01 知られた召喚

「始まった」

 学校からの帰宅途中。突然、視界が遮られ目の前が真っ暗となったと思ったら、次の瞬間には真っ白な美しい光沢を放つ石造りの見知らぬ部屋に立っていた。巨大な広間だったが、この白く立派に見える素材は大理石だろうか。学生服の自分には不釣り合いな場所だと思いつつ、手に持っていた荷物を床に置いて辺り見回す。

「ようこそ、レイモンドへ」

 そう言って俺の目の前に現れたのは、海外の映画にメインヒロインとして出演している女優を彷彿とさせるような絶世の金髪美女だった。彼女は、その美しい容姿に負けないぐらい派手な純白のドレスを身に着けて、声を掛けてきたのだった。

「勇者様には召喚に応じて頂けたこと、非常に感謝いたします。そして、誠に勝手だとは思いますが我が国、我が国民達を救って頂けるようお願い致します」

 キラキラと輝く金髪が床へと付いてしまいそうになる程、頭を下げて頼み込んでくる彼女。その様子に俺は少しだけ心を痛めたけれど、特に手を差し伸べることもせずに、まずは状況確認を図った。

「すみません、突然のことで何が何やら。事情を説明して下さい」
「も、申し訳ありません。まずは説明が必要でしたね。私の話では詳細を語るのに不足してしまうかもしれませんから、王と宰相達が待っている場所へ案内します」

 俺が彼女の願いを了承も拒否もせず、まずは詳しい情報を話して欲しいと訴えると頭を上げて偉い人が居るという場所へと案内してくれると言って、召喚された部屋から移動することになった。

 実のところ俺は異世界に召喚される、という事を前もって察知して知っていた。だから今起こっている状況に対して、それほど慌てること無く落ち着いて対処できていると思う。

 けれど、一体誰がどんな事情で何を目的にして俺を召喚するのだろうか、詳しい内容までは把握することはできなかった。ただ、ある日突然異世界に召喚されるだろう未来を予知されて居ただけだった。

 だからこそまず、情報を集めることに専念した。ありがたいことに、目の前の召喚主と思われる彼女は今のところ友好的であり説明もしてくれるようだったので、案内には特に何も言わず付いて行く事に。

「こちらです」

 肘の先まで覆った華やかにデザインされた手袋を嵌めた彼女が、部屋に唯一の出入り口となっている装飾が豪華な扉を開けた。その先に広がっている光景を見た俺は、真っ先に自然豊かな場所だな、という意見が頭に浮かんでいた。

 床に置いていた荷物を取って部屋から外に出ると、レンガ造りの立派な通路に左右はきれいに整えられた庭園が広がっている。その先には中世ヨーロッパを思わせる見上げるぐらいに大きな城が建っていた。そして、城は周りは山に囲まれた場所にあった。

 廊下には、民族衣装らしき独特な格好をした老人と、鉄製と見て取れるガチガチの鎧で身を固め、手には長槍を持ち武装した兵士達が隊列を組んで待っていた。並んで立つ兵士達は、一言も発さず黙々と直立不動の姿勢を保っていたが、目線は興味津々というか何かを探ろうという視線が俺に集中しているように感じた。

 そんな彼らの中で、一番に強い視線を向けてきているのは老人だった。ジロジロと俺を見るのを止めようとせずに、先導していた彼女に近づいていき小声で尋ねていた。

「姫様、その男が例の?」
「勇者様に対して無礼です。彼こそ、我が国を救ってくれるかもしれぬお方。その不躾な視線もやめなさい」
「申し訳ありません、姫様」

 耳の良い俺には小声でも会話の内容が丸聞こえだったが、どうやら歓迎されている、という状況でもなさそうだった。

「お待たせしてしまい申し訳ありません、道はコチラです。もうすぐ到着します」

 そう言って、姫様は止めていた足を再び動かして俺の案内を再開してくれる。

「お荷物お運びしましょうか?」
「いや、いい。自分で運ぶから大丈夫」

 歩き出したら姫様の横に老人が付き添い、俺の周りには兵士たちが囲むようにして歩き出した。兵士の一人が俺の荷物に手を伸ばしてきたが、断って自分で運ぶ。

 まるで囚人を連れ歩くような雰囲気だと感じたけれど、それに対しても何も言わずに姫様の後を付いて俺は歩く。廊下には靴が廊下を叩く音、兵士の鎧がガシャガシャと鳴る音だけが響いた。

 

スポンサーリンク