第55話 問題点いろいろ

 クローリス洋菓子店にはお客様がやって来るけれど、肉屋や八百屋、魚屋など他の店に彼女達が立ち寄る様子はない。それが、商店街の現状だった。

 一部だけ客足が戻って問題が改善されたとしても、全体が駄目なままなのである。しかも、洋菓子店だっで僕という客寄せが無ければ、以前の寂れた状態に戻ってしまうかもしれない。根本的な解決は、未だに出来ていない状況なので何か対策を考えないといけない。

 商店街の復興を目指して、会長である大海さんや他の商店街の皆さんは精力的に色々な活動をしているようだった。

 手作りのチラシを作って、近所に住む人達にセールのお知らせを配ってみたり、商店街の入り口を飾り付けしてお客を呼び込んでみたり、福引で商店街の販売促進してみたらしいけれど、残念ながら大きな成果は出ていないという。

 そんな彼女たちの動向について、僕は職業体験をさせてもらっている僅かな合間に神谷さんからどうなっているのか、情報を聞いていた。

「商店街の告知やイベントとか、色々とやってるけれど残念ながらどれも駄目みたい。もっと、お金を掛けて大々的にできれば良いのだけれど、商店街で集めてる商会費、使用する為の許可が下りないらしいわ」
「許可? 今も結構深刻な状況だと思うんですれけど、他に使いどきなんて無いんじゃ……?」

 色々と試行錯誤しているけれど、やっぱり何事にも限界がある。そして、商店街でイベントを行うのにお金が足りていないという。

 この商店街で一世代前に商売していた人たち、つまり商店街前会長だった人や前運営委員の人たちが、商店街の運営のために徴収していた商会費が有るらしいのだが、それを使う事に関して頑なに反対しているらしい。

 お金が絡むことなので、商店街の現会長である大海さんであっても一部だけの判断で商会費を使用することは出来ず、話し合いで何とか皆の了承を得ようとするが上手くは行っていないらしい。

「そんな訳で、今のところ商店街を盛り上げようと考えていた色々な作戦も手詰まりになっている、って訳」
「今も変わらず、厳しい状況のようですね」

 商店街の皆が活発に行動していると話を聞いていたので、何かしらの進展は有るかもしれないと僕は考えていたけれど、それは楽観的過ぎたらしい。

 神谷さんは、商店街の状況を伝え終えると深い溜め息をついていた。商店街復興のために考えて実行してみた施策は効果が出ず、商店街の復興に非協力的な人も多いらしい。
 話を聞いているだけの僕でも、気分が落ち込んでしまうくらいに今の商店街の状況は悪い。

 今もクローリス洋菓子店の外にある通りに視線を向けてみたけれど、お店にある前の通りに人は歩いていない。平日とは言え、買い物客がこれほど居ない商店街は誰が見ても危機的状況だということが簡単に理解できた。


***


 商店街の現状について教えてもらった前回と同じ喫茶店にて、同じメンツが集まって商店街復興の状況や今後について、話し合いが行われていた。そして、再び僕は話し合いの席に招かれていた。

「とにかく効果が出るまでイベントを繰り返し行なって、客足を戻すキッカケを沢山作っていけば良いんじゃないか?」
「お客様が商店街に来る目的も意味も薄いのに、イベントを乱発しても客足が以前のように戻るとは思えない。それこそ、時間と費用の無駄になってしまう」

 会議が始まるなり、熱くなって発言する大海さんに、冷静さを保って反論する野辺地さん。そして、二人のそばに座り困った表情で話し合いに割り込めるような雰囲気も無く眺めるにとどめている、波々伯部さんに神谷さん、そして僕。

 二人の会話の中で、商店街を復興するためになるような画期的なアイデアは、未だに出てこなかった。

 少しの間、二人だけの話し合いは続き、これでは埒が明かないと気づいたのか野辺地さんと大海さんが話し合いを一旦やめて、今の状況について整理するためなのか、僕に状況を改めて詳しく教えてくれた。

「色々とやってみたけれど、どれも全滅。もっと大きなことをやろうと考えてみても、前会長の老人達は商会費を使うのに反対しているからね」
 両腕を前に組んで、忌々しげに語る大海さん。

「前会長の反対する意見として、何をやっても無駄に終わるのが目に見えてるからって、代々集めてきた商店街会費を無駄に消耗するだけだから、許可を出せないだってさ」

 野辺地さんは、前会長がなぜ商会費という商店街の為になるように集めた筈の会費を、今回の為に使用することを反対しているのか理由を教えてくれた。そして、続けて反対している人たちを批判するような発言をする。

「本人たちは、そんな意識は無いだろうけれど……。今までずっと続いてきたからって理由で、商店街を変化させることを極端に嫌がっているのよ。いや、恐れているのかな……。とにかく、彼女達はすごく非協力的になっている」

 わざわざ集まり話し合ってみても、結論は出ない。行き詰った会議に、皆の雰囲気が悪くなってくのを肌で感じ取れるぐらい空気が淀んでいく。

 そんな重苦しい空気の中、何かを決意したような表情をした野辺地さんが僕に視線を向けてきた。

「申し訳ないけれど、私たちはアイデアも時間も、お金さえも極々僅かしかない。後は、佐藤さんという切り札しか残っていない」
 鬼気迫るような表情で、野辺地さんの話は続けられた。

「以前、洋菓子店の店員だけやってもらえれば良いと言ったけれど、そう言っていられない状況まで私達の商店街は追い込まれてしまっている。もう少しだけ、佐藤くんの手を借りられないだろうか。どうか、商店街を助けてくれないか。お願いします」
「あ、頭を上げてください、野辺地さん。もちろん、僕はこの商店街の為に喜んで活動させてもらいますよ」

 野辺地さんがテーブルの上に額が引っ付くぐらいまで頭を下げて、心の底からの頼み事に僕は勿論助けると了承の言葉を口にしていた。

 

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