第50話 商店街の現状

 見た目からして非常に美味しいそうなハンバーグが、僕の目の前に置かれた。

「どうぞ召し上がって、私たちは昼食を済ませた後だから。君は、食べながら聞いていて」
「ありがとうございます。いただきます」

 店にやって来た三人は、まだ注文する前だったので目の前には飲み物も置いていない。これから何かを注文するのだろうけれど、少なくとも飲み物が来るまでは待つべきだろうか。先に来てしまった食事に手を付けて良いのか迷っていると、商店街会長の大海さんが場を仕切るように、遠慮しないでどうぞ、と言ってくれてようやく、向かいの席に座る神谷さんも食事も始めたので、僕も遠慮なく食べ始めた。

 こうして僕は、食事をしながら商店街の人達の話を聞く事に。と、思っていたら……。

「男の子なのに、いい食べっぷりね」
 メガネをクイッと上げて観察をしてくる野辺地さんが、僕の食事の様子を見てそう言った。

「……私も何か食べよう」
 そして波々伯部さんも、食事ている僕の様子を見てなのか食欲を刺激されたみたいで、テーブルに置かれていたメニューを手に取って、髪に隠れていない大きな左目だけを使って上下に動かし眺めている。昼食は済ませたと大海さんが言っていたけれど、何か食事を注文するのだろうか。

 普通に食べているつもりだったけれど、女性たちに思いの外注目されているみたいだった。なんだか見られている事が、すごく恥ずかしくなってきたので、食べるペースを気持ち分だけ落とす。


***


 僕が食事をしている間に、四人の商店街の人達が色々と話しを進めて、僕は聞き役に徹していた。

 女性たち四人が話している内容を簡単にまとめてみると、この商店街に人があまり来なくなってしまっていて、これ以上客足が遠のくと各店が営業を続けられない程で、このまま行けば年内には店仕舞いに追いやられるかも、という状況らしい。

 そしてお客が来なくなったという主な原因は、近所に安売りスーパーが出来てソチラにお客さんが取られてしまったから、というよく聞くようなありふれた理由だった。

 商店街会長の大海さんは、その大きな身体を身振り手振りで残りの三人に活発的に活動したい! と意気込んでいる。そんな大海さんとは対照的に、知的な雰囲気を醸し出している野辺地さんが商店街の継続は無理だと主張している。

「うちの店は婆さんの代から続いている、歴史のある八百屋だ。最近できたばかりのスーパーなんかよりも、よっぽど価値がある」
「歴史なんか、何の役にも立たないし価値があるとお客様は感じていない。それよりも、安い方が良いって彼女たちは感じているから、商店街に来なくなったのよ」

 大海さんと野辺地さんの、二人の意見がぶつかり合う。普段から、スーパーを利用していて商店街を利用することない僕は、野辺地さんの意見に内心でギクリと動揺しながらも同意していた。

 しかし、二人の話し合いを傍で聞いていて、商店街の状況を知ることは出来たし、これからお世話になる神谷さんのクローリス洋菓子店に関しても危機感が芽生えたけれど、今回の話し合いに僕が呼ばれた理由は何なのか、初日来たばかりの僕に何を期待しているのか考えていたところ、すぐにその事情が話によって知らされた。

「うちの商店街も近くに新しく出来たスーパーとかデパートの方に負けてしまって、人が来なくなってた。それで、なんとか出来ないかと思ってた所に学園の人が、職業体験の話を持ってきたから、コレだ! と思ってすぐに参加することにしたのよ。そしたら、あなたのような綺麗な男の子に来てもらって、本当に驚いたんだから」

 アハハッと容姿によく似合った豪快さで笑い飛ばしながらの海原さんの言葉によって、薄々感じていた期待と役目がハッキリした。

 どうやら海原さん達は、この商店街に客足を取り戻すための客寄せを、僕に任せようと考えているらしい。

 しかし、職業体験という言い方は悪いかもしれないが、仕事をするという事を試すだけの場所で、商店街の再生を手伝ってなんて言われて責任重大過ぎやしないだろうか。

 期待に満ちた目をしている海原さん。商店街の復興を信じている彼女に見つめられて、どう返事をするべきか考えていると、野辺地さんが援護をしてくれた。

「学生の子供、しかも男の子に何をそんな責任を負わせようとしているの! 彼は、学習活動に来ているだけで、何の手伝う義務もない。もともと、商店街の事を彼に伝える必要も無かったのに!」
「それなら他に、商店街を復活させる良い方法が有るのか? そんな事ばかり言って、ゆっきーは男の子の目の前で格好つけたいだけだろ?」
「ち、違います!」

 ヒートアップしていく二人の言い合い、神谷さんはオロオロと見守っているだけで口を挟む様子は無いし、波々伯部さんいつの間に頼んだのか僕と同じハンバーグを食べて我関せずという感じだった。

 そうこうしているうちに、二人は席から立ち上がって掴み合いにまで発展しそうだったので、僕は慌てて止めに入る。

「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい! ふたりともっ!」
「あっ?」「え?」

 間に身体を割り込ませて、二人を引き離す。そして、びっくりした目で見下されている所に僕の意見を述べた。まずは、大海さんと向かい合ってから。

「大海さん、商店街を思う気持ちは大事ですが暴力は駄目です!」
「お、おう」

 目をパチクリさせて驚きながらも返事をした大海さんを確認して、反対方向に身体をくるりと回転させて、今度は野辺地さんに向かって。

「商店街の皆さんが困っていると話を聞いて、義務とか責任とかは別にして、僕が助けになるなら喜んで手伝います」
「あの、えっと……ありがとう」

 メガネがズレた唖然としている表情の野辺地さんの返事も確認してから。

「落ち着いたら、席に座り直してください」
「「はい」」

 年下の僕から指示されたのに、文句もなく素直に聞いてくれた二人。先程までは白熱していた彼女たちの様子は一転して、大海さんと野辺地さんは店にやって来た最初と同じぐらいの、落ち着いた雰囲気を取り戻していた。

 

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