第56話 再生に向けて

「ありがとう、佐藤くん」
「いえ、僕の力が少しでもお役に立てれば幸いです」

 野辺地さんの頭を下げての必死なお願いに、僕は商店街のためにならと了承するという返事を返すと、下げていた頭を勢いよく上げて嬉しそうな、少し涙ぐむような声で改めて感謝の言葉を彼女は口にした。

 僕達の状況を見ていた他の三人の女性達も、僕の返事に対して先ほどの暗い表情が一転して、明るく朗らかになっていた。彼女達の様子を見て、僕は商店街のために協力を申し出たことに間違いは無いと確信していた。

「実は、既に佐藤くんに協力を頼んで引き受けてもらった時の、色々な方策を考えていたんだ」

 野辺地さんは、少し潤んでいた瞳を誤魔化す為なのか、指でメガネをクイッと上げて直しながら姿勢を正すと、今後について、僕の協力の下に商店街を再生させる為に練ったというプランについて説明を始めた。

「地元のスーパーと、商店街。この二つを比べて強み、弱みを考えてみたの。スーパーは商品の種類がたくさん有って、価格も商店街に比べて安く買える。一つのお店で、欲しいものがほとんど買い揃えられる」
 野辺地さんはまず、スーパーのメリットについて語った。確かに、大量に仕入れをして価格を抑えるスーパーに対して、個人商店では値段の太刀打ちをするのは難しいだろう。そして、商店街の場合は欲しいものを買い揃えるのに、例えば八百屋や魚屋、肉屋など幾つかのお店を見て回らないといけないのがデメリットか。

「ただ、スーパーではお店の人との交流はほとんど無くって、レジを通すのも機械的で人間味というか、あたたか味がない」
「逆に言えば商店街の一番の強みになるのが、買い物を通して人との交流、というか人情味がある、ってことだろうな」
「そう、だから商店街にある強みを磨いていけば良い」

 野辺地さんと大海さんの二人が、議論をしながら今後何をするべきなのか確認していく。そんな二人の会話に、僕は疑問を挟む。

「具体的に、一体何をするつもりなんですか?」
「やっぱりまずは、お客様に来てもらうこと。商店街に来てもらう目的を作ること。そして、その為にも佐藤くんに協力してもらいたい」

 野辺地さんが僕を見据えながら、具体的に何をしようとしているのか語る。

「つまりは、佐藤くんには商店街に有る各店についてもらって接客してもらいたいの。神谷さんから、君を横取りしてしまって申し訳ないと思うけれど、それで各店に人が来るハズ」
「神谷さんのクローリス洋菓子店以外で、この商店街の中にあるお店に出て接客をする、という事ですよね?」
 僕の理解が正しいというように、野辺地さんが頷く。
 職業体験という名目上、今まではクローリス洋菓子店で店員として接客をしてみる学習を行っていた。それを、商店街の各商店に範囲を拡大して接客してみてほしいという要請だった。そして、彼女は更に言葉を付け加えた。

「そして、お店ごとで接客する時に用意された特有の制服を着用してもらいたい。例えば、私の花屋に出てもらう時には、コレ!」
 そう言って、野辺地さんが手に持って出してきたのは首掛けの真っ赤なエプロンと、真っ白なシャツ、そして裾がほとんど無い極端に短いホットパンツだった。

「おい、薫。それ、ただ単にお前の嗜好ってだけで履かせたいから、じゃないだろうな?」
「そ、そんな短いズボンを履いたら、佐藤くんの生足が全部出てしまうわ。まだ学生の彼に、そんな格好をさせるなんて可哀想よ」

 野辺地さんの持ち出した服装を見て呆れる大海さん、破廉恥だと反対する波々伯部さん。すかさず野辺地さんが反論する。男性の生足がどうやら需要が有るみたいだけれど、どちらかと言えば背が率い僕では幼く見えるだろうし、そちらの方が心配だった。

「いやいや、確かにコレは私の趣味が若干は入っているのに否定はしないが、色々と考えて行き着いた結果でもある。これなら商店街の集客率は一気にアップするハズ! どうだ? やってくれるか? 佐藤くん!」
「えっと……、それぐらいの服装だったら大丈夫ですよ」

 興奮して顔を赤らめるほどの野辺地さんの主張に、一瞬気負されて断ろうと頭を過ぎったものの、商店街のためになるならと、足を出すぐらいなら平気だと考えて、制服を受け入れる。

「ありがとう、佐藤くん! 君には大きく負担を掛けてしまうだろうし、本当に申し訳ないけれど、今考えられる商店街のための一番の方法は、やっぱりコレしか無いと思う。改めて、本当に協力してくれてありがとう」

 僕が商店街のための協力を了承したことで、商店街の復活に向けて洋菓子店以外のお店でも接客することが決定した。そして、お店ごとに用意された制服を着用して接客することも決定した。

 大海さんや、波々伯部さんの口から小さく漏れ聞こえてくる、レース、スカート、フリフリ、和服……、と言うような単語が耳に届いて、あっさりと了承してしまったことに少しだけ後悔と、一体どんな服を着せられてしまうのだろうという不安を抱きつつ、出来る限り頑張ろうと決意を新たにした。

 こうして、ようやく商店街を復興するため考えられた新しい方法について情報共有が終わり、翌日から早速行動を開始した。

 

スポンサーリンク