第08話 パーティーでの出来事

 夜の月パーティー、夏の夜に行われる晩餐会の名前だ。

 この催し物は入学してしばらく経過した下級生のために、在学中の上級生貴族との間の交流を趣旨とした食事をする会で、学園の行事の一つである。そして企画運営は例年より生徒会が行うことになっていて生徒会の腕の見どころでもあり、このパーティーの運営状況を見て毎年の生徒会の能力を学生が見られる場でもある。
 そして、今年の生徒会については今の時点で既にあまり良くないように思われる。

 なぜなら会場準備を行うべき生徒会の人間が誰一人としてパーティーが開催される予定の時間になっても会場に来ていないとのこと。そして、パーティーの準備の全ては学園へと派遣されて来た王家に仕える使用人が全て取り仕切っているらしい。準備に直接参加しないとしても、監督するための生徒会の人間が最低一人ぐらい居てもいいのに、全員が来ていない。指示しているのは王家から派遣された使用人。その指示の元で動いているのは学園で働いている使用人達。全てが、生徒会の人間以外の者によって進められたらしい。

 この状況を受付で聞いた俺は、この国の行く末について不安に感じていた。もちろん会場の規模を考えると、生徒会の人間だけでは絶対に無理なので、使用人達にある程度の仕事を任せる事についてはまったく文句なんてないのだが、一から十まで全てを任せるなんて。
 王族という上に立つ人間が先導して動いていることを示さないと人は付いてこないだろうに。

 そんなモヤモヤとした気持ちを感じつつ、会場入りした俺。先に来ていた、友人たち3人と会場の中で出会い、少し話してからすぐに別れて新入生たちとの会話に向かう。
 俺は開始時間よりもわずかに遅く到着したために、新入生と思われる学生たちの多くは既に待機している。ギラギラとした目を見て、爵位の低い貴族たちが上位者と交流を持てる貴重な機会だから無駄にはしないように命を掛けるぐらいの気迫を感じる。今回の主役は新入生のために、上位者である俺の方から彼らに近づいて会話を行っていく。

 色々な貴族たちとの会話で、人となりを見極めながら会場を回っていると、館の出入口の方向にある入場広間がざわざわと騒がしくなって行った。俺はどうなっているのか気になったので、談笑をしていた新入生との会話を中断して見に行く事に。

 出入口の広間にはかなりの人数の貴族達が集まっていて、彼ら彼女らが口々に内緒話のような小さな声で何かを囁き合っている。そして、広場に溢れる一つ一つは小さな会話の声が合わさって、かなり大きな騒音となっていた。

 人だかりの中央には、最近仲良くなったクマール伯爵家令嬢。そして、彼女の向かい側には第二王子。王子の回りには男子が4人、女性が1人の計5人が側に立っていた。
 王子の周りに立っている彼らは確か生徒会の人間で、王子と関係の強い取り巻きだったはず。今更になってパーティーにやってきて、更に問題を起こしているなんて頭が痛くなってくる。
 女性については見覚えがない。見覚えはないが、多分彼女が最近王子との中がウワサになっている女性だろうと予測する。
 で、何やら王子や取り巻きの人間達がクマール伯爵家令嬢に向かって一斉に何かを言っている。人混みの騒音で取り巻き達が何を言っているのかわからないが、伯爵令嬢の真っ青な顔色を見るとどうやら良くないことらしい。

 人混みになっている見物人達を見回しても、誰も止めようとしないで興味深そうに伯爵令嬢と王子たちの成り行きを見ているだけ。見物人たちの中には保守派グループと、そのトップである侯爵家の人間も居るのを見つけたが、保守派グループらしく傍観に徹していて、彼らも割って入る気はないようだった。

 正直言って面倒だと思いつつも、公爵令嬢と第二王子との間に介入することに。
 クマール伯爵家令嬢の彼女は知らない仲ではない。それにこんな場所、多数の人間の目がある中で王族の人間が愚かにも取り巻きを連れて女性を囲んでいるなんてみっともない。コレ以上、彼の思うままにしていると何やら大きな事件に発展しそうだ。いや、もう今の状態が大きな事件のようで手遅れかも知れないが…。

「恐れながら殿下」
「何だ貴様は!」
 人混みを割って中へ入り、中央へと足を踏み入れながら王子に呼びかける。冷静さを欠いた王子の目がコチラに向く。上の人間は常に冷静であるべきだろうに、将来の王様がこんな感情的な性格だなんてこの国の未来は暗いなと内心思いながら話を進める。

「失礼いたしました。私はロートリンゲン家のルークと申します」
 俺はカロル嬢を庇うように背にして、王子との間に入り込む。王子たちの取り巻きや、向こうに居る一人の女性の目がコチラに向く。

「恐れながら殿下、女性に対して、その様な口の聞き方はふさわしくありません。更には、回りの状況をよく見てください。王族であるあなたが、この様な恥知らずな行為をしているという事を皆に見られています。後の影響をお考え下さい」
 諭すように優しく言ったつもりだったが、王子は俺の言葉に眉を吊り上げる。

「先に恥知らずな行為を行ったのはそこの女だ! その女がアデーレに対していじめを行った。王様の妻という立場を脅かされたその女は、侯爵家という権力を使ってアデーレに害を与えた!」
 言葉に怒気を込めて、感情的になって言い返してきた。アデーレと言う女性は、彼の横に立っている女性のことだろうか。彼女が、最近ウワサになっている王子がお熱の女性で間違いないようだ。

「アデーレ嬢、殿下のおっしゃっている事は本当でしょうか?」
「えぇ、ルーク様。……私、カロル様に嫌われているようです。仲良くしようと思いお話しようとしましたが無視をされました。それでも仲良くしようと考えて、何度もお話をしてくださるようお願いしたのですが、遂に暴力を振るわれるようになりました……。他にも陰口を叩かれたり、物を隠されたりもしました」
「もういい、十分だアデーレ。わかっただろう! その女のやった陰湿ないじめの数々を」

「カロル嬢、彼女はあのように言っていますが真実ですか?」
「いいえ。いじめなんて卑しい事を行った事実は神に誓って有りません。私は今日までアデーレさんのことを知りませんでしたから」
 顔を青くしては居るが、気丈に振る舞うカロル嬢。彼女の目に嘘は感じられない。俺も彼女のことについては一切疑っては居ない。逆に、アデーレ嬢の振る舞いは演技にしか見えなくて、うそ臭くしか感じられない。

「なるほど、双方の意見が食い違っていますね。そちらのアデーレという名の女性は危害を加える行為を受けたと言い、カロル嬢はそんな事は行っていないと証言しました」
「ふん! そんな女の言うことなど信じられるものか」
 カロル嬢の言葉を一切信用していない王子。

「では、徹底的に調べてもらいましょう」
「えっ?」
 アデーレ嬢が思わずといった風に声を漏らすが気にせず続ける。

「今回の事は、印象や感情だけで片付けて良い問題ではないです。どのような事が行われたのかを全て調べる必要があるでしょう。結果によっては、現在の婚約者であるカロル嬢は王妃にふさわしくないという事になるかもしれません。まずはアデーレ嬢がカロル嬢にされた事を全て話してもらいましょう」
「貴様!? アデーレの言うことを信じられないのか?」
 激怒する王子に対して、俺は冷静になるように意識して返す。
「いいえ、殿下。アデーレ嬢を信じるために話を聞くのです。彼女に証言してもらい真実を明らかにするのです」

「なるほど。その女の行ってきたことを白日の下に晒してやるということか。バリー、今直ぐ王国の治安部隊を呼べ。あそこの人間に今回の事について調べさせろ」 
 王子は俺との会話に夢中になってアデーレ嬢の方には意識が行ってないのか、あわあわと慌てているアデーレ嬢を気にしないで、側に立っていた取り巻きの一人を呼んで、聞き込みの準備をするみたいだ。早速調べ始めるらしい。
 俺はアデーレ嬢の狂言だと確信しているのだが、問題はアデーレ嬢が本当に犯人なのかどうかだ。例えば、アデーレ嬢が他の貴族が書いたシナリオで動かされていたならば。カロル嬢と王子との関係にヒビを入れて、利益を得ようと考えている誰かが居るはずだ。
 最悪は、他国による戦争を仕掛ける前準備として、次の王となる予定の王子に対して計略を仕掛けるために仕組まれたことかもしれない。

 色々と考えられることはあるが、まずはアデーレ嬢の話を聞くところからだろう。

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