第40話 仲直りのために

 香織さんと春姉さんの2人に相談してから、次の日の夕方。
 僕は、沙希姉さんと紗綾姉さんとの仲を取り持つために早速行動に移していた。このまま家族間で揉めたままにしていては、普段の生活にも嫌気が差してしまって、2人の仲が本当に修復不可能な状態まで行ってしまうと考え、何とか早めに対処しなければいけないという思いからの行動だった。

 沙希姉さんと紗綾姉さんの2人の仲が急激に悪くなったのは、間違いなく僕が原因だった。以前から、小さなケンカはあったらしいけれど今回のような特大のケンカは初めて。だから、おせっかいに思われるかもしれないが、僕がなんとかしないといけないと思った。

 互いに2人を席につかせて面と向かって話し合いをすれば、仲直りのためのキッカケを見つけ出すことが出来るかもしれない。今のまま、互いを憎んで言い争いをしたり、無視しあったりしていけば、更に2人の仲は悪くなっていくだろう。そうならないようにするため姉妹2人が席について話し合いをしてくれるようにお願いをしに、まずは沙希姉さんの方に会いに行った。

 沙紀姉さんは、夕方頃に部活が終わって家に帰ってくる。その後は、すぐに部屋に入ってしまって夕飯までは出てこない。僕は、沙希姉さんが部活から帰ってきた直後、2階にある沙紀姉さんの部屋の前で呼びとめた。

「沙希姉さん、ちょっとお話とお願いが……」
「ん? どうした優?」
 僕の呼びかけに対して、笑顔で振り返って返事をしてくれた沙希姉さん。部活帰りで疲れているだろうに、そんな疲労を一切出さない。僕は前置きをせずに、すぐに本題に入るった。

「この前からの紗綾姉さんと沙希姉さんとのケンカの事で」
「ふん、そのことか」
 沙希姉さんは僕の言葉を途中で遮り、一気に不機嫌になる。紗綾姉さん、そしてケンカという単語を少し出しただけで、こんなにも機嫌が悪くなる姉さんの態度に仲を取り持つ事を挫けそうになる。だけど僕は勇気を出して、何とか話を続ける。

「うぅ、その、ずっと喧嘩してるのなんて良くないし、一度2人でじっくり話し合ったほうが」
「アイツと話し合うことなんか無いね。こっちの言うことを聞きやしないし、話しても無駄だ」
 姉妹が二人で話し合いをする、そんな僕の提案は一蹴された。沙希姉さんは取り付く島もないという感じだったけれど、今の家族のギスギスした関係を考えて、これからもずっと姉妹2人の仲が悪いなんて関係が続く事を考えると僕には耐えられそうになかった。だから尚も、僕は沙希姉さんに話し合いをするようお願いする。

「でも、僕の頭に沙希姉さんの手が当たったのは偶然だって、沙希姉さんはわざとじゃ無いんだって僕に言ってくれたし、紗綾姉さんも話したら分かってくれるはず。2人がしっかり話しあえば、喧嘩する理由なんて無くなるんだよ」
「何で、優はアイツの肩を持つんだ!? 悪いのは話を聞かないアイツだろう! 向こうが突っかかってくるから!」
 沙希姉さんの怒りが向けられれる。僕は、沙希姉さんに怒りを向けられた瞬間、恐怖に怯んで、血の気が引いていた。

「ち、ちが、ぼくは」
 沙希姉さんと紗綾姉さんの2人、どちらか一方の味方なんてしているつもりはない。僕はただ、2人に仲良くしてもらいたいだけ。しかし、恐怖で声がうまく出なくなってしまい、思っていることを沙希姉さんに伝えられない。
 怖さを感じて声が出ないようになるなんて生まれて初めての事だった。

 僕が何とか、声を出そうと頑張っていると沙希姉さんがギョッと驚いた顔をした。そして、唐突に僕に向かって謝ってきた。
「ごめん、優! 優を怒って言ったわけじゃないんだ。ただ、アイツのことを思い出したらイライラして。本当に、すまん。だから泣き止んでくれ」
 いつの間にか、僕は泣いていた。
 沙希姉さんに向けられた怒りと、姉妹2人が喧嘩して対立している状況が改善できないと思うと、感情が高ぶって涙が出てしまったようだ。
 精神的には、僕は既に成人した男性のはずで、そんな大人の男が女性に睨まれて泣いてしまうなんて、自分はなんて情けないんだろうと思う。そんなふうに考えてしまって、さらに泣けてきた。

 両方の目から次々に流れ出る涙。自分では制御できなくて、止まりそうにない。

 だけど、女性に涙を流す姿を見られて何も出来ずに目的も果たせない、なんて事になると更に惨めな思いをするだろうと自分に言い聞かせる。僕は奮起して姉妹2人を絶対に仲良くさせようと心に誓う。

 僕の泣く姿を見てアワアワと慌てる沙希姉さん。右腕を使い流れた涙を拭って、僕はもう一度紗綾姉さんと話し合うようにお願いしようとした。

 しかし、その時。

「優に何をしているの?」
 ゾッとするような紗綾姉さんの低い声が僕の背後から聞こえた。沙希姉さんの部屋の前、廊下で話していた僕と沙希姉さん。そこへ、一階から階段を上がってきた紗綾姉さんがやって来た。

 

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