第11話 宇宙船内の案内

 宇宙船内とは思えない、広々とした草原。そんな場所にぽつんと建てられた、かやぶき屋根の日本家屋。ステインさんに案内されて中に入ると、まず目に入ったのが囲炉裏だった。部屋の中央に四角く切って開かれ灰が敷き詰められたソレは、今は火が焚かれていないけれど直ぐにでも使えそうなぐらいにしっかりとしていた。

 そして囲炉裏の回りには畳が綺麗に敷かれていて、まさに日本の文化を象徴するような空間が存在していた。

「コレを研究のためにわざわざ建てたのですか?」

「えぇ、そうです。と言っても、実際に作業をしたのはソコに有る自動機械人形ですけれど」

 ステインさんは、そう言って入ってきた扉のある方向を指差す。俺は視線をステインさんが指した後ろを見るために、振り返る。

「うわっ」

 視線の先には、いつの間にか人型のロボットと思われるモノが立っていた。そして、人間ならば頭の目の部分、そこにある2つの並んだレンズが俺に向けられていた。見た目は大きいドラム缶と、小さいドラム缶が重なって、手の部分には小さなクレーン車のアームのような物が取り付けられていた。

 音も無く後ろに立っていたソレにびっくりして、思わず声が出てしまった。けれど、俺の驚きに対しては特に反応もせずにステインさんは説明を続けてくれた。

「船内の作業の殆どは、その自動機械人形に任せているんです」

 自動機械人形については、この船に計100体が稼働しているらしい。宇宙船内で行動・待機していると言われたが、俺は今まで見たことが無かったので普段は目につかない所で活動しているのだろうか。

 そして、この広大な草原も、自動機械人形を操作して創らせたという。自動機械人形は色々と命令する事が可能で、使用用途としても様々とあるらしい。例えば、研究の助手をしてもらったり、船内の部屋や通路の清掃をしてもらったり、更には食事を作ってもらったりもするらしい。宇宙船で生活をするのにお手伝いしてくれるので、小さな船でも1体以上は積まれているぐらい宇宙航海には必需品と成っているとの事。

「私は特に、各惑星で手に入れた情報精査や、情報の正確性を確認の為に色々と作ったりするときに手伝ってもらって、お世話になっています」

「なるほど」

 ステインさんから草原のこと、かやぶき家屋の事、自動機械人形の事等など次々に新しい情報が飛んで来るので、受け止めていたら頭が得た情報でパンク寸前になってしまった。けれど、何とか理解しようと努力する。そんな風に説明を受けながら、かやぶき家屋を一通り見学する。

 室内を見せてもらい15分程、家を出る。見た目だけではなく、中もしっかりと造られていて、びっくりとしてしまった。

 

 再び草原に出るが、やはりどう見ても宇宙船の中とは思えない景色にまたもや圧倒される。

「……大きいなぁ」

「この場所は、空間を弄って宇宙船の一室を広くしているのです。それと、空間を変化させたことによって、時間の進みも通常に比べて遅くなっているので、気をつけて下さい」

 景色を見て思わず呟いてしまった俺の言葉を聞いてなのか、補足説明してくれた。宇宙船内でも場所によっては時間の進みが異なっているので、注意していないと時間のズレに気づかないままという問題が起こったりする。そして、先ほど俺がお願いして料理を準備してもらい持ってくるのに数分も掛からなかったのは、この空間を広くされて時間の進みが遅くされた草原に居たからだそうだ。

 しかし、空間を変化させる技術や、時間の早さを変えてしまう技術なんて、ますます空想の世界のような話が、現実としてあった。

「気に入ってもらえましたか?」

「ありがとうございます、とても気に入りました。とても、懐かしい気分に浸ることが出来ました」

 昨日、地球人の生き残りが俺一人だと聞いた。そして、かつて存在していた文化も今はもう滅んでしまい記録された情報を残すだけとなってしまった。

 それなのに、二度と見ることはないだろうし食べることは出来ないかもしれないと考えていた、日本食や日本家屋をもう一度見ることが出来て本当に嬉しかった。ただ、こんな気持を共有できる人はもう誰も居ないのだと、少しだけ寂しい気持ちも湧いてしまった。

 俺は万感の思いを込めて、ありがとうと言って彼女に感謝を伝えた。ステインさんは、俺の言葉を聞いて嬉しそうに笑みを浮かべた。



***



 研究所を見せてもらった後、ステインさんは宇宙船内を案内してくれた。昨日までは、医務室で殆ど過ごして、時々だけ気分転換のために訪れた展望スペースに行くぐらいで、2つの施設しか行ったことの無かった船内。

 ステインさんに先導され、次々と部屋を見学していく。

 6人の船員に割り当てられた、それぞれの個室。船内には6人しか居ないので、まだ数十室ぐらいは部屋が残っているらしい。しかも、昔は旅客船だったのでもっと部屋が有ったらしいけれど、探索用の機械を積み込むために宿泊用の部屋を潰して機材を置いたので、部屋数は減ったとのこと。それでも、現状は部屋が有り余っている。

 更に進んでいくと、何時でも食事が出来るレストランと厨房がある。ここも、船内に少数しか居ないので使用される事は殆ど無いそうだ。そのため、好きなときに自由に使ってくれて構わないと、ステインさんに使用許可を頂いた。

 他にも、様々な情報が保管されているデジタルライブラリシステムのある部屋。膨大な量の情報が保管されていて、航海中の探索で手に入れたデータもリアルタイムで次々と追加されているらしい。

 何か知りたいことや調べたい事があれば、この部屋も活用するのが一番良いと言われたので、後で覗いてみようと思う。

 それから、バスケットボールの試合ができるほどの広さが有る運動場や、船内での運動不足を解消する機械がある場所。俺達の訪問にも気づかずに、訓練を続けているデファンさんを見かける。

 確か彼女と出会ったのは、何日か前に船長との話し合いをしていた時に護衛を務めている時以来だった。日々訓練をこなしているのだろう。かなり集中しているようだったので、彼女には特に声もかけずに施設を出る。

 昨日まで寝泊まりしていた、医務室。宇宙船の心臓であるエンジンが置いてある、エンジン室。先ほど見た、自動機械人形のメンテナンスをするためのメカニック室等など。宇宙船内には、数多くの部屋が存在していて次々に見て回った。



 そして、最後に宇宙船のブリッジへとやって来た。



 厳重にロックされている扉を開けて、中に案内される。ソコには、色々な情報が表示されたモニターが多く並べられていて、宇宙船の進行方向の映像が正面に映し出されていた。展望スペースで見た景色とは、また違った風景に見入ってしまう。

「彼の案内を終えました」

「そうか、ご苦労」

 先にブリッジに居た船長のステラさんと、一緒に船を見回った副船長のステインさんが横で会話をしていた。声の聞こえた方へ目を向けると、女性にしては長身のステラさんと短身のステインさんが並んで立っていて、2人の身長差で母娘のように見えてしまった。

 俺が見ていたのに気づいて、ステラさんがコチラに向き直る。

「ようこそ、宇宙船ジェペンス号へ。私たちは君を歓迎するよ」

 そう言われて、本当に宇宙船に乗っているんだという実感を得ることが出来た。

 

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