第51話 話し合いの結末

「い、いやぁ、佐藤くんが手伝ってくれるのなら、商店街は助かるかな」
 大海さんは元の席に座り直した後、野辺地さんと向かい合いながらも、チラチラと隠すような目線を僕に向けて様子を気にしながら言った。

「手助けしてくれると佐藤さんは言ってくれましたが、先程言ったように彼ばかりに負担を掛けるような事をしてはいけません」
 野辺地さんはメガネに手を添えて、掛けている位置を忙しなく何度も直したりして落ち着きが無い様子だった。

 大柄な女性や知的な女性が身を縮こまらせている。そして、年下であり学生の僕の顔色を伺っているようだった。
 そんなに強く言ったつもりは無いけれど、彼女二人に向けた行動が思った以上の影響を与えてしまった。これから色々とお世話になる関係者の人達だから、以後の言動は少し注意しないといけないと心に留める。

「佐藤くんに助けてもらうと言っても、具体的には神谷の所の洋菓子店で店員をやってもらえるだけで良いんだ。そうしたら、男の子の佐藤くんを見に地元客は商店街の店にやってくるだろう。スーパーには、男性の店員なんて居ないんだから、向こうに勝る価値がココに有るって事になる。だろ?」
 少し落ち着いてから、大海さんが商店街の再生に向けた僕の活用方法を語る。

 しばらく前にあった料理部の活動でテレビに出演したときの出来事と、ソレによって起こった騒動を考えると、僕は自分で思っている以上に集客力が有るかもしれない、と以前よりかは自覚できていた。
 商店街に男である僕という人間が働いている事を地元民に知られれば、ある程度の客は来てくれるだろうと、確かに予想できてしまうぐらいに。
 しかし、野辺地さんは人を集めただけでは駄目だろう、と否定して彼女の考えを述べる。

「佐藤さんという男性店員の物珍しさに、地元民のお客様は確実に一度は商店街を訪れてくれるでしょう。しかし、一度来てくれただけで次に繋がるかどうか、商店街の常連客になってくれるかは限りません。それに、佐藤さんを見に来る為だけに商店街へやって来て、買い物をしてくれるとも思えません。冷やかしだけ来て、買い物は安いスーパーで済ませる、なんて事になるかも」

 楽天家の大海さんのポジティブな考えと違って、慎重に物事を考えるネガティブな野辺地さんの意見。僕も野辺地さんの意見が正しいと思ってしまった。

 集客はできるかもしれないけれど、購買にはつながり難いだろうと思っていた。何か、商店街で買い物したいと思えるような価値が無いと、商店街の再生は難しいと感じている。

「とりあえず、今日は佐藤くんの了承は得られたから目的は果たせた、ってことで納得して次に何をするかは、次回の会議で話し合えば?」
 何かいいアイデアは無いか考えていると、先程まで黙々と注文したハンバーグを食べていた波々伯部さんが、食事を終えて話に入ってきた。と思ったら、そう言って二人の話をまとめていた。

「おう、そうだな」「分かりました」
 波々伯部さんの言葉に納得する大海さんと、発言とは裏腹な、納得していないけれど仕方ないという感情をにじませる表情の野辺地さん。いつの間にか喫茶店に来てから時間が結構過ぎていて、大人たち皆が店に戻らないといけないと言っている。商店街には人が居ないとは言え、店を開けておく訳にもいかないのだろう。

 次回の話し合いでは、より具体的に何をするべきか話し合おうという事になって、アイデアを考えてくるように宿題となった。そして僕も、商店街再生の為のチームとして加わることになっていた。大海さんからかなり控えめな様子ながら、僕にも次回までにアイデアを考えてくるようにと頼まれた。


***


「ごめんなさい、いきなりあんな話し合いに連れ出してしまって」
 喫茶店での話し合いが終わって、店を出てきたとき、洋菓子店に戻る途中だった。話し合いが始まってから、今までずっと沈黙していた神谷さんが、ようやく声を出したと思ったら、本当に申し訳なさそうな表情をして僕に謝ってきた。

「あっ、いえ、僕は大丈夫です。ただ、事前に話の内容を説明してくれていたら良かったと思いますが」
 突然昼食に連れ出されて、食事だけではないだろうという予測と緊張感は持っていた。だから、事前に話を聞かせてくれていたら、もっと落ち着いている事が出来ただろう。

 ただ、彼女たちの思惑では僕に断られる可能性も高かっと考えていたのだろうか。

 だから突然、何も告げずに昼に連れ出して来て、いきなり商店街の事情について分からないままに説明されてから、かなり切羽詰った状況の僕に判断させようとしていたのだろうか。
 そんな計画だったと考えてしまうと、大海さんと波々伯部さんの二人の喧嘩のような話し合いは、事前に打ち合わせされた演技だったのだろうか。いや、僕が見たところ二人の様子はかなり真剣だったし演技にも見えなかった。

 先程の話し合いについていた人達の事を考えていたら、再び神谷さんから謝罪の言葉が投げかけられた。

「本当にごめんなさい。私たちは、商店街の状況を何とかしたくて藁にすがる思いで佐藤さんに頼んだんです」
「わ、わかりました。だから、頭を上げてください! 状況は理解したので、出来る限りの助けはしますから」
 足を止めて頭を下げた神谷さんに、慌てて僕は頭を上げるようにお願いする。彼女が、ここまで必死というか下手に出るのは、男尊女卑の極みだからだろうか。

 ともあれ、シャッター通りの問題や地域活性化と言ったニュースが流れているのを、何度か目にすることは有ったけれど、今回ほど直接は目にする事は無かった。やはり、自分も商店街を利用したことがあまりなかった、近所の商店街とは関係が薄い人間だったからだろうか。

 けれど、前世で関係のあった神谷さん、そして彼女が今世で経営している洋菓子店は助けたいと心から思っている。
 事情を説明できない彼女には、僕はなぜ手伝おうとするのか正しくは理解できていないだろうし僕からの一方的な感情だけれど、そう思ったから商店街の再生の手伝いは全力でやろうと決意していた。

 

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