第07話 三人の朝食

「ミヨ、今朝はなんだか随分とご機嫌みたいだし、朝食も豪華だね」
「そんな事は無い。いつも通りの食事だ」

 テニさんは目の前に並べられた料理を見てから、明るい調子でいつもと様子が違うらしい事を述べた。しかし、そんな言葉をバッサリと否定して切り捨てるのはミヨさん。

 だが、俺の目から見てもテニさんの言う通り、目の前の料理の内容は豪華だと思うような印象を受けたので、ミヨさんの言葉は謙遜にしか聞こえなかった。

 こんがり焼きたての良い匂いを漂わせるパン、こちらもじっくり火を通して焼かれた厚さは薄めのステーキ肉。新鮮そうな赤と黄緑の色が立つサラダ、美味しそうなコンソメ色のスープ、付け合せのデザートまでついた高級ホテルで出て来るような朝食を思わせる出来栄えで、随分と手間が掛かっている料理の数々。

「やっぱり、今日は機嫌がいいね。普段なら無視される私の言葉を、今日は無視しないかったし、ちゃんと答えてもくれる」
「うるさい」

 テニさんは、ミヨさんのそっけない態度にも変わらずマイペースに絡んでいく。そして、短く辛辣に応えはするミヨさん。ミヨさんの昨日は見せなかった目新しい態度について、俺は内心では驚いていた。

 昨夜、俺を対応してくれた時とは雰囲気から言葉使いまで全く違う、二重人格なのかな? と思ってしまうほどに違っていた。

 だから俺は余計な騒ぎを起こさないようにとヒヤヒヤしながら、二人の会話には加わらず、若干だが二人から目を逸らそうとして目線を下の方向へ。
 目の前に置かれたミヨさんの手作り料理になんとなく目を落としながら、耳だけ二人の会話を聞いていた。

「私の食べる分は有る? 今朝はさぁ、何も食べずに来ちゃって、お腹ペコペコ」
「はぁ……。いま簡単に用意してくるから、彼の分には手を出すなよ。サトルさん、彼女の分の料理を用意するので、食事はもう少しだけ待ってください」

「えっと、はい。時間なら、待てるので大丈夫です」

 テニさんには注意するように、俺に向けては申し訳なさそうに声を掛けると、ミヨさんは一旦座っていた椅子から立ち上がる。

「ありがと、朝食いただきまーす」

 部屋を出て行くミヨさんの背中に、テニさんは無遠慮な台詞を投げかけた。

 ただ、ミヨさんはマイペースなテニさんを無視する様子は無く、朝食も食べていないというテニさんの分を態々用意するために席を立って部屋を出て行った。多分、キッチンに行って食べれる物を取り分けて来るのだろうと思った。

 傍から見ているだけでは険悪そうな様子の二人だったけれど、これが彼女達の関係性なのだろうと理解する。

 ミヨさんは、すぐに手に料理を載せた皿を持って部屋に戻って来て、テニさんの目の前に少し乱暴な感じで置くと、席に座って朝食の準備が完了した。

 こうして、3人での朝食が始まった。


***


「なるほど、なるほど。サトルさんは迷い人なのか」

 テニさんに色々と質問された俺は、正直に答えていった。出身地や誰のお手つきなのか、なぜ森の中に迷い込んだのか、という様々な質問をされていくので、理解されないかもしれないが隠してもしょうがないと、俺の事情について説明していった。
 そして、記憶も無く森のなかで目を覚ました所から、昨日の出来事についても彼女に話した。

「テニ。何か、サトルさんの役に立ちそうな情報は無いか? 迷い人について、もう少し詳しい事とか、元の世界に帰る方法とか」
「んー、私もあんまり詳しくは知らないなぁ。ほとんどお伽話みたいな事とかしか知らないし、元の世界に帰る方法とかも分からない」

「そうですか」

 ミヨさんは、森のなかで引きこもっている世間知らずな自分よりも、世間の事を色々と知っているというテニさんに一縷の望みを掛けて、何か有益な情報が無いか聞いてみてくれたようだった。
 けれど、やっぱり詳しい事はテニさんにも分からないらしく落胆するという結果になってしまった。

「で、これからどうするの?」
「これ以上、ミヨさんのお世話になる訳にはいきませんから、近くの街に行って仕事と住む場所を探してから自分の世界に帰る方法を探そうと思います」

 今後の予定を話すと、表情を暗くする二人。いや、暗い表情というか、幼い子供を心配した表情? 表情の内容を読み解こうとしていると、テニさんが答えた。

「ソレは、あまりオススメしないなぁ」
「どうしてですか?」

「街の人達は良い人ばかりじゃないから、男の君が何も知らずに街に行って仕事を下さいって言っても碌な事にはならないだろうからなぁ」

 テニさんは、俺の予定には反対しているようだった。それは、心配してくれての忠告だと分かった。そう言われて、たしかにミヨさんと出会ったという幸運があってから、この世界に対して甘く考えるようになっていたかもしれない。

「あの、全然迷惑じゃないんでこの家で暫くは生活してもらっても大丈夫ですよ。調べごとならテニに任せて大丈夫ですから」

 自分の甘い考えに、どうするべきか再び迷っているとミヨさんが優しい声で提案してくれた。少し打ちのめされていた俺には、その提案を断れるような精神状態には居なかった。

「……そう、ですね。正直言って、知らない世界に来て何も知らないまま不安でした。もう少しだけお世話になります」

「ミヨは優しいから、いくらでもお世話になっても大丈夫だよ」
「……」

 あまりに優しいので、そんな彼女たちに気が引けるがテニさんの言う通り悪い人たちに捕まってしまったら対処の仕様がないのも事実。
 自分がなにも知らない、出来ることも少ないのを自覚して、今はミヨさんのお世話になる事を決めた。

 

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