第52話 男子達の職業体験

 クローリス洋菓子店での職業体験が開始されて、商店街の現状を知った翌日。職業体験が行われている期間中にも学園では通常の授業があるので、今日は朝から電車に乗って学園に向かっていた。

「おはよ、ゆう。昨日はどうだった?」
「あぁ、おはよう圭一。けっこう大変だった、かな」

 友人の圭一と、通学途中に利用する電車の車内でいつものように合流して、昨日の体験学習が始まった事に関する話になった。

 未だに慣れない男性専用の朝からガラガラな空き具合と、隣の車両は朝から目いっぱいにギュウギュウと詰め込まれる女性たち。

 隣の車両の彼女達を意識してしまうと、男の自分達だけがガラガラな車両に乗っているという罪悪感やら、開いているならこっちの車両も開放すれば良いのにという様な考えやらが浮かんできて、気になって仕方がないので出来る限り隣の車両には目を向けずに、意識しないようにしながら、圭一と昨日の様子を話し合って職業体験に関する情報を交換した。

「ゆうは、商店街のお店に行ったんだっけ?」
「うん、洋菓子店でお世話になることになった。なんだか地元の人達が商店街よりも安売りのスーパーの方に流れていっているらしいから、商店街の活気を取り戻そうって話を聞いたりしたよ」

 昨日の状況を簡単に話してみると、圭一は呆れたような表情をして僕を見ていた。

「えー? また面倒事に首を突っ込んでんの?」
「まぁ、好きでやってるから良いんだよ。それよりも、君はどうだった?」

 面倒事と一言で簡単に決めつけられてしまって、少しムッとしてしまった僕は、これ以上は話しても理解を得られないだろうと感じて、話題を変えるための質問をしてみた。すると、彼は呆れていた表情を一転させて、よくぞ聞いてくれました! という顔で昨日の出来事を嬉しそうに話してくれた。

 圭一は、ある大企業の支店の一つに職業体験に行くと事前に話を聞いていた。そして、昨日は大企業の名に恥じぬような、職業体験を受ける学生の一人とは言え、男性向けに準備されていたかなりなVIP待遇で一日を過ごしたみたいだった。

 詳しく話を聞いてみると、何人もの女性社員に張り付かれて支店ビルの中を案内してもらったり、数万円はするだろう超豪華ランチでもてなされたりと、色々と歓迎を受けていたらしい。
 彼は女性社員達の機嫌取りは面倒だったけれど、その労力に見合った楽しい時間を過ごせたと感想を述べていた。

 職業体験と言う学びを受けに行ったとは思えない彼の話を聞いて、やっぱり自分とは感性が違うなぁ、と再確認しながら学園へと向かった。

「おはよ」
「おはよう」
「おっす、おはよー」

 学園の教室に入ると、クラスメートの男子達が集まって話し合いをしていた。どうやら、僕達の交わした会話と同じように、彼らも職業体験についての情報交換をしているらしい。

 そして、いつもと同じ配置となっている、女子達が男子達の集団に意識していないアピールをしながら、興味津々な感じで聞き耳を立てているバレバレな布陣。少しずつ近づいていく女子を、男子がシッシッと犬を追い払うように手を振って離れさせている。

 クラスメートの男女の溝は深いな、と思いながら教科書などを入れたカバンを自分の机に置く。

「こ、こんにちわっ!」
「おはよう、川村さん」

 授業が始まる前の少しの時間に男子達の会話に加わろうと、話し合いの輪に向かおうと歩きだす直前で、斜め前に座っていた女子の一人に挨拶を向けられた。

 僕は声を掛けられた、そのクラスメートの女子に向かって普通に挨拶の返事をすると、彼女はキャーと嬉しそうに小さな声を上げて、走って何処かへ行ってしまった。

「ゆう、あんまりクラスメートの女子に媚を売っても仕方ないぜ」
「あぁ、そうだね」

 同じようにカバンを自分の机に置いて、男子の話し合いの輪に加わろうと近づいてきた圭一が、僕の女子に向ける態度に苦言を呈する。
 彼は友人として僕にアドバイスをしてくれていて、僕のことを考えて忠告してくれるのはありがたいと感じていたけれど、声を掛けてくれて挨拶した人を無視する、なんて態度をどうしても取れない僕は、何時も彼の忠告を無視してしまう形となっていた。

 そして、いつもの実の篭っていない僕の返事に、ヤレヤレといった顔をする圭一、という流れは朝のお決まりのようになっていた。

 男子達の皆は、圭一と同じように有名な企業に職業体験を受けに行ったりして、会社の偉いさんである女性役員や社員と会って何十階建てかの高層ビルの中を案内してもらったり、昼食も豪華なものを食ったらしい。

 その豪華なスケールのやり取りに少し惹かれるものがある、と男子達の話を聞いて感じたりしたけれど、歓迎を受けるだけでやりがいはあまりなさそうだし、結局は自分がやりたい事をするのが一番良いか、という風に商店街の一店であるクローリス洋菓子店を選んだ事には間違いはなかったと、自分を納得させた。

「ゆう、もう授業始まるぜ」
「ん? あぁ、ありがとう」

 少し考え込んでいると、圭一から声を掛けられた。確かに授業ベルが鳴って授業が始まる数分前となっていた。

「いいよ、いいよ。それよりも、早く授業の準備をしてないと、あの先生は罰とか言って身体を触ってくるから、行儀よくしてようぜ」

 自分と、他の男子達との職業体験の内容に結構な違いが有るな、と話を聞いて改めて思いながら僕は席に座って授業を受ける準備を始めた。

 

スポンサーリンク

 

back index next