第54話 商店街の反応

「ありがとうございました」

 頭を下げて、商品を購入してくれたお客様を見送る。店を開店してから、神谷さんの予想通りひっきりなしに女性客がやって来て、用意していた商品は次々に購入されていった。

 そして、先ほどのお客様が購入した分で、神谷さんが朝から準備しておいた商品は全て売り出してしまって、午前中は店を一旦閉める事になった。

 クローリス洋菓子店は、大盛況であった。

「お疲れ様、佐藤さん」
「あ、神谷さん。ありがとうございます」

 商品が全て売り切れてしまったために、新たに店頭に置くための商品を準備していた神谷さんが、コックコート姿で店頭まで様子を見に来て、労いの言葉を掛けてくれた。

「大丈夫だった?」
「えぇ、思ったよりも混乱は少なくて、問題も起きませんでしたよ」

 危惧していた不測の事態は全く発生せず。起きる気配すら無くて、問題は一切無かった。
 お客様は、レジ前に規律を守って順番通りに並んでくれていて、僕も落ち着いて対処する事ができていた。しかし、神谷さんにはそう見えていなかったようで、ある心配事を指摘してきた。

「……えっと、さっき覗いた時に、手をギュッと握られたりしてたでしょ? セクハラとかは、我慢してまで対応しなくても良いから」
「手、ですか?」
 確かに、お釣りや商品をお客様に渡す時に手が接触することは有ったけれど、セクハラだと思うほどでも無かったような……と、僕は考えていた。

 けれど、神谷さんからすれば、女性が見知らぬ男からお尻を触られ、セクハラされたのを見たかのように感じるぐらい、だったのかもしれない。その事で、神谷さんに注意される。

「店員として女性を邪険にせず、対応良く接してくれて店の評判を高めてくれるのは、とても助かるけれど、あんな時は男子として毅然とした態度で拒否しなさい」
「は、はい。わかりました」
 自分は大丈夫だったと伝える前に、神谷さんからの指導が入った。僕の事を思ってくれての忠告だと分かるので、それについては反論せず聞いて、今後はできる限り接客に関して注意はしておこうと心に留める。

 午前中の仕事ぶりを神谷さんと話していると、店内に二人の女性が声を上げて入ってきた。

「こんちわっ!」
「こんにちわ」
 大柄で活動的な女性と、メガネを掛けた知的な女性が二人。先日、喫茶店で食事を一緒にして商店街のことについて話し合った、あの女性二人だった。

 挨拶の声が身体の大きさ見合った声量をしている大海さんと、穏やかな声で挨拶をする野辺地さん。二人は、声の様子と違って表情を暗くしていて、どんよりとした雰囲気を醸し出していた。

「あ、こんにちわ。大海さんに、野辺地さん」
「お疲れ様です、会長に副会長」

 コック帽を取って返事をする神谷さん。大海さんが商店街の会長だということは、先日の自己紹介で聞いて知っていたけれど、野辺地さんも副会長と言う役目を任命されているとは知らず、たった今神谷さんの言葉によって情報を得ることになった。

 そして、大海さんと野辺地さんの二人に謙って対応する神谷さんの、立場の違いを認識していた。

「いゃー、お客さん、いっぱい店に来ていたようだね。見てたよ」

 大海さんは、明るい口調で話そうとしているようだけれど、表情は暗いまま変化させることが出来ていない。だから、褒められているのか、それとも皮肉られているのか分かりづらい。

「やはりと言うべきか、佐藤さん目当てだから、一目見たら商店街に有る他の店には見向きもせず、お客様は帰ってしまった」

 判断に迷う大海さんの言葉の後に、野辺地さんが観察した結果を話していた。彼女の話を聞いて、二人の表情が暗い理由が分かった。
 どうやら、商店街に人は集まったようだけれど、洋菓子店にだけお客様が集中して来ていて、他の店には寄らず。そして、彼女達のお店にも来ないで帰ってしまったから、だろうか。
 
「えっと、その……。そうなのですか?」
 恐る恐ると言った風に、神谷さんは二人に尋ねていた。商店街に人は来て、洋菓子店だけが大盛況だった事で、申し訳ない気持ちで一杯と言った感じだろうか。

「佐藤さんという男性店員に、想像以上の集客能力が有るが分かって良かったのですが、ソレを活かして商店街再生に繋げることが出来ていない」
「ゆっきーの言った通り、佐藤くんだけに頼って、人を集めるだけじゃダメだって事だな」
「何か、各店に興味を持ってもらえるような仕組みを考えないと駄目ですね」
 三人の大人の女性達が、商店街の再生に向けて何かできることは無いか真剣に考えている。

「とりあえず、次回の会合でアイデアを出し合ってみようか。それじゃ佐藤くん、午後も職業体験の勉強頑張って」
「お疲れ様」
「ありがとうございます」

 ねぎらいの言葉を僕に向かって言ってから、二人は店から出ていった。洋菓子店の様子を伺うために、そして商店街の今の現状を神谷さんと僕に伝えるだけ伝えると、自分たちの店に戻って行ってしまった。

 さて、どうすれば集まったお客様が商店街の各店に興味を持ってくれるのか、考えてみないといけない。
 何か、いい方法は無いだろうか……。僕は、商店街が再生に向かえるようなアイデアを考え続けた。

 

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