閑話05 香織、会社での昼食

「失礼します。社長、資料まとめておいたので、後で目を通しておいて下さい」
「ありがとう、助かったわ」
 秘書である道重あゆむが、頼んでおいた資料を私のデスクの上に置きながら言う。頼んだ仕事を素早く対応してくれる、素晴らしい女性秘書だった。

「あれ? 社長。手作りお弁当ですか?」
 道重が目ざとく、私の手元にあるお弁当に気づく。そうなのだ、これは優くんの手作り弁当だった。

「えぇ、私の息子が作ってくれたの」
「え? 息子さんが作ってくれたのですか? 社長の手作りじゃなくて?」
「そうなのよ。私の自慢の息子が作ってくれて持たせてくれたのよ。それに私、料理はダメなのよ」
 秘書に対して軽く自慢しながら、楽しみにしていた弁当をつつく。

「素晴らしい息子さんをお持ちですね。私の息子なんて、ずっと反抗期で弁当なんかとても作ってくれはしませんよ。そもそも、話をすることさえ、ここ何年かしていませんし……」
「あら、そうなの?」
 私も以前までは、道重と同じような境遇だった。お弁当を作ってくれることなんか、ましてや話をしてくれることさえ、してくれなかったのに、突然作ってくれるようになったのだ。

「弁当を作ってくれるなんて、親子関係を良くする、何か秘訣なんてあるんですか?」
 道重はすがりつくように私を見ている。どうやら、息子との関係がうまくいっておらず、本当に困っているようだ。たしかに、息子を持った女親ならば、是が非でも仲良く関係を持っていたいと思うだろう。

「うーん、秘訣なんてわからないわ。私も最近息子との関係が改善されて、向こうの方から歩み寄ってくれた感じだし」
「……そうですか」
 道重は本当に残念そうに、そう返す。仕方ないので、元気づけるようにする。

「それよりも、道重。このお弁当、一口食べてみる?」
「……良いんですか?」
 内心を隠そうとしているが、かなり食いついているのはバレバレだ。
「一口だけね。ほら」
 弁当の中から、とても美味しそうな玉子焼きを箸でつまみ道重に食べさせる。

「あっ、とても甘いです。それに、ふわふわの食感ですね。お店の玉子焼きでもここまで上手なのは中々出会えないですよ」
 一気に道重のテンションが上がる。どうやら、元気づける事には成功したが……。

「あの、他のおかずも一口……」
「ダメッ、これは私の弁当です。道重は、弁当屋の弁当でも食ってなさい」
 残り少ないおかずを取られる訳にはいかない。私は、お弁当を取られないようにするために、弁当を食べ始める。
(うわ、本当に美味しい。ユウくん、こんなに料理上手かったんだ)
「社長は、お弁当をお楽しみのようですし、失礼しますね」
「資料ありがとうね」
 デスクの上に置かれた資料を掴み、道重にお礼を言いながら、私はユウくんのお弁当を食べるのを再開した。

(サラダ、お弁当なのにシャキシャキで新鮮だわ)
(ウインナーもしっかり味付けされていて、とても美味しい)
(ご飯って、ウチの炊飯器で炊いたのかしら。こんなに美味しいなんて……)
(うわっ、なんて美味しい唐揚げなのかしら……。これ冷凍じゃないわよね)

 食べ終わる頃には、至福の時間を過ごしていた。ユウくんがこんなに料理が上手だったなんて知らなかった。昨日の夕食も素晴らしかったが、時間が経ってなおも美味さを保っている弁当の美味しさに感動してしまった。

 

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