閑話08 鏡桜の場合

 約束の時間まで、もう間もない。

 どの服を着ていくか、朝から迷いに迷っている。女らしくジーパンにシャツ、ラフな格好は優君に受けるだろうか。それともビシッとスラックスにYシャツで、年上っぽさを醸し出したほうが良いだろうか。
 それとも、それとも・・・・・

 もう2時間も迷いに迷い、結局一番最初に思いついたらラフな格好で行くことにした。ズボンのポケットに財布だけを入れて、家を出る。

「母さん、ちょっと学校に行ってきます」
 母さんの返事を待たずに、家を出る。学校に行く前に、ちょっと用事があるけれど、それは言わない。

 電車に乗って待ち合わせの場所へと到着する。予定の時間よりも5分早くきたが、なんと既に優君は約束の場所で待っていた。

「おはようございます。鏡さん」
 優君が私に笑いかけてくれる。待たせてしまったのになんて優しいのだろう。

「桜でいいよ、佐藤さん」
「それじゃあ僕も優って呼んでください、桜さん」

「わかった優君、それよりも待たせてしまいましたか?」
 脳内では既に優君と呼んでいたのですんなりとそう呼べるようになった。

「いえ、今来たところですから大丈夫ですよ」

 恋人のようなやり取りに、幸せな気分になる。待った?今来たところという超定番のやり取り。もう一生分の幸せを感じたような気さえする。

「じゃあ行きますか」
 優君に促されて、町の商店街の方へ行くことになった。


—————————————————–


「これとこれを頂くんで、おまけしてもらえませんか?」
「いいよぉ、これとこれをおまけしてあげる。ついでにこれもあげちゃう」
「ほんとですか?有難うございます」

 優君は先ほどから八百屋の女主人と楽しそうにお話しながら買い物をしている。すごく楽しそうにしているので、見ているこっちも嬉しい

「あれ~桜じゃん。何してるのこんなところで」
 嫌な奴に会ってしまった。クラスの美人に分類される、蔦 寿美枝だ。肉付きがよく、
髪もショートが似合う女性で、何人も彼氏を持っているらしいことを聞いたことがある。
 彼女は、ことあるごとにクラス一不細工な私を苛めるので休日には絶対会いたくはなかった人物だ。

「……」
 無言で返すと、蔦 寿美枝はちょっとムッとしてこちらに詰め寄り言う。
「無視すんなよ」

 と、そこに買い物を終えた優君が戻ってくる。あぁ、なんてタイミングに。蔦 寿美枝には会わせたくはなかったのに。
「あっ、佐藤さん。こんなところで会うなんて奇遇ですね」
 直ぐに猫を被る蔦 寿美枝にイラッとする私。

「えっと、……こんにちわ…」
 優君が怖がっている、助けないと!
「優君が怖がっている、離れろ」
 腕を伸ばす蔦 寿美枝を、優君の前に体を割り込ませて阻む。

「何すんだよ、桜のくせに」
「……」
 無言の視線に、フンッと鼻を鳴らして、不機嫌そうに去っていく蔦 寿美枝。後ろでふぅとため息を吐く優君に、気づく。

「迷惑でしたか?」
「えっ、嫌全然。あんなに不細…、っとちょっと女性らしからぬ人に迫られてビックリしたので助かりました」

 迷惑がられるとちょっと不安になったけれど、良かった、優君の助けになって。
「あっ、荷物持ちますよ、貸してください」
「えっ、いいですよ。自分で持ちますよ、これでも男ですから」
 いやいや、男だから重い荷物は持っちゃだめなんですよ優君。

「いいから、貸してください女の私が荷物持ってないと、様にならないじゃないですか」
 まだ、悩んでいる優君の手から無理やり袋を取る。
「……じゃぁ、お願いします」

「それで、さっきの人は誰ですか?クラスメート?」
「うん、蔦 寿美枝っていうクラス一番の美人なの。優君もあんなのが好み?」
 ちょっと不安なその質問に、すぐに返事が来る。
「いや全然。僕は桜さんの方が好きです」
 私の目を見て、真剣にそういってくれる。なんて、優しいんだろう。クラス一不細工と言われている私を好きと言ってくれるなんて。

 そんなような話をしながら、午前の買い出しは楽しく終わり、学校へと向かった。

 

スポンサーリンク

 

backindexnext