第26話 見知らぬ男

 香織さんの運転する車に乗せられ、学校から家へと帰る。
 最近の香織さんは、朝早くに家を出て、夜遅くに帰るという生活を送っている。

 なかなか、時間が合わずに話す機会もなかったので、車の中での会話は最近の近況報告だった。今日学校で何をしたか、どんな勉強をしているのか、朝晩の料理の準備はつらくないか、朝の出来事も少し話し合った。
 危機感のない僕に、香織さんはもっと注意しないとダメと、ちょっと説教されたりした。

 途中、買い物をするためにスーパーに寄った。やっぱり車だと楽だなぁなんて思いながらも、この機会に色々と買い込んだ。

 スーパーを出て、見知った道に入る。そろそろ、家の近く。後5分というところだろう。

「もうそろそろ着くわよ、降りる準備をして」
「うん、わかった」
 スーパーを出てからなんとなく途切れていた会話は、最後そんな風に終わる。後ろの席に置いてある、買い物袋をチラッと見て降ろす物を確認する。

 と、急に香織さんが車のブレーキを切る。

「わわっ」
 急なブレーキに、シートベルトが身体に食い込む。
 前方を見ると、住宅街の中10m先ぐらいにある自宅の前で男が一人立っているのが目に入った。背はそんなに高くない。僕と同じ160cmぐらいだろうか。

 もう外は暗くなっているのに、電灯に照らされて、真っ白なワンピースを着ている事が分かる。その男は、ニコニコっとこちらを見て笑っている。

「ちょっと、待っててちょうだい」
 厳しい口調でそういうと、路肩に車を駐車し降りる香織さん。バンッと大きな音を立てて、車のドアを閉める。肩を怒らせて、男に近寄っていく。

 急な展開についていけない。
 あの男の人は誰だろう?
 何故香織さんは急に怒ったように、機嫌が悪くなったのだろう。

 男と香織さんが何やら口論している。男は終始ニコニコしている。そして、香織さんが詰め寄り男に何か言っている。

 と、男の人が僕の自宅に入っていくのが見える。香織さんは、こちらに戻ってくる。

 出て行った時と同じように、機嫌悪そうにドアの開閉を行う。
「・・・・・・」

 無言で車を走らせ、自宅のガレージへと駐車させる。
「あの、香織さん?今の男の人は誰ですか」
 駐車が終わるのを見計らって、尋ねた。家に入って行った男。見覚えが無いから、もしかして香織さんの会社関係の人だろうか。数秒僕を見て、黙っている香織さん。

 何やら、言いにくそうにしている。あの男の人は誰だろう気になる。何かの考えをひりはらうように首を振って、香織さんは言った。

「あの人は、私の元夫よ」

 

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