第06話 夕食

 1階に降り、ダイニングルームに入るとテーブルを挟んで、二人の女性が言い争っていた。

「だから、朝頼んだのにやらなかったあんたが悪い!」
「私は分かったとは言ってないわ。あなたが勝手に頼んだだけ。私がやる義務はないわ」
 一方は、茶色っぽいショートヘアで日に焼けた勝気そうな女性。もう一方は、真っ黒なロングヘアに真っ白な肌の女性。
「たまに手伝ってやってるんだから、俺のいうことも聞けよ!」
「勝手に手伝ってるだけでしょ。私は頼んでないわ」
 夢中で言い合っているので、僕には気づいていないようだ。

 ポンポンと肩を叩かれ振り返る。春お姉ちゃんだった。
「どうした?」
「あの、ケンカしてるよ」
 二人が誰かわからなかったので、状況だけ伝える。
「いつものことだ。ケンカばかりで本当に仲が悪い。それよりも二人のことはわかるか?」
 わからないので正直に答える。

「わかんない。春お姉ちゃん以外に、あとお姉ちゃんが二人いるって聞いたけど、二人がそう?」
 見た印象で、高校生ぐらいだろうと見当をつける。僕が今高校1年生らしいから、僕よりも上だろう。

「そうだ。ショートヘアの方が、沙希。で、ロングヘアのほうが紗綾。双子で、沙希がお姉さんだ」
「似てない……」
 僕のつぶやきが春お姉ちゃんに伝わったり、答えてくれる。
「二卵性双生児らしくてな。見た目も、性格も正反対になっているよ」

「あっ、優!」
 ショートヘアの女性が、言い争いをやめ僕に向かってニカッと大きな笑顔で言う。

「帰ってきたんだ、心配したんだぞ!記憶喪失だって母さんから聞いたけど大丈夫か? 俺のことはわかるか?」
「えっと、沙希さんの事は春お姉ちゃんに聞きました」
 距離感がまだわからない、沙希さんに対して敬語で話す。

「そっか、俺のことも忘れてたか」
 がっくりと肩を落として、しょんぼり声で言う。すぐに、ズバッと春お姉ちゃんに指をさす。

「それよりも!ねえちゃん、優に近い!」
 沙希さんに指差された、春お姉ちゃんは僕の両肩に手を置き、顔を僕の耳に近づけて聞いた。

「優は嫌かい?」
「い、嫌じゃない……です」
 姉とは言え、今日あったばかりの女性なのでドキドキした。

「だ、そうだ。優が良いって言っているから良いんだ」
「ぐっ」
 沙希さんが呻く。
 すると、今まで黙っていた紗綾さんが急に僕に近づくと、僕の手を掴む。

「こっちに来て」
「ちょ、ま、待てって!」
 沙希さんの言葉を完全に無視し、手を引っ張って僕をテーブルの席に座らされる。横の席に紗綾さんが座る。手は繋いだまま。

「私のことは、春お姉様に聞いた?」
「えっと、さっき聞きました。名前は紗綾さんだって」
「そう、それじゃあ私のことは、沙綾お姉様と呼びなさい」
 なんとなく意地悪そうな雰囲気を感じる。整った顔がそうさせるのか。

「沙綾お姉ちゃん、じゃダメですか?」
 お姉様なんて気恥ずかしくて呼べない僕は、代案を提案。
「それでもいいわ、敬語はなしで」
「うん、わかった」
 繋いでいた手を離される。
「じゃ、俺の事は姉貴って呼んでくれ」
 今度は沙希さんが言う。
「あ、あねき……」
 姉貴は勘弁してほしい、と言おうとした時、香織さんの声が聞こえた。

「はい、お待たせ」
 フライパンを手に台所から出てくる。夕飯を作っていたようで、お肉の焼けた匂いがする。匂いを嗅いで、お腹が減っていることを思い出す。
 今にも腹の音がなりそうだ。

 香織さんは、そのままフライパンをテーブルの上に置くと僕に向かって言う。
「本当は、店屋物を頼むつもりだったんだけれど、いつものお店がお休みだったの。ごめんなさい、ゆうくん」
「大丈夫だよ、お店のだとお金がかかるよ」

「そう?ありがとう」
 台所に戻る香織さん。すぐに出てきた。右手に炊飯器を持っている。そのまま、テーブルの上に炊飯器を置く。ドンッと音が鳴った。
「じゃあ、ご飯はそれぞれよそってね」
 “腹減ったー”と沙希さんが言うのを聞きながら、嫌な予感がした。香織さんに聞く。
「おかずは?」
「? お肉があるわよ」
 フライパンに6枚の牛肉ステーキが載っている。
「野菜は?」
「今日はお肉の日よ」
 “にくーにくー”と言いながら箸を右手に、大盛りの茶碗を左手に持ち準備万端の沙希さんを横目で眺めて思う。

(肉だけ?栄養バランスに偏りが……しかも皿に盛り付けもしないでフライパンのまま……)
「ちょ、ちょっと待ってて」
 食事を始めるのを止めてもらう。
(女性が夕飯にステーキ一枚にご飯だけってダメすぎるだろ)

 台所に入り、冷蔵庫を調べる。卵6個、ニラ、長ネギが無いけど代わりに玉ねぎがある。焼いてあるステーキを細かく切って入れれば無駄にならずに、チャーハンぐらいは作れるだろうか。

(卵は賞味期限ギリギリ、野菜はいつ買ったものかわからないけれど、口に含んでみた感じと見た目では腐ってないから大丈夫……だろう)
 食材を自分なりの方法で調べてみて、食べれそうなものをピックアップ。
「チャーハンに作り直すから、10分だけ待ってて」
 フライパンを台所に戻す。流し台からまな板と包丁を洗って取り出す。

「葵を呼んでくるから、その子の分も頼む」
「うん、わかった」
 調理を始めようとした時、春お姉ちゃんが声を掛けてきた。僕の返事を聞くと、部屋から出て行った。さっきダイニングには居なかった、葵という子を呼んでくるらしい。
 香織さん、春お姉ちゃん、沙希さんに沙綾お姉ちゃん、葵ちゃんという子、僕を加えて6人分。

 牛肉をフライパンから出して、細かく切り刻む。フライパンに油を引き直して、強火で温める。卵を割りほぐし、ご飯とかき混ぜる。
(時間がないから、先にかき混ぜちゃおう)
 ニラと玉ねぎをみじん切りにしている間に、フライパンが十分温まったので、卵と混ぜ合わせたご飯を投入。ご飯がパラパラになってきたところに、玉ねぎ、ニラ、お肉を加えて更に炒める。

 最後に醤油で薄めに味付けして、完成。6人分の皿に盛り付け、ダイニングテーブルに運ぶ。

「はい、どうぞ召し上がれ」

 

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