第02話 事情説明

 約20年前、僕は別の世界から今いるこの世界に召喚された。そして、色々な出来事を経て現在は国一番の賢者なんて言われる存在となっていた。

 そんな時に、再び元の世界の人間と出会うことになるとは思ってもいなかった。しかも、自分を知っている同郷の人間と。けれども、ほとんど過去の記憶については思い出すこともなく薄れていて、かつての世界で生活してたい頃の残っている記憶なんて少ない。

 問題なのは、相手に自分のことを見抜かれてしまった事。一応、人違いだと誤魔化すことで回避したけれど、まだ疑われているようだった。

 召喚の間から大広間へと移動している最中、ヒソヒソと僕の事について話している声が聞こえる。あれは”大村仁音(おおむらじおん)じゃないのか”という声。

 後ろから聞こえてくる話し声を僕は一切無視して、召喚した彼らを先導して大広間に案内していく。これから詳しく状況についてを説明するためだ。


***


「あなた達に、魔王を倒していただきたいのです」

 大広間に案内してテーブルに座ってもらった後、この国の、そして世界の状況を説明していく。大半の人間が素直に聞いてくれる姿勢であるが、何人かは反発する態度を示すように頭の後ろに腕を組み、膝を立てて行儀の悪い座り方をしているので、聞いているのかどうか分からない。

 今この世界は魔王の脅威に晒されていること。何度も魔王を倒そうと挑んでいった者たちが、返り討ちにあい散っていった事。そして、魔王に対応できるのは勇者と呼ばれる称号を持っている者たちだけ。

 そして召喚で呼び出された貴方達は、言い伝えられている勇者という称号を授けられた者たちだという事。

 話を終えた後の彼ら彼女らは、2つの種類に分けられる反応を見せた。1つはゲームや漫画みたいな展開だと召喚されたことを喜ぶ者たちに、そしてもう1つは、召喚されただなんて今後はどうなるのだろうかと不安がっている者たち。

「ではこれより、王の御前に案内します。後ろについてきてください」

 大広間での説明を終えたら再び城の中を案内して、言葉通りに陛下の居る王座の前まで勇者達を連れて行く。移動が多いと文句を言う何人かの声を出す者たちを、なだめる。

 ココまでは、勇者召喚について事前に話し合って決めていたスケジュール通りとは言えない。色々と想定外があった。召喚されたのが僕を知っている人間だったり、1人だけ呼ぶはずが何十人も召喚で現れたり、何人かの勇者が反発的であったり。色々と、スケジュールに修正が必要そうだった。

 ぞろぞろと城の中を連れ歩いて、謁見の間に到着する。部屋の中には近衛騎士団が何十名か武装して待機している。鉄の鎧に赤い大きな羽の装飾のついた兜、そして腰から下げたロングソード。

 近衛兵の武装に威圧されたのか、勇者たちは黙ったまま待ってくれている。注意して黙らせる必要もなく、楽にはなった。

 その他にも貴族の家臣が待機している。彼らは、国政を担う重鎮達だった。黙ったまま、静かに勇者たちを観察し続けている。

「フラヌツ王がいらっしゃいます」

 近衛兵の1人が、謁見の間に王が登場する事を知らせる声を上げる。そして、奥の部屋からマントを翻して現れた1人の初老男性が玉座に座ると、謁見の間で静かに待っていた勇者達をじっくりと見回した。

 王は、勇者の数に驚いているようだった。本来ならば1人だけの予定だったのが何十人も居たのだから、驚くのも無理はないだろう。

「ジオン、勇者召喚の儀に成功したようだが”彼ら”が呼び出した勇者か?」
「はい、そうですフラヌツ王」

 王に対して片膝を立てて頭を低くしながら報告を行う。後ろに付いてきていた彼らは、どうするべきかオロオロと突っ立ったまま。

 本来ならば、謁見するときの作法では失礼に当たる。家臣の何人かも眉をひそめて勇者たちを見ているが、特に文句は言わない、というか言えないのだろう。王が何も言わないから。

「そうか。突然召喚などと言って呼び出してしまい本当に申し訳ない、勇者の皆様よ。しかし今、この場所に貴方達が居るという事、これは運命なのだろうと思う。だから勇者様、どうか我々の国を世界をお救い下さい」

 普段ならば、ありえない程の低姿勢で勇者と向き合うフラヌツ王。それだけ気を使って対応している、という家臣たちへのアピールだろう。

 王との謁見によって、ようやく事態の深刻さを徐々にだが認識し始めたらしい勇者たち。お互いに顔を見合わせたりして、皆がじんわりと不安な表情に変わっていく。

「私達、戦いなんてしたことありません!」
「魔王を倒せなんて、絶対に無理だと思います」
「今すぐ私たちを元の世界に戻して!」

 王の言葉に反発して、叫ぶように拒絶している。やはり、召喚なんて突然過ぎる事に拒否されるだろうと、僕の予想していた通りとなった。

 そんな中、僕の予想に反して非常に協力的であるような声を上げる1人の青年が居た。彼は確か、召喚されたすぐの時には黙ったまま注意深く周りを観察していた者だ。

「皆、ここで文句を言っても意味がないよ。この世界の人たちも困っているみたいだから、俺たちの勇者としての助けが必要なんだ。それに、魔王を倒すために俺たちは召喚されたのなら、倒し終えたら元の世界に帰してくれるかもしれない。そうでしょう? フラヌツ王」
「もちろん、魔王討伐を果たせば元の世界に帰すと約束しよう」

 使命を果たしたら元の世界に帰すと、召喚士の僕に確認もせずに勝手に約束をしてしまった王。不可能では無いけれど、面倒ではある。

 しかし、本物の勇者と言えるような中心人物となってくれる人間が居てくれたおかげで、一気に彼らの意見がまとまったようで助かった。交渉などで、余計な時間が取られる心配が減った。
 
「では後を任せた、ジオン」
「了解しました」

 面倒なことは丸投げで、さっさと謁見の間から退場するフラヌツ王。世界が混乱している中で忙しい人である事は知っているけれど、もう少し協力してくれれば僕も助かるのにと心の中で王に対して愚痴を言う。