閑話11 ある大学生の旅行

 七月。旅行サークルに入った私は、サークルで仲良くなった二人の友人と、夏休み前にサークル活動と称して、都内から電車で三時間は掛かる、少し高級な温泉宿に来ていた。

「この宿、混浴があるって! 後で、入ってみようぜ」
 活発で長身な彼女は、秋野穂(あきのみのり)と言って大学二年生の先輩だ。
「……混浴に、男が居るとは限らないわ」
 少し暗めな小柄の彼女は、同じ一年生の蔵本 栄美(くらもとえみ)と言う。
そして私、志間 恵巳(しまめぐみ)。女三人だけで旅行に来ていることで分かる通り、男に縁がない、モテない三人組だ。

 旅館のチェックインを済ませた私達は、部屋でゴロゴロしながら駄弁った後、夕食を食べて、風呂に向かうことにした。
 風呂には他に十数人程の客が居て、この旅館が繁盛していることがわかる。空いているカゴを見つけて、衣服を投げ込み、裸になる。
 穂と栄美の二人も、直ぐに裸になって温泉へと向かうので、私は彼女達の後をついて温泉へ向かう。
 身体を洗った後、私達三人は並んでお湯へと浸かった。

「あー、気持ちいなぁ」
 とても気持ち良さそうな声で穂が言う。私もその声に同意した。
「本当に気持ちいいね」
「……気持ちいい」
 栄美もいつもの少し小さな声で、同意してくれる。

「それで、混浴どうする?」
 穂が混浴に行くかどうかについて、私達に尋ねる。
「……誰も混浴に入ろうとしていないわ」
 栄美の言うとおり、女性客の誰一人として混浴へと向かおうとしていない。
「よし、私達は行こう!」
 穂が言いながら、お湯を上がって、混浴へと続く道へと歩いて行く。残された、栄美と私は仕方なくという感じを醸し出しながら、かなり興味津々に彼女の後に続いた。
 混浴へと続く道を歩く。
「男が居たらどうする? 声かけてみる?」
 穂がノリノリで、混浴へと向かう。
「どうしよう、私、恥ずかしくて声なんて掛けれないよ」
「……やっぱり、誰も居ないと思う」

 私達がそんな風に話していると、混浴のある場所の方からジャボンと大きな水の音がなった。私達三人が視線を合わせた。三人に緊張が走ったのが分かった。もちろん、水の音が鳴ったからといって、男性が居るというワケじゃないけれど、誰か居るということだけは分かった。
 穂が先頭を切って、扉を開けて中に入る。私も彼女の後に付いて行くと。
「あっ」
 小さな声が漏れた。一人、男性がお湯に浸かっているのだ。私は彼の顔をジーっと見てしまった。彼は、それに気づいたのか、私達の方をちょっとだけ見た後、言った。
「ごめんなさい、直ぐに出ますんで」
 可愛い顔から、放たれる可愛らしい声。果敢にも、穂が言葉を返す。
「え、あ、いや、ココは混浴だし。居ても構わないよ?」
「すぐに出るんで、ごめんなさい」
彼はもう一度、私達の方をチラリと見た後、言って出て行ってしまった。

「見た?」
 穂が、私に聞いてくるので私も返事をする。
「見た、めちゃくちゃ可愛い子だった」
「可愛かったな!私、男の裸、初めて見たかもしれない」
 そういえば、私も男の裸なんて見たことなかった。しかし、とっても可愛い顔に目が行って、身体はあまり見れていなかった。身体をもっと見ておけばよかったと後悔する。

「私、あの子知っているわ」
 栄美が突然そんな事を言う。知ってるって、知り合いの子なの? あんなに可愛い男と知り合いなの? 聞きたいことが山ほどあったが、なにから聞こうか悩んでいると。
「え? 誰? 知り合いの子?」
 穂が食いつく。栄美がもったいぶったような顔をして、教えようか教えまいか悩んでいるようだ。
「教えて! 知り合いなの?」
 私が、穂の後に続いて聞いてみる。

「……知り合いではないわ。テレビに出ていた子よ」
「え? 芸能人なの?」
 あれだけ可愛いなら、芸能人というのも頷ける話だ。しかし、恵巳は軽く否定して言った。

「……違うと思う。学校紹介に出ていた学生だと思う……」
 栄美が顎に手を当て考えながら、思い出すような仕草で言う。学校紹介? どういうことだろう。
「夕方の、あのテレビ局の有名な学校紹介の番組で、男女共学の学校紹介で出ていたわ」
 そうか、彼の出ている学校紹介なら見てみたかった。

「とりあえず、お湯に入らない?」
 三人は彼の出て行った扉を眺めながら突っ立っていた。肌寒くなってきた私は、そう言って、お湯に一番に入る。先ほどまで、天使のような容姿をした彼が入っていた、お湯だと考えると、なんだか普段と違うような、特別なお湯のような感じがして、興奮した。そして、そんな妄想をする自分に、恥ずかしくなったて身体が火照った。

 お湯に入った後、三人は温泉に浸かったまま何も話さなかった。もしかしたら、先ほどの彼が戻ってくるかもしれないという可能性を信じて、お湯に浸かり続けたが、そんな事はなく、誰一人として混浴には入ってこなかった。なので、三人共残念がって、お風呂を上がった。

 部屋に戻った後も、穂はグチグチと先ほどの混浴に入っていた彼のことについて話していた。
「しかし、可愛かったなぁ。もう少し、じっくり見たかった」
「あの子が混浴に居続けたとしても、そんなにじっくり見たらセクハラで訴えられるわよ」
 一応、混浴だとしてもマナー的にじっくり見るのは違反だろう。私はそう考え、穂に注意した。
「いいじゃんかよ、混浴に入ってるってことは、見られる覚悟があるってことだろう! あー、勿体無いことしたな。もっと早く行っていれば良かったかな」
 残念がる穂。確かに、もう少し早く向かっていれば、彼と一緒におしゃべりぐらい出来たかもしれない。でも、あんなにかわいい子なら、私達みたいな人とはおしゃべりさえしてくれないかもしれないから、逆に傷つかずに済んだのかもしれない。

 そんな感じで、私達の旅行は終わった。旅館の食事は美味しかったし、温泉も気持ちよかった。そして何より、混浴に居た男の子を見る事ができたし、中々良い旅だったと思う。

 

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