閑話 初めての接触

 物心がついたときには、既に師匠から魔法を学ぶ毎日だった。

 師匠は、私と同じ魔者と呼ばれる存在であった。以前は一人で森の中に住んでいたけれど、ある時に森のすぐ外に私が捨てられているのを見つけて、拾ってきて育て始めたそう

 捨てられた原因を師匠は、私の魔法使いとしての能力が小さな頃から高くて、赤ん坊の頃には既に魔力を放出できてしまい、その事で赤ん坊の私が魔者であることに気付いた生みの両親が、森の外に持ってきて捨てたのだろうと言っていた。

 魔法の他にも、生きていく上で必要となる言葉や常識を教えてもらい、そして生きていく上で有利になるような算術や歴史の勉強も身につけられるように見て貰っていたため、10歳を過ぎた頃には、一人で生きていくには十分なぐらいの知識と力が身に付いていた。

 師匠からは、常々魔法の有用性と危険性を耳が痛くなるまで繰り返し言われ続けていた。これは、世間から言われている私達の立場である”魔者”という状況がそうさせた。

 私が13歳の時に、師匠は寿命で亡くなった。そして、私は一人ぼっちで生活することになった。
 寂しさは有ったけれど、森の中で出会って仲良くなった友人のジーニや、魔者仲間のアニセが居たから、私は耐えられた。


***


 朝の日課である修行を終えた頃、ジーニが居なくなっている事に気付いた。辺りを軽く見回ったが何処にも居ないので、多分森の何処かで日向ぼっこをしながら昼寝でもしているのだろうと、一足先に家に帰った。

 しばらく、家の中で修行の仕上げをしていると外からジーニの吠える声が聞こえてきたので、家に掛けてある隠遁の魔法を解いて外に出る。

「ジーニ、一体何処に行っていたんだ」
 そう声をかけて近づいていくが、いつもと様子の違うジーニに訝しむ。そして、ジーニの横に誰かが立っているのに、ようやく気付いた。

「キミは……?」
 見慣れない服を身に纏った人。何故、ジーニがこの家に連れて来たのか分からないが、家の場所と私の顔を見られたので、記憶処理をしないとイケナイ。魔法で眠らせてから、この場所に不用意に人を連れて来たジーニに文句を言う。

「ジーニ、何で人をココに連れて来た。面倒が増えるから、いつもの様に森の外に誘導するように言っているのに!」
「グルルルィ」
「何? いつもと違うから連れて来た?」

 確かに、最初の印象で変わった服を着ている奴だと思ったけれど。
「グルル」
「そうじゃない? じゃあどういうことなんだ?」
 ジーニの唸る声に耳を傾けるが、彼女の言っている事は要領を得ない。

「意味がわからない、はっきりと理由を言え」
「グルルッ」
「何だと……!?」
 ジーニがそう吠えて、連れて来た人の股の間に顔を埋めたことでようやく理解した。

「この人は、男なのか!」
 話や絵だけでしか見たことのなかった存在である”男性”。

 家の中に運び込んで、一応念の為に服を脱がせて身体を見てみたら、胸に膨らみが無いまっ平ら、そして股の間に見たことのない器官があった。コレが、男性のみが持つ生殖器だろうか。

「一生縁のないモノだと、思っていたんだけどなぁ……」
 観察を終えて、ベッドで眠っている彼の顔を覗き込む。

 顔を見ていると守ってあげたい、幸せにしてあげたい、というような庇護欲を刺激してくる感覚があった。その感覚は、街に居る金持ち達が、世界に数少ない男性を囲っているという理由を納得させた。

「しかし、不味いなぁ」
 知らずとはいえ男性を魔法で眠らせた。この事実が街の人間に知られたら、私は捕まって罪を着せられるだろう。下手をしたら即処刑もあり得る。

 この男性が、何故この森の中に居たのか分からないけれど、偉い人のお手つきならば言い逃れできないかもしれない。かと言って、魔法を重ねがけして記憶を消し去って森の外に出してしまったら、しばらく逃げられるがバレるかもしれない証拠を増やしてしまう可能性があるし、バレた時に罪がより重くなる。

 一番は、この男性を亡き者にして何もなかったことにする。そうすれば、バレることは殆ど無くなるだろう。けれど、私の胸の奥底から男性を殺すことに強烈な拒否の心が有った。とても、実行する気になれない。

 最後の手段として、やはり目覚めた瞬間に事実を話してから、誠心誠意に謝り許しを請うしか無いだろうか。だが、この男性の性格はどうだろうか。私が魔者だと知って、話し合いに応じてもらえるだろうか。あまり森の外の人間や、
 街の人間との交流がない私。ましてや、男性と話すなんて初めての事で予想がつかない。

 考え事をしている内に、男性の意識が覚醒直前となっていた。そして……。

 

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