第09話 始業式の朝

 一ヶ月が経った。
 この一ヶ月は、ほとんど家で過ごす日々だった。学校は、ちょうど期末テストも終わり、春休み前だったため進学にも問題ないので、念のため春休みが終わるまで療養という形で休学させてもらった。

 また倒れると危ないので、外出も控えるようにした。外出するときは家族の誰かが付いて近所を散歩するぐらいだった。春休みも終わって、始業式となる今日から通学を始める。


 起きて準備をする。制服は昨夜、チェックしてクローゼットのハンガーに掛けてある。取り出して、改めて見る。制服はブレザーで、もちろんスカートだった。一ヶ月たったが、やはりまだスカートを履くという行為に多少の違和感を覚える。しかし、スカートを脱いでズボンを履きたくても、クローゼットには一枚も無いのだ。
 何日か前に香織さんにそれとなく、ズボンが履きたいと言ってみたところ、「男の子の履くものじゃないわ」とバッサリ切り捨てられたので、ズボンを履くのは断念した。

 今日は始業式だけなので、カバンには筆箱ノート以外何も入っていない。

 カバンを持って一階に降りる。台所に掛けてあるエプロンを身につけて昨夜の内に炊飯器に予約しておいた、朝のご飯を確認する。しっかり炊けているのを確認し、味噌汁と野菜炒めに焼き魚を作る。味噌汁のためのだしを取っている間にチンゲン菜とハムの炒めものを作っていると、春お姉ちゃんがダイニングルームに入ってくる。

「おはよう、春お姉ちゃん」
「あぁ、おはよう。優」

 春お姉ちゃんは、朝食ができるまでテーブルに着き新聞を読み始める。野菜炒めを作り終えて、味噌汁を作り終えると次に葵がダイニングルームに入ってくる。

「おはよう、葵」
「…おはよう……」
 挨拶を投げかけると、一応小さな返事が返ってくる。チョコンと、春お姉ちゃんの隣に座ってぼーっとする。

 焼き魚を焼き終えると、ドタドタと大きな音が聞こえてくる。次に、沙希姉ちゃんが扉を開けて入ってくる。
「あさごはんっ!」
「おはよう、そこにあるから持ってって」
 沙希姉ちゃんは限界まで寝てから朝の部活練習に行くので、朝ごはんを家では食べない。いつものように、夜の内に作っておいたサンドイッチを手に取る。

「じゃあ、いってきま~す」
「いってらっしゃい」
 慌ただしく出て行く沙希姉ちゃんを見送り、朝ごはんを皿に盛り付けテーブルに並べる。
 エプロンをとって、席につく。朝ごはんが準備できたのを見た春お姉ちゃんは、新聞を折りたたみ脇に置くと、二階でまだ寝ているだろう紗綾お姉ちゃんに向かって大きな声で言う。

「紗綾!朝ごはんだ!……よし、いただきます」
「いただきます」
「……いただきます」
 3人手を合わせて食べ始める。

 ご飯を食べていると、紗綾お姉ちゃんが入ってくる。かなり、眠そうだ。のっそりと半寝の状態で、席に着き寝ぼけ眼でご飯を食べ始める。これで家で食べる組の4人が揃ったことになる。

 香織さんは、朝がとっても早いので沙希姉ちゃんと同じくサンドイッチを作って置いておき、朝出るときに持って行ってもらうようにしている。なので、香織さんと沙希姉ちゃんの2人は通勤・通学中に食べる組だ。

「ごちそうさま」
 春お姉ちゃんがいち早く食べ終わり、洗い場へ食器を持っていく。

「……ごちそうさま」
 次に、葵が食べ終わる。洗い場へ食器を置くと、すぐ部屋を出て行く。

「…ご…そう……ま…」
 ほとんど寝ている状態で、食べ終わる紗綾お姉ちゃん。危ないので、僕が代わりに食器を片付ける。

 みんなの食べ終わった食器を洗い、食器棚に片付ける。

(明日からは、お弁当も作りたいからもうちょっと早めに起きないといけないな)
 皿洗いが終わった頃、家を出る予定の時間になっていたのでカバンを持って部屋を出る。

 靴を履いていると、春お姉ちゃんが声を掛けてきた。
「優、気を付けてな」
「うん、わかった」
 靴を履き終えて、玄関扉に手をかける。
「じゃあ、いってきます」
「あぁ、いってらっしゃい。本当に気をつけてな」

 久々の外出。一ヶ月間はまた倒れると危ないので、外出は控えるように言われたので外へは出なかった。
(雨が降らなくてよかったな)

 地図で教えてもらった道を行く。迷わず近くの駅に行けたので、ほっとする。
 切符を買って、改札を抜ける。
(帰りに定期を買わなくちゃいけないな)
 忘れないように、帰りにしなければいけないことを繰り返し思い出す。
 階段を上がった所で、電車を待つ。

“男性車両”と書かれているのを確認した所で電車を待つ。“男性車両”と“女性車両”というのがあるらしい。記憶にあるような“女性専用”だけではなく、完全に男性と女性の乗る車両を分けているらしい。

 列車が到着したので、乗り込む。乗り込むのは僕一人だけのようだ。中に9人乗客がいる。全員学生のようで、僕と同じブレザーの制服を着ている。隣の車両を見ると、結構な人数の女性が電車に乗っているのがわかる。前の記憶の満員電車での通勤を思い出す。

 それに比べたら、今のガラガラに空いた車両がすごくありがたい。空いている席に座って、窓の外を見る。

 6駅目の駅で電車を降りる。駅の改札を通り、学園へ向かう。地図で教えてもらったルートを思い出しつつ、多分同じ学園に行くんだろうと先ほどの同じ制服を着た9人の後をそれとなく付いて行く。

 教えてもらったルートを思い出しながら前の人を気にして歩いていると、だんだんとブレザーを着た女の子が増えてきた。女子生徒たちはもちろんズボンを履いていた。道は合っているようだ。

 駅から10分程歩いた所で、大きな校舎が見えた。あれが今日から通う学園だろう。前の記憶で通っていた学校とは違う。少し不安を感じる。

 校門を抜けて、校舎に入る。職員室に来るように言われているが、場所がわからない。壁に掛けてある時計を見ると、時間がちょっとやばい。場所は人に聞くことにする。

「あの、職員室ってどこですか?」
 周りを見回して男子生徒が居ないので、近くにいたメガネを掛けた女子生徒に尋ねてみた。
「あっ、えっ?しょ、あの、えっと……」
 かなり、驚かれた。
(ありゃ、やばかったかな)

「あの……あっちです」
 顔を俯かせ指を向けて、場所を教えてくれる。
「ありがとう」
 お礼を言って、職員室を目指して歩き出す。

 女子生徒に教えてもらった方向へ歩いて一度突き当りを右に曲がるとすぐに、職員室があった。ノックをしてからガラッと開ける。

 

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