第03話 地方での生活

 父親との会食から一週間後。特に大きな出来事もなく、凪な一週間を過ごしながら王都の屋敷からロートリンゲン領へ住み替えのための準備は完了した。と言っても、俺自身の荷物は何を持って行っていいかを判断できないため、侍女のマレットに全てを準備してもらったのだが。

 生まれてから今まで住んでいた屋敷(俺の意識としては、3週間ほどの期間だけだが)を出発する日。旅には俺とマレットの2人、加えて旅の間の世話や護衛のために屋敷の使用人達が12名付いて来る事になった。母親はまだ、屋敷を離れられない事情があるらしく、俺が出発した後に別の機会でロートリンゲン領の屋敷に向かうらしい。

 王都からロートリンゲン領への旅は一週間の行程だった。この旅の間は、結構面倒な事になった。
 どうやら俺がルークになった後、屋敷で過ごしている間に、俺が公爵家の後継者という立場から転がり落ちた事によって弱気になったため、以前のような傲慢で高圧的な態度を取らなくなったと使用人達の間で噂になったらしい。
 旅の間に俺を観察していた使用人達が噂は本当だと確信すると、日を追うごとに俺に対する態度が粗悪になっていった。更には、言葉で攻撃されるようになり、ついには俺に対して乱暴に振る舞うようになった。

 どうも俺が王都を離れている間、父親の庇護下を離れて、ただの貴族の子供(しかも利用価値が限りなくゼロに近い)に対して気が大きくなっているようだった。 反抗すれば彼らを喜ばせて更にひどい仕打ちがされて最悪の場合もありうるし、旅の間に彼らの手助けがなければ、歩くのもやっとな俺はロートリンゲン領に向かうなんて大変なのも理解していたので、使用人達の態度を受け流していたが、現場を目撃した侍女のマレットが烈火のごとく怒り、他の使用人達を俺に近づけさせないようにした。
 しかしマレットの監視の隙をついては、俺にちょっかいをかけてくために、乱雑な扱いが止むことはなかった。挙句の果てには “都落ちした価値の無いガキの癖に“等の罵声を何度も浴びせられて唖然としてしまった。
 声を上げた人間は王都にある屋敷の執事長だったが、使用人のまとめ役である彼が率先して仕えている貴族の親族に対してあんな口を聞いて大丈夫なのだろうかと、むしろ心配になってしまった。
 まぁ、ロートリンゲン領に行けば、今回の旅に同行してくれた使用人達は王都の屋敷へ帰っていくために、向こうへ行けば再び出会うことも無いだろうと思うと、我慢できるぐらいだったので、関わり合いにならないように静かに過ごしていた。

 今までの行いを復讐してやろうと過熱する使用人達に反応を示さない俺、そんな風に旅の間は王都への帰還組と俺の間に決定的な溝を作ってしまう結果となった。

 ロートリンゲン領に到着すると、そのまま直ぐに帰還組は王都の屋敷へと帰っていった。本当は、新しい住居の準備も行ってから帰る予定だったらしいのだが、最後の嫌がらせとして、仕事を放棄して俺やマレットの呼び止める声も無視して帰って行ってしまったのだ。

 屋敷はまだ準備も程々に、屋敷の管理に2人の老人が居るだけで掃除も必要最低限しか行われていなくて、人が住むには侘しい状態だった。使用人もまだ到着していなかった。マレットはそれでも、直ぐに動き出して屋敷を片し始めた。
 俺も手伝おうと動こうとすると、マレットが手伝いは不要だと庭先に椅子とテーブル、ティーセットをすぐに準備すると、屋敷を整える作業に戻っていった。慣れていない作業を無理やり手伝っても邪魔になるだけかと、隅のほうでゆっくりしてその日は過ごした。

***

 さて、新しい場所で心機一転して生活するぞ!と決意しても、実は俺がやらなければならない仕事は全くない。俺という人物は、公爵家の後継者という価値が無くなれば、貴族としての能力も秀でたものは無く、容姿も醜く、背が低くて太っていた。以前の乱雑な振る舞いや言動も最低なものばかりで人間性も最悪と、評判はどん底。
 ルークという人間の価値は貴族社会の中で限りなくゼロになったため、親しくなるメリットもなく、貴族間の中では忘れ去られていく人間だった。

 だが俺にとっては逆に嬉しい事で、あまり外からの貴族的な干渉が無いのはありがたかった。その間に、自分の好きなことに時間を充てることができる。

 そこで遂に、身体改造計画を始動。初めは、屋敷の庭で歩くことから始めた。なにしろ、肥って重い身体を動かすことすらキツく、ままならない状態で歩くだけでも重労働。その苦しみを気合で乗り越えながら、俺は無理を押し切って歩くという行為で身体を動かすことに。

 1ヶ月もすれば、かなりの贅肉が落ちて、見た目でも痩せたことが一目瞭然に。更には、駆け足が出来るぐらいに身体の動かし方に慣れてきた。といっても、以前の“ルーク”に比べればという事なので、平均男性の一般人に比べたらまだまだ肥満の人間であることに変わりがないが。

 次に行ったのは、持久力と筋力を付けること。半年ほど掛けて、朝から晩まで鎧をまとったまま走り回ったり、剣を振り回したり、馬で屋敷から離れた場所まで遠出してみたり等など。
 すると、肥満だった身体が徐々に筋肉質な体型に。横に広がった身体は、縦にぐっと伸びるようにして成長していった。

 この頃に分かったことなのだが、意外にも“ルーク”の身体の能力は非常に高かった。今にして思えば、贅肉も筋肉に変わるのも早くて筋力がつきやすく、体力も鍛えただけ直ぐに付いて際限なく上がっていく。反射神経も悪くない。背の低かった身体も、今ではかなりの高さになっていた。

 鍛えれば鍛えただけ、結果が返ってくる。初めは、“ルーク”の元の身体が非常にだらし無かったために、成長が認識しやすくて、日々の訓練の結果を大きく感じることが出来たのかと思ったが、他人と比較しても能力が高いことが分かり、どうやらこの身体の能力が普通の人間に比べて非常に高いことがわかった。

 なぜ、以前の“ルーク”はあんなにだらしの無い身体で生活していたのだろうかと疑問に思うが、そんな考えも直ぐに消え去り、訓練に明け暮れる。
 それからは、鍛えて鍛えて鍛えて鍛えて、気づけば2年の月日が経っていた。

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