閑話14 佐藤家のケーキの反応

 佐藤家では最近、なるべく家族全員が集まって夕食を一緒にしようとするのが暗黙のルールとなっていた。けれど、仕事で忙しい香織さんや春姉さんは時間が合わずに一緒にできない時もあるし、大学生活でサークル活動で忙しい沙希姉さんや、入学して既に研究室も決めて勉学に励んでいる紗綾姉さんも結構な頻度で夕食を一緒にできない事が多い。
 そんな忙しい人達だけれど、できうる限り時間を空けてくれて全員が夕食の時間に集まることも珍しくはなかった。
 そうした手間をかけて家族全員が夕食を一緒にしてくれているので、僕も腕によりをかけて夕食を準備し一家団欒の時間を大切に過ごしていた。

 そんな僕の頑張りの1つに、夕食後に出すデザート作りがあった。佐藤家の母娘たちは甘いモノが結構好きらしいのだけれど、この世界特有の妙な固定観念として女が甘いもの好きなのをアピールするのは女らしくないというものがあるらしく、皆は甘いもの好きという素振りを見せないし、外では絶対に甘い菓子やデザートを食べている所を見せようとしない。
 僕は女が甘いもの好きという事については一切気にしないし、むしろ女性は甘いモノが好きだろうと言う考えが無意識にあった。だから、食後に僕の作ったデザートを振る舞ってみたら全員が喜んでくれたので、それから佐藤家では食後にデザートが用意されるのが習慣となっていた。菓子作りは僕の趣味の1つなので、残さず食べてくれて感想まで言ってくれる皆に感謝しながら振舞っていたし、香織さんや姉妹の皆は甘いモノが定期的に食べられるということで喜んでくれるので、両者の利益が一致する良い習慣だった。

 で、僕が自作する菓子以外にも時々外で見つけてきた、僕が食べたいと思うものを家族分買ってきて皆で一緒に食べることも有った。

 今日買ってきたのは、クローリス洋菓子店で売られているいちごのショートケーキ、チョコレートケーキ、そしてフルーツケーキの三種類のケーキだった。職場体験の説明で洋菓子店に行った時に出されて食べたものの1つだった。けれど、一切れのケーキだけでは全然物足りないと思ったので、買って帰ってきたモノだった。

 僕にとっては思い出の味なので、家族の皆にも食べてみてもらって好きなモノを共有したいと思ったので、ちょうど全員集まった夕食後のデザートの時間に出してみた。で、皆の評価はというと……。

「うわっ、コレめちゃくちゃうまいなぁ!」
 いちごのショートケーキを、フォークで2つに割ってからあっという間に大きく口を開いて、そのまま二口で食べきってしまった沙希姉さんが感想を述べる。

「うん、本当に美味しいわね。コレは何処のケーキって言ってたかしら?」
 一口食べた紗綾姉さんは驚いた表情になり、それからいつもの冷静沈着な様子とは違って少しだけテンション高めになりながら僕に何処で買ってきたものなのかを聞いてきた。
 クローリス洋菓子店について、僕が紗綾姉さん達に説明している横では妹の葵が黙々とフルーツケーキを食べていた。しかし、葵の表情は明るく微笑んでいるようだったので、どうやら葵もクローリス洋菓子店のケーキをかなり気に入ってくれたようだった。

 春姉さんと香織さんは、僕が話すクローリス洋菓子店についてを聞きながら葵と同じように黙々と食べていた。そして、食べ終わると味の感想を言ってきた。

「このケーキは、今まで食べたケーキの中では一番に近い美味しさね」
 香織さんが食べた、チョコレートケーキの味についての感想を言うが”今までに食べた中で一番に近い”という言葉を聞いて彼女の一番に興味が湧いた。その一番については、春姉さんの次の言葉で理解した。

「そうだね母さん。コレは優が作ったチョコレートケーキと同じぐらい美味しいな」
 春姉さんと香織さんが食べたクローリス洋菓子店のチョコレートケーキは、僕の以前作って皆に振る舞ったケーキと同じぐらい美味しいと評してくれて、身内びいきの過分な評価だと思いつつも嬉しく思っていた。

 僕の作るケーキは、クローリス洋菓子店の味を再現しつつ自分好みの味にアレンジして編み出したものだったので、家族の言葉だとしてもクローリス洋菓子店のケーキの味に匹敵すると言われたら、自分で考えたレシピが間違っていなかったと思えた。

「僕もこのケーキが大好きだから、皆が気に入ってくれたみたいで嬉しいよ」
 クローリス洋菓子店のケーキを皆に食べてもらえて、そして気に入ってくれたみたいで嬉しい気持ちを家族へと伝えた。

「おう、気に入ったよ! ってもう無くなった!?」
「優、また食べたいわ」
 沙希姉さんが僕の言葉に返事をし、紗綾姉さんがしみじみとつぶやく。

「………おいしかった」
 葵は小さな声だけれど、精一杯に僕に感謝の言葉を伝えてくれた。

「食事代は足りてる? いつも手間を掛けさせて悪いわね」
「お金なら、私と母さんが用意するから遠慮なく足りない分は言ってくれ」
 香織さんと春姉さんが家計の心配をしてくれる。今のところは大丈夫だと伝えて安心してもらっている。

 こうして僕たちは皆で、デザートを食べながら食後の会話を楽しんだ。

 

スポンサーリンク

 

backindexnext