第10話 無事送還

「それでは、帰還魔法を行います。君たちは動かないようにじっとして、そこで立っていて下さい」

 魔王を倒すことが出来たので、ジオンは約束どおりに勇者達を元の世界に戻すため帰還魔法を実行しようとしていた。

 場所は召喚魔法を行った時と同じ、バイアトロル城の最奥にある過去の勇者を祀った聖堂だった。

 さっさと元の世界へ戻りたいと言う勇者達の要望に応えて、魔王を倒したという余韻に浸ることもなく、さっさと帰還魔法を実施する事に。

 急いで準備を整えてつつも失敗しないように万全の体制にして、32名の勇者達を魔法陣の上に立たせる。

 城から出ていっていたはずの3名の勇者達も、わざわざ監視を付けて連れ戻してくる必要もなく、いつの間にか戻ってきていて城に居た勇者たちと合流していた。そして今は、召喚された時と同じ数の32名が魔法陣の上に立っている。

 どうやら城を出ていった彼らは、あの後に色々と災難が続いて結局は異世界で生きていけないという結論を出したという。そして、元の世界に戻してくれと自分たちの足で城に戻ってきてた。なので、本人たちの要望でもあるので全員まとめて帰還魔法で向こうに戻す。

 ジオンも元は勇者達と同じ世界の住人である。けれど彼は何の葛藤も無く、帰るつもりは一切なかった。

 むしろ、召喚の際には繋がりを閉じて二度と彼らの居る世界からは人が召喚されないように、そしてコチラから向こうにも行けないようにする。勇者達を元の世界へ戻す帰還魔法が完了したら、特殊な処置を施すつもりだった。

 だから、勇者達とは二度と会う機会もコレで無くなる。ただ、ジオンは最初から最後まで彼らのことに関心を向けては居なかった。

 そして二度と繋がらなくなると言っても別にいいやと、彼らに対する情は無い。ただ召喚魔法で異世界から人が来る可能性は潰して置いたほうが良いやと、危険性を減らす目的を果たすだけ。勇者達に対しては、無感情であった。

「では、いきます」

 そしてアッサリとジオンは帰還魔法を発動する。その結果、魔法陣の上から勇者達の姿は消えていた。その後に、しっかりと異世界との繋がりを閉じる処置を施して、再び繋がる可能性を完全に消し去った。

「仕事は完了しました。お疲れ様です」

 結局、ジオンは彼らの存在に終始興味を持つことは無かった。そして、今も仕事が終わったという感想だけで、勇者達に関しては既に意識の隅に追いやっていた。

 勇者達の集団が自分と同じ世界からやって来たという事は認識していたものの、彼らの名前を聞くことすら無く、元の世界へと戻す事までも作業的に完了するだけだった。


***


 無事にジオンの唱えた帰還魔法は成功していた。そして、彼らの姿が学校の教室の中に唐突に現れる。召喚された時と同じく、姿を表したのは授業を受けていた教室だった。

「うわぁ、本当に戻ってこれた!」
「なんだか懐かしい」

 鉄筋コンクリート製の校舎、そして黒板や机などの教室内の様子を目にした彼らは、三ヶ月ぶりぐらいに見た自分たちの居場所に懐かしさを感じていた。

 そして戻ってこれた者の中には涙を浮かべる人も居て、それほどまでに無事戻ってこれた事に嬉しさを感していた。

 しかし問題だったのは、その後。32名の人間が集団失踪したという問題は、世間を大きく賑わせたニュースとなっていた。

 なぜ姿を消したのか、それだけ多数の人間が目撃者も無く居なくなって、しかもふらっと何事もなかったかのようにアッサリと帰ってきた。

 そして、1名だけ戻ってこなかった者も居た。その人物の名は、大村仁音。彼1人だけが、未だに姿を見せずに消えたまま帰ってきていない。

 この集団失踪事件について、失踪していた当事者たちは異世界に行っていたと語ったが、事情を聞いた人間たちで信じる者は居なかった。

 それよりも、1人だけ見つかっていない大村仁音という存在が問題となっていた。というのも、失踪事件を調査している途中で学校内でいじめがあった事が判明していたから。

 そして被害者は、未だ姿を消したままの仁音という少年。加害者が、クラスメート達であったことが分かっている。

 失踪していた者達の中にいじめを行っていた者と、いじめを受けていた者が居たことが分かったのだった。

 証拠は無いけれど、状況から導き出された結論。

 集団失踪を起こした際に大村仁音を殺したのではないかと、殺人事件についての可能性が疑わた。そして、事実をしっかりと確認するために詳細な調査が行われた。

 もしかしたら彼を殺したという真相を隠すために、失踪事件を装ったのではないかと疑う人が多く居たから。

 けれど、警察がいくら捜索を続けても大村仁音の痕跡すら見当たらず。結局、何も発見できないまま半年が経って大村仁音の法的な死亡が確定されてしまう。

 失踪していた者たちは大村仁音について、こう語った。彼は異世界に残ったから、帰って来なかったのだと。けれど、世間では誰も信じる者は居なかった。


***


 元の世界でそんな大問題になっているにもかかわらず、ジオンは異世界で普通の生活を続けていた。

 いや、もう20年以上も生活していたこの世界の住人として馴染んでいたので、今住んでいるこの世界こそが自分の居るべき場所である、と彼は認識していた。

 今更、あっちの世界に戻る必要もない。

 そして、元日本人であった頃の記憶も一切思い出すことは無くなって、勇者と一緒に世界を救った英雄と讃えられつつ、研究に明け暮れる毎日を送ったのだった。