逃げた男 元ルークの人格 前篇

 転生した!

 

 気がついたら、ちっちゃい手、目も薄ぼんやりと霞んだように見えない。そして、思うように動かない身体。頭はハッキリしているが、身体が動かない。しばらく観察してみたら、何故か俺は赤ん坊になっている事がわかった。

 

 少しの間、混乱。直ぐに今の状況を出来うる限り調べようとしたが、赤ん坊の身体では歩くことも出来ずに、首を左右に動かして見えるだけの範囲しか調べることが出来なかったので、直ぐに考えることに没頭していった。

 

 俺の居る場所は、ヨーロッパ風のすごく金持ちの住んでいそうな屋敷だった。転生という超常的な現象を目の当たりにした俺は、もしかしたら剣と魔法のファンタジーな世界な世界に来てしまったのだろうかと考える。

 

 空想しているうちに、直ぐに月日は流れた。

 

 前の世界では見たことのないような金髪美人。それが俺の母親らしい。しかも、いつも俺の直ぐ側にはこれまた美人なメイドさんがついて回り、俺の世話をしてくれる。彼女たちを見て、ますますファンタジー世界へ転生したという考えが確信に変わっていく。

 

 赤ちゃんになって1年が過ぎると、ようやく歩き出せるようになったので、次は言葉を発する。都合のいいことに、何故か両親と思われる大人達が話している内容に耳を傾けると日本語のように聞こえたので、英語が苦手だった俺はとても助かった。喋り始めてみたがどう頑張っても舌っ足らずになってしまい、口が思うように動かない。だが、たどたどしく話してみたら、母親と思われる女性といつも俺の世話をしてくれるメイドさんが大喜びしていた。

 

 俺は前世の知識を活用して、税金を安くして平民が過ごしやすい領を作ることを提案したり、平民に教育を受けられるようにして知識人を増やす計画を立ててみたり、うろ覚えだった米を作るために苗木を探してもらったりと、知識チートを使って色々したがどれも中途半端に終ってしまった。

 

 理由は、父親に提案してみた時点で尽く却下され、平民に知識を授けるのは現実的ではないと言われたり、米の苗木が見つからなかったり。

 

 思いついた色々な事が、実現できない。イライラが募った。せっかく考えがあるのに、多分、子供だからと侮られているのだろう。俺は、これらのアイデアを一旦保留にして、大人に成長して自分で領を運営できるような年になるまで、この世界を知るために勉強をするようにした。その頃に、父親からちょうど家庭教師もつけてもらったのでちょうどよかった。

 

 だが付けてもらった教師は、傲慢を絵に描いたような感じだった。プライドも高く、人の言うことを聞きやしない。それなのに、知識も曖昧で、本の内容をそのまま教えるだけ。しかも四則演算の暗算も出来ないなんてと内心では馬鹿にしていた。だが彼のお陰で、俺は教育がとても重要だということ再認識した。俺の考えている平民のための学校では、彼のような人間は教師にしないようにしようと決心した。

 

 それから、月日が経っても彼は変わらず、貴族とは何か!貴族としてのマナーは!貴族としての立ち居振る舞いについて、なんていう無駄なことばかりを教えられる。はっきり言って時間の無駄だった。更に、知識や学力では敵わないと考えたのだろう、俺の苦手とするマナーの勉強中は、少しのミスも見逃さず、揚げ足を取っては、怒鳴り散らすような不毛な時間を送っていた。それならば、この世界の事柄について自分で本を読んで知識を蓄えたほうが有意義だと考えた俺は、勉強の時間をサボるようになった。

 

 俺の態度が気に入らないのか、父親は俺を毛嫌いしているようで、事あるごとに嫌味を言われる。更に、マレットとか言う子供の頃から世話をしていた女に俺の監視をさせているみたいだった。

 

 そんな風に生活していた俺は、両親から疎まれるようになっていた。そんな生活でストレスが溜まったのだろう、俺は食べることで溜まったストレスを発散していた。この世界に娯楽はほとんど存在していない。前世で浴びるほどに楽しんだゲーム、テレビ、映画、アニメ、漫画、インターネットその他様々な物を思い出す。その思いが、だんだんと苛つきに変わり、その苛つきを食べることで抑える。

 

 何度も辞めようと思ったが、それ以上に生活のストレスが加わりやめられなかった。

「マジで、食べることしか楽しめることがないなぁ」

 本を読んだ後のご褒美に、好きなだけご飯を食べた。

 父親に注意されて、好きなだけ菓子を食べた。

 マレットの監視の視線を感じてストレスを感じ、間食した。

 

 俺はこのロートリンゲン家に絶望した。だから、家を出ることにした。

 

 普通に家出をしても、貴族であるロートリンゲン家の力を使って捜索されるだけだろう。見つけ出されたら終わり。俺の持っている知識をすべて奪われて幽閉されるのがオチだろう。

 

 俺は計画を練った。

 偶然見つけた屋敷の倉庫に有った魔法の道具、操りの杖、入れ替わりの杖、そして召喚の杖。3つの杖を使って、作戦を決行することに決めた。

 

 平民の身体を奪う。更に念を入れて、俺の代わりに入った精神ごと俺の身体を殺させる。これでルークという男が世間的に死亡になる。俺はロートリンゲン家に追われること無く、平民として生きていくことができるようになる。

 計画を練って練って練って、多くの時間を使って完璧な作戦を立てた。後は実行に移すだけ。

 

 この国の第一王子の誕生日パーティーの日に決行したのは、少しでもロートリンゲン家に混乱をもたらすためだった。婚約者が居るらしいと聞いて、少し惜しいと思ったが今を逃すと次に家を出る作戦を決行できる日がわからない。断腸の思いで実行。

 

 誕生日パーティーへ向かう途中、操りの杖で衛兵たちを操る。第一関門突破。

 

 ちょうど、王都の市場で良さそうな長身で美形な身体の平民を見つけたので操りの杖を使い拉致。済まないが俺の代わりに死んでくれ。絶対におまえのことを忘れないからと心の中で考えながら王都の外にある森へ向かう。

 

 森に到着した俺は、市場で拉致した平民の身体と俺の身体に向かって魔法の杖を使う。済まないと心のなかで謝りつつ、入れ替わる。久しぶりの飛んでしまいそうなほどに軽い身体。

 入れ替わった男は目を覚まさないまま眠っている。まぁ、そのまま眠ったままで死んだほうが楽だろうと、急いで召喚の杖を使う。モンスターが召喚されるのを見てから、俺はその場を後にする。操りの杖で待機を命じてある衛兵たち。後ろからモンスターの甲高い鳴き声や、男たちの苦しく篭った声が聞こえて来るが、気にせず前に進む。

 

 やっと、俺の異世界ストーリーが始まるんだ!

 

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