第34話 皆との夕食の時間

 温泉宿に来たけれど、まだ温泉には入らず、だらーんと過ごしていると、宿の従業員である着物を着た、先ほど部屋を案内してくれた男の人がやってきた。どうやら、夕食の時間らしい。
「そろそろ、夕食の準備をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
 香織さんが、反応して返事を返す。食事は部屋で食べる方式のようだ。
「よろしくお願いします」

「息子様はどうなさいましょう? こちらにお食事お持ちしましょうか?」
 違う部屋を取っている僕に対して、気を配ってもらったのか、どうするか聞いてくる。
「こっちに運んでもらえますか? お願いします」

 一人部屋に戻って食べるよりも家族全員で食べたほうが美味しいだろうと思い、食事をこちらの部屋へと運んでもらうことにした。

「春姉さんと沙希姉さんが居ないね、食事が準備できるまでに帰ってくるかな」
 僕は、二人が居ないことを確認してみんなに聞いてみる。探しに行こうかどうか迷っていると。
「私が探してくるわ」
 紗綾姉さんが、立ち上がりさっさと部屋を出て探しに行ってしまった。
「じゃぁ、待ちましょうか」
 香織さんが、残った僕と葵に対して言った。

***

 食事が運ばれている途中に、春姉さんと沙希姉さん、紗綾姉さんの三人が部屋へと戻ってきた。どうやら、館を探索していた二人は温泉に入ったようで、既に旅館の浴衣に着替えている。しかし、かなり浴衣は色っぽいなぁと思う僕。ちょっと意識してしまう。

「気持ちよかったよ、温泉」
 春姉さんが皆に温泉の感想を言いながら、窓近くの床へと座る。
「後でまた行こうっと、それよりも夕飯凄いウマそうだな」
 持って来られて、並べられている食事を眺めながら沙希姉さんが言う。
「皆の分が揃うまで、まだ食べちゃダメよ、沙希」
 香織さんが、沙希姉さんを注意する。手を伸ばしていた沙希姉さんは、笑ってごまかしながら食事から離れた。

「それじゃあ、お食事ごゆっくりお楽しみください」
 食事を人数分運び終えた時、旅館の従業員さんがそう言って、ふすまを閉めて出て行った。僕らは、それを合図にご飯の前に並んで座る。小さな鍋や釜のご飯、お刺身や天ぷらの揚げ物、ローストビーフに、山菜など、色とりどりの食材で彩られて、食事はかなり豪華である。

 皆で、合掌し頂きますを言う。言うやいなや、沙希姉さんが箸を手に、食べ始める。うまいうまいと連呼しながら食べるさまは、よほどお腹が減っていたのだろう。春姉さんや紗綾姉さんの箸を動かすスピードも結構早い。以外にも、二人共食べるタイプだからなぁ。葵はいつもの様に、じっくり時間を掛けて食べている。香織さんはお酒も飲むみたいだ。折角だから、おしゃくしてあげよう。僕は横に座っている香織さんの日本酒を手に取り、言った。
「お酒、おしゃくしてあげるよ」
「あ、ありがとう。優くん!」
 かなり喜んでくれたみたいで、提案してみてよかったと思う僕。僕も飲めれば良かったけれど、年齢が20歳に達していないからダメだ。そんなふうに考えながら、僕も食事に手を付ける。
 かなり美味しい、食材を活かしたまま調度良い味付けがされている。シンプルだけれど、かなり腕が良い料理人が作った料理だろうと予想する。

 黙々と食べる。皆も、とくに話さずに箸を動かしている。静かな時間が流れる。

 沙希姉さんが一番初めに食べ終わり、会話が始まる。
「美味かったけど、どっちかって言うと優の料理のほうがいいなぁ」
「ありがとう。でもココの料理も美味しいよ」
 僕は比較されて、美味しいと言われたことに照れる。しかし、ココの旅館の味もかなり美味しいので、あとに出た言葉は嘘ではない。
「旅館の料理は、そのまま美味いっていうか、愛情が足りないんだよね」
 たしかに僕は、家族のための料理を作る時は、考えてなるべく丁寧に作るよう心がけているが、それが愛情だと言われると、かなり照れる。

「そうねぇ、でも、この小さなお鍋とか美味しくなかった?」
 香織さんが若干酔ったような口調で、
「うん、めちゃくちゃ美味しかったよ」
 沙希姉さんが返事をする。美味しいのは美味しかったらしい。
 沙希姉さんにつづいて、春姉さんや香織さん、紗綾姉さんに葵が食べ終わる。最後に僕が食べ終わり、皆でごちそうさまを言う。ゆっくりした雰囲気が流れる。

 ご飯も食べ終わったし、風呂へでも行こうかなと考える。着替えとかを部屋に取りに行かないと行けないから、一回戻らないといけないな。
「お風呂に行ってきます」
 立ち上がって、香織さんと姉妹たちに言う。
「いてら~、気を付けて」
 沙希姉さんがゴロンと、寝転びながら視線だけを僕に向けて言う。

「混浴には注意してね」
 香織さんが、今朝話した内容を思い出したのか、混浴について注意する。注意を聞きつつ、部屋を出て、泊まる部屋へと向かう。

 部屋に戻ると、既に布団が敷いてあり、お風呂から帰ってきたらすぐに眠れるような状態になっていた。多分、食事を取っている間に、従業員の人が敷いてくれたのだろう。
「温泉久しぶりだなぁ」
 勝手に口に出るぐらい、楽しみと久しぶりで気分が高揚している。
「よし、温泉へ行こう」
 僕は、泊まる部屋から温泉へと向かった。

 

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