第10話 始業式

 ノックをしてからがらっと扉を開ける。
(うぁ、なつかしいなぁ)
 かつて通った学校ではなかったが、感覚では10年以上昔の記憶にある職員室の風景を思い出させて懐かしいと感じた。時間が無いことをを思い出し、扉から一番近い席で何か資料を確認している先生に声をかける。

「すみません」
「はい?」
 メガネを掛けた女の先生だった。机から顔を上げてこちらを見やるのを確認してから聞く。

「加藤先生の席はどちらですか?」
「……えっと加藤先生に用ね、ちょっと待ってて」

 こちらをちょっと凝視したり、妙な間があった。何かおかしかっただろうか。メガネの先生は職員室全体に響き渡るような大きな声で加藤先生を呼んでくれた。

「いやぁ、日野先生済まない」
 かなり大きな人が近づいてきた。もしかしたら190cm以上あるかもしれない、きっちりした黒のスーツに厳つい顔に野太い声。

「待たせた、ちょっとこっちに」
 職員室の外に連れて行かれた。
「済まなかった。本当はこっちから迎えたかったんだが始業式と入学式の準備で忙しくてな。このプリントを確認してくれ」
「いえ、大丈夫です」
 プリントを受け取りながら、適当な返事をする。4月の予定表のようだ。プリントの予定にざっと目を通す。
(あっ、明日身体測定がある)

「病気は大丈夫そうか?」
「えぇ、退院してから一ヶ月特に問題はありません」
 担任としては、気になるところだろう。記憶喪失である事。他に特に問題はない事。1ヶ月どのように過ごしたかなど、3日前電話で話したことをもう一度伝える。

「ん、とりあえず教室に行くか」
 話し込んでしまって、かなり時間が経ったようだ。先を歩く先生の後に付いて行く。


「先に、教室に入ってくれ。開いてる席に座れば良いから」
「わかりました」
 2-Bと掲げてある教室の前まで来ると、先に入るように言われる。少し緊張しながら扉を開け教室に入る。

(う、注目されてる)
 扉を開ける前に小さく聞こえていた話し声がピタッと止まって静まる教室。40人ぐらいのクラスで、既にみんな席についている。

 こちらを見ている視線を感じながら、開いてる席を見渡し探す。一番前の窓側の席が開いているようなので、その席につくことにする。

 席に向かう途中も離れない視線。ちらっと目をやるとすぐに視線を逸らされる。見られているのは勘違いかとも思ったが、違うようだ。

 席について思わず息をつく。知らない顔ばかりだった。もしかしたら記憶にある学生生活の友達が居るかもとも思っていたのだが。

 色々と考えていると、先生が入ってきた。

 点呼を取るようだ。懐かしい光景だった。自分の番になり、少し気恥ずかしい気持ちになりながら返事をする。


 先生が少し話すと、体育館に移動となった。かなり広い学園らしく、教室から体育館まで移動に時間がかかった。仲の良い友達がクラスに集まったのか、朝のうちに仲良くなったのか、移動中にいくつかのグループに固まって話しているのが見えた。意外にも男子が多いようで、クラスの半分ぐらい居るようだ。女子のグループ、男子のグループに加えて、男女混合のグループも見受けられる。

 男性が2割しか居ないって聞いていたけど、意外に多いのかも。担任も男の先生だし。もしかして、このクラスが特別多いのかもしれない。

 体育館に到着すると背の順で並ばされる。僕が一番背が低いので前に並ばされる。学園長の話やいろいろな先生の話など、懐かしい気分になり色々と思い出しているとすぐに始業式は終わった。

 クラスに戻り再び席につくと、掃除する場所を振り分けられる。僕の担当は廊下のようだ。掃除をしたら今日は終わりのようでクラスのみんなは机をすぐに移動させ、手早く掃除用具を手にして掃除を始める。早く帰りたいようだ。

 箒を手にして廊下に出る。
「よっ、久しぶり。入院したって聞いたけど大丈夫だった?」
 廊下を掃除していると、知らない男に声をかけられた。かなり親しそうに話しかけられたので友達だったのかもしれない。

「あの、ごめんなさい。記憶喪失で忘れてるらしくて……あなたが誰だかわからないです」
「記憶喪失だって!?そんなのほんとうにあるの?」

「自分でもあんまり実感が無いけどそうらしいです。もし良かったらお名前聞かせてもらえますか」
「ん~、とりあえず安宅圭一って思い出さない?」
 身長は僕に比べ高めで170cmぐらいか、肩に届くぐらいの髪、薄目にメガネをかけていてちょっとコケた頬と細めの顔。
 名前を繰り返し、顔を観察したが全く記憶に無い。

「ごめんなさい、わからないです」
「いいっていいって、記憶喪失って大変だね。それと、敬語もいらないよ」
 その後、掃除をしながら圭一君がかなり親しい友達だったらしいこと。クラスは隣のC組ということを聞いた。掃除が終わった後、電車が一緒で毎日行き帰りを一緒にしていたことを聞いていたので、今日も帰りを一緒にすることを約束した。

 掃除後は、一度教室で先生の話と注意、明日身体測定があることを聞いて解散となった。
 C組の前で待っていた圭一君と合流して帰ることにする。

 圭一君は話好きなようで僕は聞き役に徹していた。僕が倒れて学校に行けなくなった後のこと、卒業式の準備をしたことや、春休み友達と集まって遊んだことを教えてくれた。

「それにしても、今年は女子ハズレだなぁ」
「ん?気になる子は居なかったの?」
 唐突にクラスの女子をバッサリと切る圭一君。


「みんなナヨナヨってしててダメだなぁ。もっとバリっと女らしい感じじゃないと駄目だよ。それよりも、女らしいって言ったら優の担任の先生は良いよね」

「ん~そうかな」
(女らしいって言う事は、男らしいってことで厳つい顔の加藤先生はOKってことか。それよりも、やっぱり圭一君もそっち系か)

 部屋にあったBL本を思い出す。
「そうかなって、前に優あの先生良いって言ってたじゃん」
「いや、あんまり……」
(過去の僕もそっち系だったらしい……)
「ん~、記憶喪失って好みとかも変わるんだね。知らなかった」

 などなど話しながら電車に乗って家へと帰る。圭一君は一つ前の駅で降りるようでそこで別れた。その後僕もすぐに家へと帰った。

 

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