第33話 温泉に到着

「とーちゃく」
 香織さんの運転により、2時間ほど車に乗って進んだ先。旅館の近くの駐車場に到着して、車が止まった瞬間、到着と言って一番に飛び出す沙希姉さん。沙希姉さんの後に続いて、僕たちは車を降りる。

 天気は快晴。雲ひとつ無い晴れた気持ちのよい天気である。先頭を突っ切って、沙希姉さんは進む。旅館がよほど楽しみらしい。
 僕達の泊まる旅館は駐車場から少し離れた場所にある。旅館までの道中は温泉街になっていて、土産屋もあって見ていて飽きない。

 休日ということもあって、人のにぎわいがすごい。ただ、よく見てみると男性客はほんとうに少ない。周りを見てみてもほぼ全員女性だ。二,三人男性とすれ違ったが、それだけだ。それに、僕も少ない男性のうちの一人ということでだろうか、女性達に注目されているような気がする。こういう所で、この世界には本当に男性が少ないんだなぁと感じる。

「優、見ろ木刀を売ってるぞ」
 春姉さんが何故か木刀に食いついて、僕に指さして教えてくれる。なぜ木刀に食いついたのかは、少しの興味があったが今は別にどうでも良かったので、どうでも良い返事で返す。
「本当だね~」
 そんな風に話しながら、温泉街を歩き宿へと向かう。

 旅館は、老舗と言われているだけあって、外から見ても古い建物だとわかる。ただ、汚い感じじゃなくて、ちゃんと清掃されているとても綺麗な建物ではあった。そして、値段も結構しそうな場所である。

「ようこそ、いらっしゃいました」
 旅館の人が出迎えてくれる。
(う、そうか)
 旅館の出迎えの人は、男であった。男だけれど、着物のようなものを着ている。しかし、男性が着ているのは、男性の着物によくあるような暗い色じゃなくて、派手な赤の着物である。多分女将的な立場の人だろうとわかる。呼び方は女将じゃなくて、若旦那かな? 価値観の逆転。前世では、旅館の出迎えは必ず女性がしていたけれど、今世では男性がその役をやっている。こんな細かなところでも違いがあり、まだ僕は慣れない時がある。

「予約していた佐藤ですけれど」
 香織さんが、迎えてくれた若旦那と話し合っている。

「承っております。早速、お部屋まで案内させてもらいます」
 男性の声もどこか、おしとやかに感じる。若旦那の後をついて歩く。

 部屋は男女別で用意されていた。しかも、この旅館には一人部屋を備えてなかったので、僕は、二人部屋を一人で使うように言われたが、少し申し訳ない気持ちがある。お金も掛かるので、一緒でも大丈夫だと思い、そう伝えたのだが、たとえ家族だとしても、そこは別々にしないといけないらしい。香織さんに説得されて、僕は2人部屋を一人で使うことを納得した。

「しかし、広いなぁ」
 改めて部屋を見るが、二人で使っても広いぐらいの部屋。それを一人で使うなんて、何度も思うが、ちょっともったいないなぁと思う。部屋の位置、部屋の作り、窓から見える景色から、かなり上等な部屋だとわかる。内風呂まであったので、後で入ろうと考える。ただ、一人だとやはり寂しいと思い、早速部屋を後にする。荷物を置いて、早速家族みんなが居る部屋へ行く。

「あれ、春姉さんと沙希姉さんは?」
女性たちの部屋を訪れると、春姉さんと沙希姉さんの二人だけ居なかった。

「旅館の中を冒険ですって、春と沙希はいくつになっても子供ね」
 旅館の中を探索に行った二人を、だが嬉しそうな顔で話してくれる香織さん。香織さんは、ボーっと部屋の中にあるテレビを眺めていた。僕達を乗せての運転が疲れたのだろうか。僕は香織さんの隣に座り、同じようにテレビに視線を向ける。

「温泉は行かないの?」
「私は夕食を食べた後に行こうかな。優君は?」
 正直言うと、今すぐ温泉に行きたいかなとも思っていたが、一人だとやはり寂しいので、温泉はまた後で入ればいいかと考えなおし、まだこの部屋で過ごそうかと思った。
 部屋の隅にひっそりとしていた、紗綾姉さんと葵が僕の近くに寄ってきて、すぐ近くに座った。

「僕も行くのは後にします」

 久しぶりの家族団らんは、会話は特にはなかったけれど、5人でボーっとテレビを見ながら、だらーんと緩みきった空気で過ごすことが出来て、大分リフレッシュ出来た。

 

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