないの?」

 自分の演技はあからさまに過ぎるか、と思っていたけれどやってみれば案外うまく事が運んだようで。本当に僕が彼女の知る仁音とは違う人間だと信じてくれたのか、途端に不安げな表情を浮かべる勇者の少女。

「確かに名前が同じで、顔も驚くほどに似ているようですが。僕は20年も前からこの世界を旅していましたし、10年程前からはこの国で働いても居ます。だから、貴方の言う仁音君とやらとは別の存在なんでしょう」
「……そうだったのね。ごめんなさい、私の勘違いだったわ」

 20年もこの世界で生きていると言った僕。ただ、その20年以上も前には彼女の言っている仁音という人物として生きていた。

 けれと僕の説明を聞いて、完全に別人であるという事をやむを得ず、という感じで認めたらしい。そして、そのまま失礼しますと言って慌てた様子で部屋を出て行く。

「ジオン様、彼女を抹殺しましょうか?」
「必要ないよ」

 部屋の隅から突然現れた少女が、いきなり物騒な提案をしてきた。彼女は僕の身辺警護の為にと、国から付けられた暗殺者兼護衛という立ち位置の女性だった。

 まだ年は若くはあるけれど能力は非常に優秀であり、容姿も美しい。敵を油断させる為にという目的と、僕を国に縛り付けるために色欲に溺れさせる目的も有るハニートラップという存在だった。

「あの女は、ジオン様の話を信じていませんでした。あの絵を元にして、虚偽情報をばら撒くかもしれません」
「あの話を広められたとして、支障はないから大丈夫」

 僕が勇者たちの知っている仁音であるかどうかなんて、結局はどうでも良い事でもある。その話を広められたとしても問題になることは無い。

 それよりも、勇者が1人暗殺によって死んでしまうことで勇者達に不信感を与える事の方が問題があるだろう。だから彼女の行動を制止する。

「心配してくれてありがとう、でも問題はないさ」

 僕は彼女に気を使ってくれた事に対して感謝を伝えつつ、何もしなくていいと指示を出して、暗殺者の少女を後ろに下がらせた。

 そういえば、あの勇者の少女の名前は高橋玲奈(たかはしれな)という名前だっただろうか。

 たしか寡黙にいつも読書をしていたイメージのある少女で、学校での成績がとても優秀だったような記憶がある。

 もう僕の記憶はおぼろげで、彼女に対する情報が正しいかどうかも分からないけれど。むしろ20年も前の事なので、覚えていた事のほうが奇跡的でさえあると思う。

 それぐらいに記憶が薄れてしまう程、僕は今の世界に適応していた。この20年で色々と経験をして変わっていったのだから。それならばもう、僕は勇者達が知る仁音とは別人であると言うのは正しいだろう。

 だから僕は最初に言った事が本当だと今後も主張を変えずに、勇者達の知っている仁音とは別人であると言って過ごすことを決めた。