第16話 部活動2

 料理室の隣の部屋へ招き入れられた僕は、内部を観察した。部屋中央には、背の低いテーブルに見た目合成皮革のソファー。その他は壁沿いに棚があったりするが特に目を引くようなものはない。よくある、応接室のような場所だった。

「そこに座ってくれるかい、桜お茶を用意してくれ」
 前半は僕を見て、後半は桜という女性を見て言う。言われた通りに座る。向かいの席に、自分を部長と言った人物が座る。

「さて、どこから話そうか」
 そう小さく言って、あごに手を当て考え出す。そんな彼を僕はよく観察した。かなり色白で、目がパッチリ大きく、いわゆる中性的な顔立ちだった。髪の毛も長く少し自然な茶色っぽい。首元まで伸びていて、見方によっては女にも見えるだろう。

 考えが纏まったのか、彼が話し始める。
「加藤先生に聞いたのですが、記憶喪失だそうですが…」
 少し言いにくそうに声も小さくなって、僕に対して記憶喪失について聞く。

「ええ、2ヶ月ほど前に倒れてから、それ以前の記憶がありません」
 簡潔に事実を言う。少し困った顔になる、部長。
「と言うことは、部活動の記憶も当然ないんでしょうね」
「部活動の記憶はないです。僕はどういった活動をしていたんですか?」
 部長の言葉を肯定して、疑問に思っていたことを聞く。
「う~ん、そうですね……。この部の状態は加藤先生に聞きましたか?」
 僕の疑問に逆に質問をしてくる。この部の状態とは、つまり幽霊部員が多くて活動的ではないと言うことだろうか。

「部員が活動にあまり参加しないと聞きました」
「うん、そして以前の君も部活にあまり積極的ではなかった」
 やはり、倒れる前の佐藤優は料理ができなかったんだろう。この料理部の多くの部員と同じように活動には参加していなかったようだ。

 と、話していると紅茶の良い匂いが漂ってきた。頼まれていた女性が、少し危なっかしくお盆を持ってこちらに来る。

 部長も会話を中断して、鋭く女性を見ている。ただ、見ているだけで助けるようなそぶりは見せない。
 見ているだけなのも辛いので、助けようと立ち上がりかけると、部長が待ったをかける。
「助ける必要はないですよ」

 少しキツめに言われて、体が止まってしまった。待っているしかないようだ。やっとの思いで、お盆をテーブルまで運ぶとお盆の上からカチャカチャとソーサーとコップを小刻みに鳴らしながら紅茶を僕と部長の前に置かれる。

「桜は紅茶を入れるのだけはうまいんですよ」
 言って、置かれた紅茶を飲む部長。
「あ、あの、どうぞお飲みください」
「ありがとうございます。頂きます」
 異常なほど低姿勢で言ってくる、女性にこちらも恐縮しながら紅茶を頂く。

 一口飲んで、そのおいしさに気づく。強い香りに、程よい渋み。ストレートティーの渋みは少し苦手だったけれどこれなら全然飲める。イチゴのショートケーキやフルーツのタルト等がとても合いそうだった。紅茶を飲んで少し休憩した後、会話が再開された。

「それで、先ほどの続きなんですが部員の活動不参加の他にも問題がありまして……」
「問題ですか」
 かなり深刻そうな顔に、声色も暗い。部長の横に座った女性も、”問題”という言葉に泣きそうになっている。

「部活が廃部になるかもしれないのです」
 溜めて放たれた言葉、廃部。深刻そうなのと泣きそうなのは、部活がなくなってしまうからか。

「原因はやっぱり、不参加の部員が多いからですか?」
「えぇ、そうです。もともと、料理部は男性らしく料理を学ぶための部活でしたが、こうも部員が所属だけして活動に参加しないと、学校側も問題視していて」

 ”男性”らしく料理を学ぶか。しかし、幽霊部員がこうも重たい問題だったとは。
「私は、料理部の部長としてなんとしても廃部は阻止したいと考えてまして、部員とお話する機会を設けているんですがなかなか……」

 今日のお話は、部員の参加率を高めるためのもののようだ。
「どうでしょう、佐藤さん。是非学年も上がったことですし、部活に参加してください」
 ぐいとテーブルに手をついて体を寄せてくる。かなりの迫力に体が反れる。

「あ、あの是非お願いします」
 もともと料理も好きなので、活動に参加するのは嫌ではない。廃部の危機というあまりよろしくない事態だけれど。

 

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