第58話 お祝い

「今日で、佐藤さんの職業体験の授業が終了という事で、彼のお疲れ様会を開きたいと思います。では、かんぱーい!」

 商店街の関係者である女性達が集まって居酒屋を借り切り、宴会が開かれていた。彼女達は酒の注がれたジョッキを片手に、会長の大海さんが乾杯の音頭を取った。

 今日は、学園の授業の一環である職業体験の学習期間が終了した夜だった。授業が無事に終わって、単位を貰えるのが確実となり、ソレを祝うために商店街の皆が集まってお疲れ様会を開いてくれたのだ。

「かんぱい、お疲れ様」「かんぱい、良かったねー」「カンパーイ! おめでとう!」

 大海さんの一声で、辺りの女性達がグラスをカーン! と合わせて乾杯と言い合う声と、僕を向けた労う言葉を口々に言ってくれていた。

「ありがとうございます、皆さん」

 今回の集いには、僕の職業体験先として受け入れてくれた神谷さんはもちろん、商店街の復興を目指して一丸となって頑張った人たち、会長の大海さんや、野辺地さん、そして波々伯部さん。他にも、商店街の各店を回って接客した時に仲良くなった女性達など合計数十人もの人達が集まっていた。

 未成年の僕は、残念ながらお酒ではなくオレンジジュースを手にして、彼女達からの歓待を受けている。極力、ビール瓶から目を離して食事に集中して楽しもう。

「いやぁ、本当に、うちの商店街を選んでくれてありがとう。佐藤くんは、この商店街の救いの神だ」
「いえいえ、そんな」

 大海さんは満面の笑みでぐびっと酒をあおるように飲みながら、片手で僕の頭を抱え込みヨシヨシと髪を撫でてきた。身長差があり、見た目以上に力が強い彼女からは逃れられそうにないので、僕は無抵抗で彼女のなすがまま何とか答える。

「商店街の復興は、僕だけの力じゃないですよ。職業体験先として僕を引き受けてくれた神谷さん、真っ直ぐに商店街の手伝いを要請してくれた大海さん、そして率先して動いてくれた野辺地さん、その他にも皆が一丸となって商店街の為にと活動したのが成功した要因だと、僕は思います」
「そんな風に思ってくれているなんて、本当に嬉しいよッ!」

 大海さんは、僕の言葉を聞いて歓喜に酔っているようだった。でも、僕の嘘偽りの無い本心からの言葉だったので、少し恥ずかしいと感じたけれど伝えておきたかった。

 そして、僕の頭を掴み喜んでいる大海さんの他にも、僕の言葉を側で聞いていたのか、皆が僕達の方へ視線を向けて喜びいっぱいの顔をしていた。

「ほら、たかみ。それ以上やったら、流石に佐藤くんでもセクハラで訴えられるわよ」
「あっ、ごめん。 はしゃぎ過ぎた、まだ学生の男の子に、こんなに接触したらマズかったな。 申し訳ない」

 野辺地さんの指摘に、頭から水を浴びせられたかのように表情を硬直させた大海さん。そして、次の瞬間には頭を下げて謝られる。

「そんな、頭を下げないでください! 僕は大丈夫ですから」

 こんなに楽しい場を乱すような事は、起こってほしくなかった。そして、大海さんには引きずって欲しくないと慌てて彼女の行動を許す。それにむしろ、抵抗しなかった僕の方にも大きな責任があるだろうに。
 未だに常識的な男女の距離感を上手く取れない僕は、先程の大海さんの接触を拒むべきだったかと、反省する。

「ところで、最近の商店街の状況はどうですか?」

 雰囲気を変えようと、僕は急いで別の話を振ってみた。すると、大海さんが気を取り直して商店街の近況について、詳しく説明してくれた。

「以前は、全然通りに人が居なくて近寄りがたい雰囲気が漂っていたから、利用しにくかったけど、最近は利用する人も増えて来ていて、気軽に立ち寄りやすくなったって」
 大海さんが、お客様から聞いた商店街の印象を教えてくれた。

 僕も、最初に学園の先生と一緒にクローリス洋菓子店へ来た時には、閑散としていて暗い雰囲気を感じ取っていたのを思い出した。そして、今では雰囲気がガラリと変わり、入りやすい商店街に変わったと大海さんの語った意見に同意する。

「おかげさまで佐藤くんが居ない時にも、うちの花屋を利用してくれる常連さんが増えたよ」
「私の店も、今年になって、と言うか数年ぶりに冷蔵庫が売れたわ」
「洋菓子店も、もちろん佐藤くんが店に居るときに一番お客様が入るけれど、それ以外の時間でもお客様が来てくれるようになったわ。以前からは、考えられない状況になってる」

 野辺地さんの花屋、波々伯部さんの電気店、神谷さんの洋菓子店、各店の状況を知らせてくれた。

 加えて、回りにいる他の女性達からも、うちも景気が良くなった、新しい常連客を掴めた、店を畳まなくて済んだ、等など前向きな報告を沢山聞くことが出来た。

 商店街は、無事に復活することが出来たようで、本当に良かったと僕は胸をなでおろす。

「あー、その、頼ってばかりで申し訳ないが、引き続き商店街の為に手伝ってくれるとありがたい」
「はい、もちろんです」

 大海さんに再び要請されて、僕はすぐに了解という返事をする。手伝うと決めたあの時には既に、職業体験の授業が終わった後も手伝おうと考えていたから。

 商店街は大いに盛り上がっていて、今更僕の力が無くても後は皆の努力次第で、より一層この商店街は活発になって行けるだろう。けれど、僕は出来る限り最後まで一緒になって商店街の行く末を見て行きたい、と感じていたから。

 こうして、僕の職業体験の終わりを皆に祝ってもらうのに加えて、商店街の復活を祝いながら全員で宴会を楽しんだ。

 

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