06 俺は元の世界に帰ります

 与えられた任務を成し遂げて召喚された国へと戻ってきた俺は、魔王討伐を果たした英雄として国民から歓迎された。魔王が討ち果たされて世界が平和が戻ってきた事を示すために、王様からの要望で凱旋パレードも行われて歓声を受けながら城下町を行進したりもした。

 国民向けに平和になった事を示す為の祭事も終わったのだが、次は貴族に向けた戦勝大宴会が行われることになった。それも連日に渡って行われる数々の行事に、少し辟易としていた。

 だから、これ以上付き合うのも面倒だと思った俺はすぐさま王様との話し合いの場を設けてもらい、帰還に関しての相談を強行することにした。

 毎日のように彼らの願いを聞いて従順に行動していたため、俺の願いはあっさりと聞き届けられて、すぐさま王様との対話の時間を用意してもらうことができた。俺は今、お城の謁見の間で王様と対面していた。

 魔王の脅威が去った今の状況が余程嬉しいのか、王様はニコニコと笑顔を絶やさない表情で見つめ返してくる。そんな彼に向けて、俺は聞いておきたいことをハッキリと質問した。

「旅に出る前に約束をした、帰還に関する魔法はどうなりましたか?」
「おう、そうじゃった。それなんじゃが、ソナタの魔王討伐を果たすのに要した期間があまりにも短く、まだまだ手付かずの状態なんじゃ。申し訳ない」

 謝りながら表情を申し訳なさそうにして、そう答えた王様の言葉。本当に積極的に動いてくれているのならば、何らかの進捗があるべきだと思ったし、手付かずであると言われたことに嫌な感じを受けた。だけれど、事実として魔王討伐を果たして戻ってくるまで2ヶ月程度しか経っていないので、何も結果が出ていないのは、まぁ仕方がないかと納得する。

 それに、帰還の魔法に関して言えば既に自前で用意できていたので二度手間にならずに済んだと考えれば、結果的に良かったと思うように自分で結論付けた。

「そうですか、わかりました。それじゃあ、自分で発明した魔法で元の世界に戻ろうと思いますので、手付かずのまま帰還の魔法の研究は中止にしてもらって結構です」
「な、なにっ!? 元の世界に戻る手段を自ら用意した、ということか?」
「ええ、そうですが。俺がこの世界に召喚された目的である魔王の脅威も去った今、目標達成ということで元の世界に帰らせてもらいます」
「ならん!」

 元の世界に戻りますと言った俺に向かって、王様が激しく怒り帰還を止めようとする。その様子に、やはりかと俺はため息をついた。

「魔王討伐を果たした貴様には感謝しているが、引き続き我が国の発展に協力してもらわないと困る」
「もともと、そっちが無理やり召喚してきたくせに。なぜ国民でもない俺が、あんたの国の発展に協力しなきゃならない」

 王様の語る勝手な未来の計画に、俺は異論を唱える。この国の人間でもなく、ましてや世界も違う場所から無理やり連れて来られて、魔王を倒せと命令されたのに文句も言わずに従い成し遂げた。それだけでも十分に貢献できていただろうに、更に働かされるなんて嫌に決まっている。

 王様らしい優雅独尊な考えに、俺は不愉快になり敵意さえ感じていた。そんな悪感情が口調にも現れるくらいに苛ついていた。しかし、そんな感情もお構いなく王様は断言する。
 
「それが勇者の役目だ」
「知った事か」
「ま、待て!?」

 一応、別れの挨拶にと報告だけしてから帰還しようと思ったが間違いだった。引き止められるとは思ったけれど、こんな強引な言葉で帰還さえ許されないとは思わなかった。口に出た言葉の通り、既にこの世界への関心を失った俺はすぐさま帰還の魔法を唱えて元の世界に帰ることに決めていた。

「その男を行かせるな! 何をしている兵士よ、その男を引っ捕らえろ!」

 王様の命令に側仕えの兵士たちが迷った。世界を救った英雄に対して、犯罪者を捕らえるかのような命令に動くべきかの判断に困ったからだ。

 俺その隙を見逃さずに逃げ出した。今の実力なら兵士と戦っても十分に勝てるだろうけれど、魔物を虐殺し続けてきて今更ながら無用な殺生は現代人として避けたかったからだ。

 謁見の間を飛び出し背中から聞こえてくる王様の怒鳴り声に、この世界から立ち去る最後だというのに見苦しい別れになって残念だという気持ちと、ようやく元の世界に帰れるという期待が胸に渦巻いていた。

 結局、城を走り抜け城下町も飛び出し人目の付かない場所まで走り逃げて、ようやく一息落ち着くと、すぐさま帰還の魔法を発動させるための準備を整える。

 見回して確認した後、呪文を唱えた。そして、俺の身体は光りに包まれた。

 

***

 

 その後、王国は魔王を倒して平和を取り戻した勇者に対して評価を下げるような悪い噂を流そうと動くが失敗して、国民に不信感を抱かせるような事が起こった。

 その後も、王国側は勇者を賞賛する人間を処罰したり、本当に活躍したのは勇者本人ではなく共に旅をした三人の仲間だったと嘘の事実を仕立て上げることで、国としての信用を無くしていった。しかも、勇者本人が姿を一切見せなくなった事により暗殺されたのではないかという、陰謀論まで語られるようになった。

 完全に信用を無くした王国は、衰退の一途を辿り果てはクーデターが起こって崩壊するという結末となる。

 王国が崩壊した隙を狙って領土拡大を目論んだ他国が攻め入り、その行動がキッカケとなって戦争が勃発することになる。魔王が死んで平和になったと思われた世界に、今度は人間同士が争う戦乱が巻き起こったのだ。結果的には、わずか10年足らずの期間しか人々は平和を保てなかった。

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