第09話 食事

 目を覚ます。ベッドから身体を起こすと、俺の目覚めを感知したのか部屋の中が自動で薄ぼんやりとした光で照らされる。その光によって、段々と意識が覚醒してくる。

 しばらく過ごしていた医務室から個室へと移ってきて、少しだけ生活の環境が変わった。けれど、心配していた身体には特に問題なく目覚めも爽快だった。

 ベッドから抜け出し立ち上がって、部屋の照明のスイッチを押して、室内を完全に明るくする。宇宙船に乗っている間は、地球に居た時のような一日の変わりが分かるような太陽が無いので、朝なのか夜なのか、どれぐらい寝たのか判断が付かずに時間感覚が少しおかしくなってしまう。

 そのために、宇宙船の中に居る間は行動ごとに記録を取って時間を測りながら生活するように言われていた。船長に渡された端末機を操作して記録する。どうやら、眠ってから7時間程経っていたらしい。

 生活している間の時間を記録し続けて、その中で自分の周期に合ったスケジュールを見つけるように言われていた。

 外宇宙からやって来た彼女たちにとっては一日が24時間であるとう概念が無いらしい。行動毎の時間を基点にして何時間前なのか何時間後なのかという事で考えたり、食事の時間からどれ位経ったのかで考えたり、他にも色々時間の分け方が有るらしい。これからは、地球特有の24時間という周期以外の考えに慣れていく必要があった。

 よく考えてみたら地球が1回転する時間として、24時間を一日と決めていた。それは、惑星によっては自転の速度が違うので一日の長さは24時間よりも早くなったり、遅くなったり違ってしまう。ミラさんに質問してみたら、惑星ごとに時間の区切り方が違っているらしいので、惑星に降り立つ度に調べて慣れる必要が有るらしい。

 外宇宙からやって来た彼女たちと異なる時間の捉え方について、ぼんやりと考えてながら部屋にある洗面台のような水が出る場所で顔を洗っていると、空腹でお腹が鳴りそうになる寸前であることに気づく。

「そういえば、食事はどうすれば良いんだろうか」

 部屋に置かれていた真っ白なタオルを取り出して来て顔を拭きながら、この後どうするべきか考えた。

 医療室に居た頃は、1日1回カプセル剤を食事代わりと言われて渡されたのを飲んで過ごしていた。2ミリ程の小さなソレを一粒飲めば、小ぶりである見た目に反して不思議と空腹は紛れて、一日ぐらいなら苦もなく食べないで大丈夫だった。

 あのカプセル剤での食事代わりについては、医療室に居る間だけだと聞いていた。身体の回復を待って安静にしている間は、少しでも問題を少なくして経過を見るためにカプセル剤による食事によって、胃袋に物を入れないようにするためだったはず。

 身体が問題なく健康だと判断されて経過も見終わった後は、好きな様に食事をしても大丈夫だと言われていたから、今日から味気なかったカプセル剤の食事以外の方法で、物を食べて空腹を満たしても良いはずだった。




 ステインさんが昨日言っていた、疑問に思ったことは遠慮無く聞いて下さいという言葉を信じて、彼女に連絡を入れて聞いてみる事にした。

 端末機を操作して通信を入れてみると、数秒で相手が画面に出た。

「ユウ様、どうされました?」

「食事について聞きたいことがあるんですけれど、今大丈夫ですか?」

 端末機を使って通信すると、テレビ電話のように画面に相手の顔が写って話ができる。食事の件について聞いてみると、直ぐに答えは返ってきた。

「今からご用意しますので、部屋の中で少々お待ちになって下さい」

「え? 用意?」

 用意とはどういう事か聞き返そうとすると、プツンと通信が一方的に切れてしまう。部屋の中で待っていれば良いらしいけれど、どれぐらい待てば良いのか。

 もう一度通信し直して聞こうと思ったけれど、暫く部屋の中で座って待つことにした。



***



「お待たせしました」

 ステインさんに連絡を入れてから5分ほど待った頃。昨日と同じように、部屋の中に来客を知らせる音が響いたので、廊下への出入り口の扉を開けるとステインさんが立っていた。

 そして、扉を開けた瞬間に食欲をそそる芳しい香辛料の匂いが漂ってきた。どうやら、ステインさんが食事を持ってきてくれたようだった。

「わざわざ来てもらって、すみません」

 ステインさんを部屋の中に招き入れると、三段になっているサービスワゴンのような物に出来上がったばかりのような湯気の立った食事を一杯に載せて運んできてくれた。

「あの、これ?」

「ユウ様の味覚の好みの情報が無かったので、色々と対処するために持ってきました」

 食事の品数の多さに戸惑って聞いてみると、ステインさんは何てこともないように答える。

 ステインさんに連絡を入れてから数分しか経っていないはずなのに、よくこれだけ多く用意出来たと感心してしまう。予め用意されていたのか、それとも未知の技術による方法か。気になったけれど、今は空腹で頭が一杯だったので質問は後回しにして食べさせてもらうことにした。

 テーブルに並べられていく皿。カレー、寿司、ラーメン、天ぷら、肉じゃがと見知った物ばかりでびっくりしていた。日本食も用意されていて、スプーンやフォークだけでなく、箸も用意されていた。

 俺が驚いた顔をしているのを見て察したのか、ステインさんが答える。

「貴方が地球と呼ぶ惑星で見つけた情報を元にして、料理を再現してみました。お口にあうと良いのですが」

「わざわざ、有り難うございます」

 食事に対して文化の違いが有るだろうと少し気構えていたけれど、ステインさんが配慮してくれて見た目に違和感のない物が用意されて、正直安心していた。

「どうぞ、召し上がって下さい」

「いただきます」

 ステインさんと一緒に食事する。朝食から重い物ばかりで難儀したけれど、せっかく用意してくれたものなので、全ての皿に箸を伸ばして少なくとも一口だけは食べるようにした。味はどれも美味しく、非常に楽しい食事の時間となった。

 

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