第30話 事態の急変

 親権問題について、事態が急変したのは家庭裁判所での話し合いが終わった数日後だった。

 送り迎えは基本的に春姉さんが付いてきてくれて、電車内以外の道では常に横に並んで歩いてくれていた。今日も学校が終わり、校門で待ち合わせて一緒に帰ると、家の前で人だかりができているのが見えた。

「春姉さん、あれ僕らの内の前に集まってるよね?」
「あぁ、何の用だろう、優少し待っていてくれ。ちょっと確認してくる。優は隠れていてくれ」

 言って春姉さんは颯爽とその人ごみに向かって歩き出した。僕は言われた通り、通路の角にそっと身体を隠した。

 待っていると、春姉さんの怒鳴り声が聞こえてきてびくっと体が震えた。あの春姉さんが怒っている?どうやら警察を呼ぶぞと言っているようだが。

 少しびくつきながら待っていると、春姉さんが戻ってきた。
「優、すまんが走るぞ」
 言って、僕の手を掴み走り出す春姉さん。

 僕は事態の展開について行けずに、言われるがまま引っ張られるままに家へと走る。まだ、先ほどの人ごみがあったが、こちらには近づかず遠目で見ている。

 大きなテレビカメラを持った人も居る。先日、学校紹介のテレビを取材された時に
使われていたカメラを思い出させてた。
 そのまま、走って家へと駆けこむ。春姉さんの結構な走る速さで、僕は玄関に入り込み手が離されるなり、ゼエゼエと息を切らす。

「すまない、優表の連中に捕まらないようにするにはこうするしかなかったんだ」

 どうやら厄介なことになっているらしい。


***


 夜になると、人ごみはなくなったが、何人かが通路の陰に隠れて待っているのが2階の窓から見えた。どうやら、表に居る人たちはマスコミの人らしく、僕を取材したいと殺到しているらしいということを春姉さんから聞いた。

 しかも聞きたい内容が、親権問題についての事らしく迂闊には話せない内容である。しかし、今僕たちが直面している親権問題についてはどうやら都築 精児が情報を流したらしい。

 春姉さんと沙希姉さん、紗綾姉さんは、表のマスコミたちをうっとうしがって早く消えないか、そう何度も言っていた。葵は、どうやら怖いらしく不安がっている。
 僕たちは母さんが返ってくるのを待ちながらテレビを見ていた。

 表のマスコミの人が言うには、7時から始まる番組で都築 精児が親権問題について語るという事らしくて、その番組を見るためにみんなリビングで思い思いの格好でテレビの前に居た。

 番組が始まり、確かにテレビには都築 精児が出ていた。内容は、最初は僕たちが置かれている現状についてを解説されて、次に、都築 精児がどんなに佐藤優を愛しているか
という事を語り、最後に、佐藤香織という人間は不当に親権を手放さないでいるという、無茶苦茶な番組だった。

 都築 精児がどうやらどうしても、僕の親権を欲していることが分かったが、こんなテレビを使って訴えるなんて卑怯だと思う。

 春姉さんと沙希姉さんは、都築 精児を心底嫌そうに不満を言っていた。母さんが帰ってくる。女弁護士の日下さんも一緒のようだった。みんなで家族会議となった。

「都築 精児は世論を味方に付けて、優の親権を取り戻そうと考えているみたい」
 香織さんが言うと、日下さんが返す。
「基本的に、今のままなら親権は返す必要は一つもない。倒れた原因も病院側の診断結果で、原因は不明だけれど虐待の可能性はゼロって結果を貰ったし」
 続けて日下さんは言った。

「ただ、調停委員の心象がテレビによってゆがめられてしまう可能性もあるから、調停委員に対して積極的に情報をこちらから出さないと、万が一という事もありうるわ」

 なるほど、情報を提供していく必要があるわけか。

「その情報って、どんなのが必要ですか?」
 春姉さんが話に加わり、日下さんに聞く。

「そうね、例えば香織が虐待を行っていないという証明に児童相談所のワーカーと面談を繰り返すとか、優君が調停委員に対して今以上に、香織と一緒に住みたいという希望を言い続けるか」

「都築 精児と住みたくないという主張はどうですか?」
 春姉さんは真剣に僕のことについて考えてくれているようだ。

「ん~、あまりネガティブな発言をして別の問題に発展すると話がややこしくなるからね」

「別の問題とは?」
 日下さんが答える。
「都築 精児と住みたくない、そういう理由が必要になってくるのよ。それにネガティブな発言は、調停委員の心象にも良くないからね。それよりも、香織と優君が一緒に住みたいという理由を探したほうが賢明ね」

 そういうものなのだろう。

「僕が、香織さんの元を離れたくないのは、都築 精児という男の記憶が無いからです。僕が起きたときには、香織さんの母親という記憶はありましたが、都築 精児が父親だという記憶はありませんでした。そういうのって理由になりません?」
 僕がそういうと、日下さんは一度僕の方に目を向けてうなづくと答えた。

「そうね、加えて倒れたことによって精神的にまいっている状態だから、今の状態を無理にでも変える必要もないという理由があるわね」

 話し合いは続いた。

 

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