第01話 そのゲームとの出会い

 僕の名前は、鈴木竜児。今年の春に、高校一年生になったばかりの16歳だ。何の変哲もないよくある鈴木という名字に対して、似合わないぐらいにかっこいい名前を両親から付けられた僕は、そんな名前のギャップを初対面の人によくイジられていた。

 けれど、それ以外には特筆するような特徴もないような僕は、平凡そのものという人物だった。

 勉強に関して言えば、テスト結果が順位の上位には入らないけれど、赤点も取らない程度という、良くも悪くもない位置に居た。運動神経も、注目をあびるような才能は無かったし、かと言って鈍くさくもない並程度。容姿も優れた感ではなく、人から貶される事は無いけれど、注目を浴びたことも無かった。

 それなのにコミュニケーションは少し苦手としていたので、学校でも入学式から暫くの間で友達のグループの中に入る機会を逸して、高校生の友達がほとんど居ないような状況。けれど、イジメに遭っているわけでもなくて、ただクラスの空気に馴染めていない具合だった。

 そんな僕の趣味は、テレビゲームをプレイすることだった。だから、学校でも部活に入らずに、授業が終わった放課後はすぐに帰宅して、自室に篭ってゲームを遊んでいる帰宅部というわけだ。こんなマイペースだからこそ、高校生の友達が少ないのかもしれないが……。

 このように僕のキャラクターは静かで、今までの暮らしも人並みで取り立てて話すような事件もなく、平凡そのものだっだ。だがしかし、僕のありふれたような人生が少しずつ、しかし確実に変わっていく出来事が起こった。それは……。

 

***

 

「おはよう」
「あら、起きたのね。朝ごはん食べなさい」
「わかった」

 昨夜遅くまでFPSゲームをプレイしていた僕は、寝不足で頭が働かないボーっとした様子のまま、二階の自室から家のダイニングルームへと降りてきた。そこには、エプロンを付けた母親が朝食を用意してくれていて、僕に早く食べるようにと促してきた。
 そんな母親の言葉に、僕は素直に返事をして席に着く。

 僕ぐらいの年頃は、反抗期で両親の言うことを意味もなく否定するような事があるらしいけれど、何故か僕は特に反抗するような感情は起きずに、ただただ素直だった。そんな様子だから、手のかからない子供で助かる、と母からよく言われていた。

 サラダをパクっと行って、パンを食べて、コーンスープを口に流し込む。食べ終わったお皿から、順々に母親がテーブルの上から取って台所に持って行き、洗剤で綺麗に洗っていく。

 母親は僕が朝食を取る前に食事を済ませていて、せわしなくお皿を洗ったりして家事をしている。父親も、僕が目覚めるよりも早く朝食を済ませて家を出ている。そして僕は一人っ子だったので、いつも朝は一人だけでテーブルについて、母親から見守られ促されるまま朝食を取るのが日常だった。

 そんなゆったりとした感じで、朝を過ごして脳が働き始めたら学校に行く。自宅から徒歩で約15分という、近辺にある公立高校だ。クラスメートの中には、電車通学やバス通学をしている人も居るらしいから、その人達に比べると通学はだいぶ楽だった。

「山田くん、おはよう」
「あ、うん。おはよう」

 自宅から一直線で学校に来る。教室に入ると、中列の少し後ろの方にある自分の席に脇目も振らずに向かう。席に座るとすぐ、右隣前の机に座っていたクラスメートの男子が、背中をグイッと振り返って朝の挨拶をしてくれた。
 それなのに僕は突然の声に思わず、無愛想な返事をするだけで黙ってしまった。

 コミュニケーション能力が高ければ、そのタイミングで声を掛けてくれたクラスメートと話を始められたのかもしれないが、僕が返事をした次の瞬間には声を掛けてくれた彼は、既に他のクラスメートとの会話に移っていて、機会を取り損ねて僕は黙り込んでしまった。

 そして無言のまま自席に座り、先程の挨拶で声を掛けられた時にどう返事するのがベストだったのか、今更になって頭を悩ませながら授業が始まるまで黙って、ただ黒板をボーッと眺めながら、考えるのだった。

 教科ごとに、高校教師が代わる代わる授業を行っていく。僕は、先生の話を耳に入れながら板書された文字を、自分のノートに書き写していく作業に集中した。

 授業中は、真剣な気持ちで先生の話を聞く時もあれば、授業とはまったく関係の無い事で頭を悩ませていたり、板書されたモノをノートに書き写すのだけに集中して、授業の内容を意識を集中させないまま気の抜けた状態で手だけを動かしたり。

 人生の目標があったならば、もう少し気持ちを集中させて授業を受けていたのかもしれないけれど、僕には特に目指すべき夢は持っていなかった。ただ、毎日を集中力を半分程度にして過ごすだけだった。

 授業が終われば、部活動があるクラスメートはさっさと教室を出ていき、他にも何かしらの用事がある人が同じように教室を出て行く。何人かは残って、教室の中央に友達同士で集まって会話を始め、盛り上がっているようだった。そんな様子中、僕には関係ないと黙って黙って出ていく。

 それから校舎を出て、部活動を始める準備を進めている部活動生たちの様子を横目に見ながら、僕も何か部活に入ったほうが良かったかもしれないなと、少し後悔の気持ちを抱いたりしながら、校門をゆっくりと歩き出て行く。そんなこんなで、15分後には家へと到着。

「おかえり、竜児。外から帰ってきたら手洗い、うがい。忘れないように」
「うん、わかった」

 母親の言うとおり、洗面所で手洗いうがいを済ませて、さっさと自室に篭もる。制服から部屋着に着替えると、すぐにテレビゲームを始める。夕食までの時間はもっぱら、テレビゲームをしていた。夕食を終えて風呂に入った後もテレビゲーム。

 

 そして、一日が終わるのだった。

 

***

 

「ん? 何だこれ?」
 ソレを目にしたのは、学校が終わって家に帰ったすぐ後、パソコンに送られてきたメールをチェックしていた時だった。

 送られてきたメールには、新作スマホゲームのテストモニターに当選したと書かれていた。更に本文を読み進めると、開発中のゲームの内容の詳細が書かれていたり、開発画面の画像が添付されていたりしていた。読み進めた最後に、スマホへインストールするためのゲームデータがあるという、サーバへアクセスするためのURLが書かれていた。

 だがしかし、その新作ゲームの情報は僕が一切聞いたことの無いものだった。

 もちろん、知らない新作ゲームのテストモニターに応募した覚えもなく、何故自分のアドレスに当選メールが送られて来たのかは謎だった。更に不可解なのは、その新作ゲームのタイトルをインターネットで検索して調べてみたのだが、一切何も記載された記事が見つからなかった。

「まだ、開発中だから情報を公開していない、のかなぁ?」

 テストモニターとしての当選メールも、僕がゲーム情報を集めるために登録したどこかのサイトからの情報を辿って送られてきたのだろうか、という風に自分なりに納得できるような結論を思い浮かべていく。

 更に、情報を探っていく。新作ゲームの開発元をしているらしい会社については、僕も知っていた。何作か有名なスマホゲームを世に出した、結構有名な所だ。僕も、そこから出されたゲームを何作かプレイした経験がある。そして、結構面白かった記憶がある。

 けれど調べても調べても、やっぱりインターネットに新作ゲームの情報が出ていないことが気にかかっていた。もしかしたら、新作ゲームを騙った詐欺メールなのではないか。そのゲームをスマホにインストールしたら、個人情報を抜き取られるのではないか。そんな不安があった。

「メールを読んでみたら、結構面白そうなんだけどなぁ」

 僕は、メールに記載されたインストールデータのあると書かれたURLをクリックするかどうか、非常に迷っていた。ゲーマーとして、新作のゲームについて非常に気になる。メールに記載された内容も、読んでいるうちにプレイしてみたいという気持ちが、ぐんぐんと大きくなっていく。

 だがしかし、詐欺の可能性も非常に大きかった。その危険性が心配で、プレイするのに踏みけれなかった。

「うん、危なそうだから止めておこう。……でもなぁ、うーん」

 腕を組んで、メールを眺めながら悩みに悩んでいた。それから一週間後、結局僕はスマホに新作ゲームのインストールするのであった。

 

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