第57話 活動経過

 商店街を復興させる為にも、もっと多く時間を掛けて彼女達と一緒に活動しようと僕は決めた。という訳で、職業体験として限られた時間以外にも、学園の授業が終わった放課後等の時間も使って、商店街に赴いて手助けをしていた。

 けれど、そればかりに時間を掛けている訳にもいかなかった。平日の、職業体験の授業以外では各科目の通常授業があるからだ。そしてタイミングの悪い時と言うべきか、学生としては仕方のない事だけれど定期試験の予定も有ったので、そちらの対処にも時間が取られていた。

 つまりまとめると、学業に商店街のお手伝いにと充実した日常を過ごしていた。


***


「どうだった、試験の結果は?」

 つい先程、教師から返却されたテストの答案用紙を片手に持って、僕の席近くまで尋ねてきたのは、男友達の圭一だった。

 近づいてきた彼の表情は暗く、声も普段より小さめで、見るからにテンションが低い事が分かる。どうやら、今の圭一の様子から察するにテストの結果は良く無かったようだ。

「こんな感じ」

 僕は見直していた答案をクルリと、圭一の見える方向に向けて返事をした。僕のテストの結果は、幸いにも平均点を超えて少し高めの点数だった。

「なかなか、良い点じゃん。優は真面目だねぇ。こっちは、こんな感じ」
「うわっ、赤点ギリギリだね」
「まぁ、なんとか凌げたからオッケーという事で」

 一応僕は、大学まで卒業したという記憶を持っているので、高校生が学ぶ範囲の勉強ならば復習して内容を思い出すような感覚で、簡単に理解できた。

 周りが努力して良い点を取ろうと勉強を頑張っている中で、自分だけズルをしているような気持ちになり、少しだけ罪悪感を抱いてしまう。けれど、その記憶があったからこそ商店街を手伝う時間を多く取れたので、有り難いとも感じていた。

 それに、記憶を持っているからこそ混乱してしまう教科、例えば日本史や世界史等の知識に関して言えば、思い違いを無くすために入念に復習をしないといけない。という事も有るので、結果的に記憶を持っている良い面も悪い面も、どっちも有った。

「それよりも、確か優は商店街の手伝い、学校の時間外もしてるんじゃなかったっけ? よく、テストの勉強する時間があったね」
「両立できるように計画を立てて、うまい具合に頑張れたからね」
「そんなんだ。まぁ、あんまりあっちの方には深入りしないほうがいいよ。商店街の人達の手伝いも程々にね」
「うん、心配してくれてありがとう」

 圭一には商店街の危機に関して話してあったので、少しは事情を知っている。だがどうも、僕が商店街の彼女達を手助けする事に関して良くは思っていないらしい。

 度々、深入りしすぎないようにと忠告を受けていた。そして、今回もテストの結果に絡めて、やめるように促そうとしたのかもしれない。けれど、僕が彼の予想以上に良い点数を取っていたから、思ったようには忠告できなかった、という感じだろうか。

(うーん。自分では、そんなに負担に感じていないけれど、周りから見たらやっぱり心配になるのかなぁ?)

 友人の圭一と同様に、母親である香織さんにも常に心配するような言葉を毎日掛けられていた。春姉さん達、他の姉妹からも香織さん程では無いし言葉には出さないが、気遣わしげな視線を毎日会うたびに向けてくるのをヒシヒシと感じていた。

 圭一が僕の調子を心配して、商店街の手伝いはやめるように言ってくれているのも理解している。けれど、今更面倒だからと言って彼女たちの手伝いをやめることはできない。

 一番心配かけさせてしまうマズイ状況は、過労で倒れてしまうことだろうか。
 自覚は薄いけれど、前に入院していた事もある。もう一度倒れて入院してしまわないように注意して、自分の体の調子を逐次チェックしていこうと、心にしっかりと留めておいた。


***


「こんにちは、波々伯部さん。お疲れ様です」
「あら、こんにちは。思ったより早く来てくれたわね。制服の準備は出来ているから、奥で着替えてきて」

 学園の授業が終わり、今日も寄り道せずに商店街に到着。本日は、波々伯部さんが店主をしている電気店での接客のお手伝いだった。

 波々伯部さんとは、顔を何度か合わせているけれど、二人きりになることは無かったし、直接会話することも何度かしか無かったので、少し緊張していた。

 大海さんや、野辺地さんに比べると、どちらかと言えば控えめで前に出ない印象の人だったので、無口な人なのだろうと勝手に思っていたけれど、意外と普通でスムーズに挨拶を返してくれた。

 僕がイメージていた波々伯部さんの性格とは、少し違うのかもしれない。

 彼女の事について考えながら、用意されているという制服の置かれている部屋へとやって来た。そして、僕は部屋の中央にポンと置かれているソレを見て、困惑する。

「……もしかして、制服ってコレなんだろうか?」

 アイドルが着るようなド派手なフリフリの装飾が付いたジャケットに、首元に巻くためのものなのか、大きなファー、そして上半身を際だたせる為なのかシンプルな半ズボン。電気屋には似つかわしくない、何かのアニメのコスプレのような現実離れした衣装。

 一応、部屋の中を見回してみたけれど他に僕が着れるような服はない。と言うことは、波々伯部さんの用意した制服はコレなのだろう。

「一応着てみたけれど、やっぱり落ち着かないな」

 かなり派手な洋服に、気持ちが慣れない。ソワソワとした感情を何とか落ち着かせて、すぐに接客に出ることにした。集中して働いていたら、すぐに気にならなくなるだろうから、と自らに言い聞かせて。

「ぁ、き、着替え、終わった、のね……?」
「はい、なんとか……」

 着替えた僕の姿を、上から下に、そして下から上に視線を動かして観察してくる波々伯部さん。何故か彼女も、僕の姿に困惑して言葉に詰まっていた。まさか着方を間違えたか、それともおかしな部分があるのか、と不安になった。

「じゃ、簡単に接客方法を教えるから」
「はい、おねがいします」
 波々伯部さんは、先程の困惑した様子が無かった事だと言うように切り替えて、すぐさま電気店での接客方法について簡単なレクチャーをしてくれた。そして、説明だけ受けるとすぐに店内に出るように指示される。

 電気店という、日常的には買い物に来ないようなお店でも、僕が接客に出たら外で様子を伺っていたお客様が、すぐに店内へと早速入ってきた。

「あ、あのッ、電池を探しに来たんですけれど……」
「はい、こちらにあります。どの種類をお求めですか?」

「えーっと、電球は、どこにありますか?」
「はい、電球はあちらの棚に各種取り揃えてありますよ」

 僕が商店街の各店を回って接客し、店ごとに制服を変えていくという大海さんの企画は、今のところ大成功だった。

 色々な制服に着替えて接客をするという僕の姿を見たいというお客様が、連日商店街を訪れてくれた。そして、毎回違うお店に居るという事で各店が賑わい始めていた。徐々にだが、確実に商店街全体が以前と同じような活気を取り戻してきていた。

 ちなみに今回の違和感のある制服も、お客様に好評のようでした。

 

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