第43話 職場体験学習

 姉妹間でのイザコザがありつつも無事に収まり、佐藤家の生活は平穏無事に続いていた。そして、月日の流れるのは早いもので、気が付くと4月を過ぎていて僕は高校3年生へと進級していた。

 ちなみに、春姉さんは大学を卒業して母親の経営する会社へ務める事になったそう。それから、つい最近まで姉妹間で喧嘩をしていた沙紀姉さんと紗綾姉さんは大学へと無事進学していた。

 沙紀姉さんは、高校時代の部活で活躍した業績を認められて大学から推薦の誘いを受けてスポーツ学科のある大学へ、紗綾姉さんは学業成績が非常に優秀で日本でも上位にランクされる大学の試験に無事合格していたらしくていつの間にか入学していた。沙紀姉さん、紗綾姉さんの2人は喧嘩しつつも、シッカリとやる事はやっていたんだと内心では少し安心していた。

 4月になって新入生が学園へとやって来る頃、僕は3年生。一年前には、記憶喪失という診断をされて入院してた。実は、不思議な事に社会人だった筈の僕は気づけば学生時代に何故か逆行していた。
 しかも当初は、逆行前の記憶と少し違う母親に、記憶に無い姉妹が出来たりと混乱と戸惑いがあった。なにより男女の価値観の違いについて、逆行前の記憶とは大きく異なっていて違和感を感じつつも生活していた。が、しばらく経てば思いの外すんなりと順応していった。

 1週間、1ヶ月、1年と生活していくうちに、もう僕は逆行前の記憶、社会人だった頃まで戻ることは無いのだろうと思うようになっていった。そして、今では戻ることはないだろうと確信していた。むしろ、家族との絆を深めて逆行前の未練は断ち切っていた。

 ただ、生活には慣れてきたという気分で居たけれど、今でも時々逆行前と逆行後で常識や考え方、価値観が違いすぎて困惑する事がある。そして今、久々に感じた対応に困った事案が発生した。”職業体験”についてだった。

「男子は今配った配属先予定から気に入った職業が有ったら、期日までに申告するように」
 僕は今、学園にある教室内で職業体験について、配られた冊子を読み込みつつ先生からの説明を受けていた。

 教室には、僕の他に9名の男性学生が集まっていた。ここに居る男性学生は学園の3年生に所属する10名だ。
 高校3年生になって、僕達学生は進学や就職など将来についてのプランを考えないといけない時期。そんなプランを立てるため、将来の指針を決めるため学園側からの手助けとして職業体験という活動が用意されているらしくて、その事について説明を受けていた。

 逆行前の学生の頃の記憶によれば、中学生時代にあった職場体験学習や大学生時代のインターンシップについて思い浮かんだけれど、高校生時代には職場体験という活動は無かったと記憶している。というか、大学受験がある高校3年生の時に勉強しないで職場体験をしている時間は無かったけれどと思ったが、この世界では男性が大学試験を受験するための条件に職場体験の活動を受ける事が必須になっている事が多いらしい。
 僕が第一志望として受ける予定の大学についても職場体験の活動が条件に指定されていた。

 この職業体験の目的は男性に労働について体験してもらい、仕事の大変さや将来就きたい仕事の選択に間違いないかの確認をしてもらう事。しかしこの職場体験、男性は大学受験に必須な項目らしいけれど女性は必須ではない。というか、この学園では女性の職場体験は準備されていなくて、女性は出来ないらしい。

 なぜ、男性だけこの様な活動が学園に用意されて優遇されているのかというと、男性人口が少ないこの世界では、そもそも男性の就職率が非常に低いために仕事について興味を持ってもらうという事。
 そして、そんな少ない中で就職したとしても今までの人生の中で男性というだけで非常に優遇されてきた男性職員は、仕事に就くとすぐに想像とは違うと思って退職してしまうことが多いらしく、男性社員の離職率が著しく高いことから考えられた活動らしい。
 
 説明を受けながら、僕は思った。やはりこの世界は男性が優遇されているなぁ。でも、せっかく用意されているならば男性として恩恵をシッカリと受けさせてもらい、高校生の今のうちから将来をどうするべきかをじっくり考えてみよう、と。

 説明のために受け取った冊子はかなり分厚くて、一番後ろのページ数を見ると112ページと有った。冊子中身の内容を見てみると、最初の数ページに体験学習についての説明。残りのページには、用意されている体験学習の仕事内容、仕事場所、職場情報が記載されていた。
 仕事の内容は多岐にわたり、100種類以上の職業は書かれているだろう。そして、その中には弁護士や警察官、看護師等の職種まであって体験できるようになっている。仕事場所は僕が住んでいる市辺りで、一番遠いものでも通勤には1時間程で行ける範囲みたいだった。そして、職業体験期間中に指導として付いてくれる女性社員の顔写真が掲載されていた。
 そして最後のページには、掲載されている職業以外に希望がある場合は先生と要相談すること。と書かれていて、どうやら相談すれば用意してくれるらしい。本当に男性は優遇されている。

 パラパラと流し読みで職業を確認していくと、気になるものを1つ見つけた。
 職業には”パティシエ”と書かれていて、職場情報には市内にあるスイーツ店について書かれていた。どうやら、そのお店でパティシエとして職場体験出来るようだった。

 僕はこのお店の情報を見て、逆行前の記憶のある有名だったお店について、そして店長をしていた1人の女性を思い出していた。そして、今思い出した女性が職場体験期間中に付いてくれるという指導者である事がわかり、顔写真付きで紹介されていた。

 

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