閑話12 バレンタインデー ある女の子の一日

 目が覚める。はぁと起き抜けにため息が一つ漏れる。
 とうとう今日という日が来てしまった。2月14日という日。バレンタインデーだ。私のような、フツメン(自分の顔面偏差値について平均ぐらいはあるだろうと思うけれど、どうだろう)にとっては嬉しくない日だ。
 なぜ、自分はイケメンに生まれてこなかったのだろうと考える。イケメンだったら、チョコレートも貰えて、惨めな気分にならないで済むのに。なぜ、バレンタインデーなんて日があるのだろう、チョコレートを貰えない私は惨めな気分になるだけの嫌な日だ。

 はぁともう一度ため息を付いて、ベッドから降りる。考え事をしている暇はないと思い直す。どんなに行くのが嫌でも学園へ行かないといけない。
 いつもの制服に着替えて、朝食を取る。一緒に住んでいる母親は、朝早くに仕事に行っているので家には居ない。なので、いつもの様に一人での食事を終えて、家を出る。

 家を出て、電車に乗る。これもいつもの様に満員電車だ。もっと早く家を出れば、電車の中は空いているかもしれないが、結局考えるだけで実行できずに、学園へ到着するギリギリになってしまうので、このように満員電車に乗るしか方法が無い。

 学園へ到着し教室を向かうまでの道中、友達とも会わずボーっと歩く。はぁ、教室行くの嫌だなぁ。
 教室の扉の前まで到着したので、仕方ないかとガラリと扉を開ける。教室へと到着すると、いつものと違うザワザワとした雰囲気になっている。イケメン組に目を向ける。どうやら、イケメン組はチョコレートを既に貰っているようで、手に赤く包装された物を持っている。
 朝から何度目かわからない、はぁというため息を付いて私は自分の席へ着こうとする。すると、驚いたことに佐藤さんから声を掛けられた。
「森下さん、ちょっと良い?」
 佐藤さん、ほとんど話したことはないけれど、かなりの美人で、クラスメートとしては一緒になれて嬉しい人だ。誰に対しても分け隔てなく優しくしてくれる人でもある。ただ、綺麗で優しいのにブス専という噂があって、クラスのイケメン組とは友達以上の間柄にはなっていないという。だとしたら、自分にもチャンスは有るかも知れないなんて考えていたりするが……。
「へ、佐藤さん?お、おはよう」
「おはよう、森下さん。はいチョコレート。これからもクラスメートとしてよろしくね」
「え? へ?」
 混乱している私に、赤く包装されている小さな箱が渡される。イケメン組が持っていた、箱とおんなじ形と色をしたものだ。
(チョコレート? へ? 私に? えっと、バレンタインデー?)
 次第に理解する私。今日という日を思い出す。2月14日バレンタインデーだ。男性から女性に愛の告白にチョコレートを送る特別な日。でもよく考えると“クラスメートとしてよろしく“という言葉。ということは義理チョコということだろう。少しガッカリしたけれど、義理だとしてもバレンタインデーにチョコレートを貰ったのは初めての経験だった私にとって、その赤い小さな箱は、とんでもなく輝いて見えた。
「あ、ありがとう!」
 私は何とか、お礼の言葉を返すことが出来た。
「いえいえ、料理部で作ってみたものだから、感想くれると嬉しいな」
(しかも手作り!嬉しい)
 佐藤さんが、次に入ってきた女子にチョコレートを渡しに行く。

 改めて、教室全体を見ると、私だけじゃなく既に座っているクラスメートは手にチョコレートが入っていると思われる箱を手にしている。
「ふふふっ、佐藤さんクラスのみんなに渡してるよ。あなただけ特別じゃなくて残念だったわね」
 隣の席に座る友人がそんな事を言ってくる。
「お前も貰ったのかよ! 私だけじゃなかったのか」
 しかし、改めて赤く包装された小さな箱を見る。

「良いんだよ、誰が貰ったかなんて。今年は1個もらうことが出来た、チョコレートもらったなんて初めての経験だ」

(ふふふ、チョコレート)
 授業が終了し帰り道、友人と別れ、電車に乗り、家へと到着する。早速、赤い小さな箱をかばんから取り出す。
「うわっウマそう」
 箱のなかには、6個に切り分けられたチョコレートが入っていた。チョコには、パウダー? がかかっていて高級そうな感じがすごくする。これ1個作るのにどれだけ手間が掛かったのだろうか。クラスメート全員分となると、とんでもない労力じゃないんだろうか。考えながら、一つ手に取る。
「う、うまい」
 チョコレートの甘さが程よく、チョコレートの苦味もあって、それから口に溶けていく食感が最高に美味しい。これ本当に手作りなのかと疑ってしまうような出来。絶対お店に出しても売れるだろうと思う。
 6つ目を食べ終わる頃には、最高に幸せな気分になっていた。朝はあんなに嫌だったのに、佐藤さんのおかげで、こんなにもいい気分になった。こんなに美味しい物を貰ったからには、ホワイトデーはいっぱいお返ししないといけないなぁ。そう決意する私であった。

 

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