第28話 弁護士事務所にて

 元父親、名前を都築 精児(つづき せいじ)と言うらしい、その人が帰ってからも、香織さんは元気がなくなり、部屋で休むと言って閉じこもってしまった。

 次の日、僕と香織さんは弁護士事務所へ来ていた。香織さんが懇意にしている女弁護士らしく、名前は日下ひのしたあいといらしい。今回の親権について昨日の夜のうちに、ある程度相談していたらしい。

 そこでもっと詳しく相談するために明日、子どもと一緒に来てくと言われたらしかった。そのため、学校には朝に事情を詳しく話して休ませてもらい、ここに来たということだった。弁護士事務所へ到着すると僕たちは、来客用のテーブルらしい所に案内された。

 5分ほど待っていると、黒のスーツを着た、銀縁メガネを掛けた女性が入ってきた。

 厳しさを持つような声でハキハキとその女性は言った。
「香織、待たせた」
「こっちも急でごめんなさい、アイ」
 挨拶をすると、握手を交わして二人は笑顔になる。かなり親しげな動作に、二人の中の良さが見て取れる。

「それでこの子が?」
 厳しい顔に戻り、こちらに目を向けいう。
「うん、ゆうくん」
「大きくなったな、それに美人になった」
 美人という言葉に思うところはあったけれど、一応返事をする。向こうは僕を知っているようだったが、僕には記憶がなかった。

「あの、ありがとうございます」

 僕と香織さんに席に座るよう言って、日下さんも座ると話が始まった。
「それで昨日も話したけれど、もう一度改めて聞こうか」
「えぇ、昨日都築 精児が家の前に来て、仕方なく家に上げたら親権を返すように言われて」
 昨日のことを思い出しながら、香織さんが言う。

「そこでの話し合いは具体的にどんなことを言った?」
「都築は、ゆうくんが2月頃に倒れたことと、朝女性に襲われたことを知っていたわ。それを話して、私に対して親失格といった」
 日下さんは、顎に手をあて考えこむ。視線が中空に漂ったままに、日下さんが考えを言う。
「朝の出来事を午後には知っていたとなると、もしかしたら向こうは探偵か興信所を雇って、優に関して調べているのかもしれない」

「調べる目的は何でしょうか?」
 調べられる理由を思いつかず、日下さんに聞いてみる。
「親権を本当に欲しがって、交渉の材料を集めていたということだろう」

「なんで今さら親権を欲しがるのでしょうか?確か親権の変更はかなり難しいんじゃありませんでしたか」
 前の世界の記憶から、一人知り合いに親権の変更をしたことがある奴がいたが、かなり面倒だったと言っていたのを聞いている。

「君の言うとおり、親権を変更するのは結構難しくて面倒だ。変更には家庭裁判所の許可が絶対に必要になってくる。ただ、先にも言った通り、以前から調べていたとなると、親権を本当に欲しがって交渉の材料を集めていたということになる。それが、集まり終わったので香織と交渉を持ちかけたというのが考えられる一番の理由だと思う」

「アイ、情報が集まったから動いたということは、親権取られてしまうの?」
 香織さんが不安そうに聞く。

「親権についてのポイントは、先ずは本人の意志。未成年だが17歳という年齢はもうすでに自己判断できる年齢だと考えられる。本人の意思が、親を変えたくないと思えば、その意見はかなり尊重されるだろう」
 言って、日下さんはどうだ?と目で聞いてくる。

「はい、僕はこれからも香織さんの子供でいたいと考えています」
 正直、昨日元父親と言われている都築と出会った印象は良くない。
何を考えているのか、わからないニコニコ顔や他の姉妹たち女性を一蹴して、僕だけの親権を欲しがる考えは、聞いていて気持ちは良くはなかった。

「次に、身上監護権に問題はないかどうか。つまり、ちゃんと育てられているか、虐待の問題はないか、ちゃんと学校に行かせられているか」
 一息ついて、日下さんは続ける。
「ここで問題になってくることが2月の倒れて入院したという事柄だな。何が原因で倒れたのか、
もしも栄養失調などで、倒れたのだとしたら虐待に当たる可能性がありと見なされて、
向こうにかなり有利なものになる」
 どうかと次は、香織さんに目で聞く。

「・・・・・・たしかに、私達のその頃の生活ではスーパーのお弁当やお惣菜で済ませてしまうことが多かった。栄養バランスは良くはなかったと思うの」
 確かに、スーパーの弁当や惣菜だけだと栄養バランスは偏るよなと思う。ただ、と続けて香織さんが言う。
「ただ、病院の先生の話だと特に異常は無く、何が原因で倒れたかわからないとおっしゃっていたわ」

「……」
 日下さんは、何やら難しそうな顔で考えを巡らせているようだった。と、すぐに口を開く日下さん。

「ともかく、一度詳しい内容はその病院の担当医に聞いてみるしかあるまいな。調停の期日の連絡が来るまで、準備が必要になるな。調停の期日まではまだ時間がありそうだし。
今の時点で分かっていることをもう一度情報を集めて整理する必要がありそうだ」
 日下さんが、そう締めくくり話し合いは一度終わりとなった。

 

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