第12話 副船長の一目惚れ

 ワタナベユウさん。目にした時から、私はずっと彼のことが気になっていた。

 出会いの原因は、宙域探索のための航行中に機器がキャッチした電波だった。その電波を念の為に調査する事になり、発信源と思われる惑星へと降りた先。

 電波が発信されたと思われる建物を見つけて、入って行くとある一室に設置されていた機械を発見。私の不注意で機械が勝手に起動してしまい、中から一人の男性が排出された。

 彼は身体を震わせ弱々しい呼吸を繰り返していて、すぐに近づいて震えている彼を調べてみたら、身体が衰弱しきっているようで意識も無く、声をかけても一切の反応がなかった。

 このまま中に放って置いたら数時間で死んでしまうだろう、という可能性が有るほどに彼は弱り切っていた。

 すぐにジュペンス号へ運び込まなければならない、と判断した。一刻も早く彼に治療を施さなければならなくて、だけど手持ちの道具では応急処置ぐらいしか出来なかったから。

 護衛として、一緒に来てくれていたドミナに指示して彼を肩に担いでもらって、急いでジュペンス号へと戻った。

 警戒しながら進んで来た道を、五分の一の時間しか掛けずに急いで宇宙船へと戻った。宇宙船へ到着するなり、道中であらかじめ連絡していた船医のヨハンナに男性の治療をお願いする。

「ヨハンナ、お願いします。彼を助けてください!」

「任されました。出来る限り、彼が助かるように努力します」

 船医の答えを聞いて、私にはひたすらに彼が助かるように、と神様にすがるように願うことだけしか出来なかった。

 

 ヨハンナの努力が実り彼が助かったと聞くまで、しばらくは私の緊張の糸が緩むことはなかった。

 実は、船員が体調を崩して船医のヨハンナが活躍するような機会が、幸いな事に今まで無かった。そのため、私がヨハンナに持っていた印象はいつもだらけている、という感じが強かった。

 そんな彼女に頼り、彼を預けることに少しだけ抵抗が有ったけれど、すぐにその考えは改まった。

 ヨハンナは、今まで休んでいた分も合わせたように全力で対応し、衰弱死しかけている名も知らない彼を助け出そうと、必死になって頑張っていた。

 それは、ヨハンナの医者としての誇りにかけて患者を死なせないという心意気や、私がヨハンナに頭を下げてお願いをした事に加えて、助け出そうとしている彼が男性である事が関係しているだろうと思った。

 もしも、彼を死なせてしまったら全宇宙に116人しか居ないとされている貴重な男性が、宇宙から1人居なくなってしまう事になるから。

 彼を発見してから数時間、ヨハンナは出来る限りの処置を行って、彼の状態を無事に安定させることに成功した。後は、これからの回復具合の経過を見て対応するしか出来ずに、彼の回復をひたすら待つしか、出来ることは残っていなかった。

 ヨハンナの見立てでは、体力さえ回復したら目覚めるだろう。彼の消耗具合から予想すると、休み続けて一週間後ぐらいには目を覚ますだろうと言っていた。その言葉を聞いて、私はようやく安堵することが出来たのだった。



***




 彼が目覚めるまでの間は、通常任務である宙域探索を一旦停止すると船長のミラ様が判断を下した。それから、彼の処遇をどうするか考えることになった。

 私は、彼が目覚めてから混乱なくスムーズに対応できるようにと考えて、彼のことについて色々と調べることにした。

 調べるのに参考にした情報については、彼の居た機械が設置されていた建物の中で手に入れた。ソレを詳しく調べていき、見知らぬ彼のことについて知ろうと計画を立てた。

 彼が目覚めるまでの一週間。調査が進むと、色々のことが分かってきた。例えば、彼の居た惑星のかつての名は「地球」と呼ばれていた事や、1つの惑星なのに200に近い数の政府に分かれて同時に存在していた事。それから、彼が日本人というものに属しているという事等。




 私は彼の調査を続けるうちに、自分のことについて疑問を持つようになった。

 その疑問とは、何故私は彼の事がこんなに気になってしまうのか、という事。

 今まで人間への興味が希薄で、他人に対してあんなにも必死になった事が記憶に無い。なのに、あの時は衰弱死しかけていた彼を見て、純粋に助けないとイケナイと感じていた。名前や性格、声や考え方も知らない人間に対して、何故そう考えることが出来たのか。

 もちろん、全宇宙に116名しか居ないとされている男子を見殺しにすることは避けなければいけない。けれど、普段の私だったら男性に関して研究の資料としての価値があるだろうと考えたり、彼を助けたことによるメリットを先に計算してしまうだろう。けれど、あの時はそういう感情が一切なかった。

 私は、彼の事を深く知ることで答えがわかるのではないかと考え、手にれた情報の調査に力を入れていった。



***



 ユウさんにジュペンス号の船内を案内をするのは、非常に緊張した。幸いにも、ユウさんに緊張していることを指摘されず、無事に終われたので安心していた。

「彼の様子はどうでした?」

 ユウさんがブリッジから出て行った後、ミラ様が私が彼に感じた事を聞いてきた。

私は、その質問に対して正直に答える。

「非常に優しい人だと感じました。丁寧で、噂とは違って女性の私にも気を使って下さり、傲慢さもありませんでした」

「なるほど」

 私の報告を聞いて、鷹揚に頷くミラ様。

「私は昨日、全宇宙に居るとされる116人の男性の事について少し調べてみたが、君が先日言った通り、あまり世評は高くないようだ」

 ミラ様は今まで男性に一切の興味を持たずに過ごしてきた様で、世間一般の男性のイメージについては知らないみたいだった。だから、男性の事について調べて驚いたのだろう。

「彼は数千年の時を超えて、現代に居ます。ユウさんの居た時代では、男女の人口比率は我々の居る現代の宇宙とは違っているようで、価値観が違うのでしょう」

 彼が傲慢な態度を取らないのは、現代の男性と比べて過ごしてきた環境が違うからだろう。

 ユウさんと朝食を一緒にして、先程まで船内を会話をしながら回った事を思い出す。

 私が用意した料理を見た時や食べている間、そして研究結果の一部を見せた時の彼の表情。喜んだ顔や、少しだけ憂いを帯びた顔、そしてびっくりしたような顔や恥ずかしそうな顔。根が素直なようで、彼は案内するごとに色々と表情を変えていった。

 その顔を見るたびに、私には何故かもっと彼を喜ばせたい、びっくりさせたい、豊かな表情を変化させたいという気持ちが強くなっていった。何故そんな事を考えるようになったのか、彼を知ってから色々な疑問が湧いてきていた。

 だけど今はまだ、私にその答えはわからなかった。

 

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