閑話15 香織から見た職業体験について

 息子である優の将来の事について考える時には、不安と心配な気持ちで私の心は一杯になる。

「はぁ、ゆうくんが職業体験に積極的なんてね……」

 記憶喪失から以後は、非常に家庭的な男性となっていた優のことだから、就職や仕事する事に興味は無いだろうと思っていた。ところが、予想に反して仕事に関しては意欲的なようで、学園から持ち帰ってきた職業体験についての相談をされた時に、私は驚いていた。

 そして更に驚いたのが、優から商店街の小さな洋菓子店の一つにお世話になりたい、と明かされた時だった。

 私の知っている職業体験についての知識から、一般的な男子の職業体験先についての選び方として重視するのは、大きく有名な企業であり、所属するだけでステータスになるような職場だったり、将来有望そうな女性社員を捕まえるために、従業員数が多い企業だったりと、仕事内容をあまり重視しないで利益を重視すると聞いている。

 そして、ウチの会社でも何度か男子の職業体験を受け入れたことがあって、その時の体験から考えると、働くことについては積極的ではないと感じ取っていた。

 それなのに、息子の優が選んだのは商店街の中にある一つの店、小さな洋菓子店らしい。

 家事をするのが好きで、特に料理をする事が大好きだという優だから、菓子作りをしている職場に興味がある事は理解できた。

 しかし何故、街の小さな商店街にある洋菓子店を選んだのだろうか。

 料理や菓子作りが好きだと言うならば、他にも選択肢がありそうなのに。
 例えば、普通に男子が選びそうだと思える選択肢と言えば、テレビで紹介されるような有名なレストランだったり、カリスマと呼ばれているようなパティシエの下だろうか。

 優が選んだ理由を考えてみると、立地条件が良くて自宅から通いやすいからだとか、有名な所に行っても料理をさせてもらったり、直接指導してもらえる訳がないと判断したからなのか。
 洋菓子店を選んだ理由は色々と考えつくけれど、考えだした理由の数々は納得できる程にはしっくり来ない。

 ウンウンとしばらく頭を悩ませて理由を探していると、ある不吉な考えが頭に浮かんだ。

「……まさか」

 職業体験に行く先の情報に載っている、指導者と成るらしい女性の写真を熱心に見つめていた優の姿を思い出していた。
 そして、そんな彼女が居るクローリス洋菓子店に行きたいと熱心に説得してきた優の強い興味を思い出す。

 優は、写真に映る女性を気に入ったから、職業体験の場として選んだ……?

「いやいや、まさか!」
 自分の考えを否定するために、言葉を口に出してみるけれど、心の中に生まれた不安は晴れなかった。

 息子の優が、他の女性に心奪われる……。
 いつかは、彼が気に入る女性を選んで付き合い初めて、最終的には結婚したりするのだろうと、漠然とは考えていた。
 けれど、まだ優は学生だ。時期は早すぎるし、ましてや写真だけで選ぶなんて危なすぎる。
 もしかしたら、載せられた写真は修正を入れられていて、優の見た女性とのイメージに違うかもしれない。写真には写らない性格が、最悪かもしれない。商店街の一角にある洋菓子店を経営しているなんて、将来養ってもらうには不安だ。

 思いつくままに職業体験の場で指導者に付くらしい、その女性を貶してみた。気分は少し晴れたけれど、面識のない女性を悪く言った罪悪感が新たに生まれて、落ち込んでしまった。

 とにかく、優が職業体験に積極的な理由が見えてきたような気がするが、勘違いかもしれない、いや、勘違いのはずだろう!
 そう、自分を説き伏せて納得させる。

「はぁ、そうか……。いつかは、ゆうくんも家を出ていくのかなぁ……」
 考えないようにしていた事が、近い現実となりそうだと憂鬱になる。

 今は、朝には息子の手作りで出来たての美味しい朝食が作られていて、昼には手作りの弁当を持たせて貰っている。そして、夜にも豪華な夕食が待っている。三食が楽しい日々。

 しかも、優は私を尊敬してくれるような反応で大事に対応してくれて、無視すること無く接してくれる。男性である彼が無視すること無く、しかも気持ち良くしてくれるような会話が出来る事が非常に嬉しい。

 そんな息子だからこそ、色々と報いたいと思って惜しみなく金を使おうとするけれど、優は遠慮して受け取らなかったり、使わずに節約したりして、お金の管理をしっかりしてくれる。

 息子ながら、男性の中では日本で一番に来るぐらいに、性格の良いだろうと宣言できるほどだと思う。

 家事ができて、性格も良く、お金の管理もしっかり出来る。それゆえに、手放したくはない。一生、佐藤家で私達家族が養っていけないだろうか。一生離れたくはない、そう思ってしまっても仕方ないだろうと思えるぐらいに、優を家族として愛していた。

 ただ、優が幸せになれるように、と考えると、彼に好きな人が出来たら優しく見送らなければ駄目だろう……。

 このように、息子である優の事を色々と考える時に、私は不安な気持ちと心配な気持ちで一杯となってしまっていた。

 

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