第62話 入院生活

 精密検査を受けた結果、内臓には特に異常が見られず、手術後の状態も問題ないそうだった。後は、傷が無事に塞がり快復するのを待つだけだ。

 そうして約一ヶ月の入院期間、ほとんど病室で生活することになったけれど、色々とあって退屈すること無く過ごせた。

 毎朝、日野原先生が病室を尋ねて来てくれて、世間話等をしながら傷の状態を診察して下さり様子を確認してもらう、というのが日課となっていた。

 それから、午前中から午後にかけて毎日のように色々な見舞客が来てくれた。

 たとえば、家族の皆。香織さんは、本当に毎日のように病室を訪ねて来ていた。仕事が空いた隙間時間にも、無理をして病室を訪ねて来るほどだ。逆に毎日、コッチに来るのが負担ではないのかと心配になるぐらいであった。春姉さんも、そんな香織さんを心配していて、見張りのついでに僕の見舞いに来てくれた。

「優、母さんの事は気にせず、今は休むことに専念してくれ」
「わかった。気遣ってくれて、ありがとう」

 紗綾姉さんに沙紀姉さんの二人は、大学生活が大変だろうに、わざわざ時間を作って週に二三回は見舞いに来てくれていた。

 妹の葵は時々ふらっと病室にやって来て、僕と彼女の会話は少なめだが一緒に携帯ゲームをプレイして遊んだりして、コミュニケーションを取った。どうやら彼女なりの方法で、僕を気遣ってくれているようだった。

 家族以外にも、友人の圭一が授業終わりにわざわざ来てくれたり、担任である加藤先生が様子を見に来てくれたり、部活仲間の鏡桜さんや、卒業して大学生になっていた料理部部長さんも事情を知って駆けつけてくれた。

 大海さんや野辺地さん、他の商店街の皆も僕の病室に顔を出してくれた。けれど、僕が入院したての最初の頃は、事件が起こった原因の一端を担っているのは、自分たちが宴会を開いた事に有るのではないか、と気に病んで決まりの悪そうな表情をしていた。僕は神谷さんに語ったように、とにかく皆が責任感を感じる事は無いと何度も繰り返し説得した。

 それに、これから商店街を更に盛り上げていこうという時に僕は入院してしまって、手伝いが出来なくなり迷惑を掛けている。謝らなければならない事は、僕にも有ると語ると彼女達は大きく首を振って僕のせいでは無い、迷惑なんて思っていないと否定してきた。

 結果、この話し合いは不毛な議論だという結論に至り、僕達の間では今回の事件について謝り合うのはやめよう、という事になった。

 あとは、事件の調査のために二人の女性警察官が病室に訪問してきた事もあった。彼女達は、非常に低姿勢に「私達で、お話を伺ってもよろしいですか?」と確認してきたので、大丈夫ですと返事をすると、ホッと一安心の表情で質問を始めた。

 事件が起こる直前の事、呼び止められた時に見た女性の様子、そして刺された時のこと。覚えている限りの詳細を彼女達に伝えた。

 その後、僕の証言が終わると、お返しだというような感じで彼女達の口から事件の詳細を教えてもらった。ソコまで話して良いのだろうか、と疑問に思ってしまうほど事細やかに。

 聞いたところによると、僕を刺した女性は商店街の近くにある地元スーパーの店長を務めている、という人物らしい。

 そして事件を起こした動機について、地元商店街の盛り上がりにより地元スーパーの方の買い物客が減少し、売上が落ち込んだいった。何とか地元スーパーの売上減少を食い止めなければならないと頭を悩ませて、商店街が盛り上がり集客できたキッカケとなった僕の存在が、地元スーパーにとって邪魔だという考えに至ったという。
 そうして、僕を排除しようと何度か待ち伏せて事件を決行した、と語っているそうだ。

 けれど、彼女は傷害事件を起こした後に僕の父親である人の元へ向かい、数日間匿われていたらしい。息子を刺した後、その父親に会いに行くなんて。しかも元愛人関係で、数日間も匿っていたなんて無関係とは考えにくい。

 そんな訳で、今回の事件に父親が何らかの関わりが有るのではないかと警察は取り調べているらしいけれと、彼は関与を否定し続けている。しかも、男性保護法を盾にされて警察では無理押しでの取り調べが出来ずにいる、警察官である彼女達から疲れきった表情で愚痴られてしまった。

「という事で、今回の傷害事件の犯人は私達警察が既に取り押さえているから、不安がらずに快復に集中してね」
「今回のような事件が今後は起きないように注意するから、佐藤さんは心配する必要はありませんよ。万が一、何か起こったら警察に連絡をください」
「えっと、ありがとうございます」

 二人の警察官は親身になって不安を取り除く為なのか、早口で危険も無くなって安心できるという事情を説明してくれた。加えて、もしもの場合の最初方法を忠告してくれたり、色々と話しをして、退室していった。

 こんな風に、僕の一ヶ月の入院生活は何事もなく順調に過ぎ去り、傷も完全に癒えて痛みも無くなったので退院することになった。

 

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