第05話 夜

 外も暗くなっていて、今から森を抜けて街に出るのは危険だと言われたので、ミヨと名乗る少女の家に一泊させてもらう事になった。

 そして今は、その一泊させてくれるという家の中を案内してもらいながら、各部屋を見せてもらっていた。
 建物は二階建てになっていて、一階には玄関、出入り口から広間、キッチン、小部屋が幾つか、二階に上がると、ソコにも小部屋が幾つかと、俺が寝かされていたベッドの置いてある寝室が有る。普通の住宅街にある一軒家ぐらいの大きさだろうか。

 ところで、寝室が二階に有るということは、俺は気絶してから彼女に担がれて二階の寝室部屋に運び込まれたということだろうか。男として、女性に担がれて寝室まで連れて行かれるなんて、すごく恥ずかしく思ったりもしたが、あまり気にしないようにしておく。

「どの部屋も、とても綺麗にされてるんですね」
「一人暮らしで物があまり有りませんから。それに、師匠の言い付けで毎日簡単にですが掃除しているんで」

 ミヨさんの言うとおり、どの部屋も家具などがあまり無く広々としている。そして家具が少ないことに寄って、部屋の掃除は楽そうではある。
 どの部屋も、塵埃が無くかなり清潔にしているようで、本当に毎日掃除をしているようだった。
 建物を見て回っている時に感じたのは、田舎に有るおじいちゃんの木造の家を思い出すような古臭い感じがあったけれど、清潔感はミヨの家の方が有りそうだった。
 彼女の言うとおり一人で暮らしているようで、建物は広くて数人が住めるぐらいの部屋は有るようだけれど、実際にはミヨさん以外に誰も住んでいる様子は見当たらなかった。
 一点、気になったのは……。

「師匠、というのは?」
「私に魔法とか、色々と教えてくれた人です。もう死んじゃったから、居ないけど」
「あ……。ごめんなさい、知らなくて……。えっと」
「大丈夫です。貴方が気にしなくても、私も気にしてませんから」
 あまりにも平静で、淡々と話す彼女。本当に気にしていないようで、寂しそうといった感情も無く落ち着いたものだった。だが、自分の興味を優先して考えなしに不躾な質問をしてしまった俺は暫く反省していた。
 そうしている内に、部屋の案内も終わった。


***


 部屋を一通り見回った後は、夕食も頂く事に。
 寝床をお世話になって、更に食事まで面倒を見てもらうなんて、無一文な俺には恩を返せるモノも予定も無いので、と食事について一度遠慮したけれど、ミヨさんはこう答えてくれた。

「良いです。私も見返りを求めて、貴方を助けてるんじゃ有りませんから」
「ありがとうございます」

 本当に良い人に助けてもらった、自分の幸運を喜びながら彼女に感謝をした。一度遠慮はしたものの、実際は腹がかなり減っていたから飯を出して貰わなかったら、実は大分困った事になっていたので、本当に助かった。

 少しでも何か自分にできることは無いか、そう思って料理の手伝いを申し出たら、遠回しに邪魔になるからと断られてしまったので、邪魔にならないように静かに一人で完成するまで待つことに。

 ミヨさんが料理を作る様子を後ろから見ていると、魔法を駆使して野菜を洗ったり、食材を切ったり、火を起こしたりと器用に魔法を使って料理を行っていたので、その時点で断られた理由をハッキリと理解した。確かにアレが出来るのであれば、少しの手伝いも必要ないだろう。
 しかし、魔法を使って料理が出来るなんて、他にも色々と応用できそうで便利なものなんだなと、羨ましくも思った。


「出来上がりました、どうぞ召し上がってください」
「ありがとうございます。頂きます」
 ツルツルな手触りの良い木で出来たボウルに、料理が盛り付けられている物がテーブルの上に並べられていく。
 サラダに、骨付き鶏肉の丸焼き、琥珀色のスープに、焼き魚に、焼きたてのようなパンと色とりどりだ。見た目から美味しそうで、長時間何も食べられていなかった腹が視覚と嗅覚で刺激される。

 まずサラダから手につけて、スープを飲み、肉と魚を食べながらパンを頂く。現代食の濃い味に慣れていた俺の舌にとって、ミラさんの料理は少し薄味に感じたけれど、あっさりとした味わいの中に素材の味や香りがしっかりと立っていて、物足りなさが一切無い。簡潔に言うと、かなり美味かった。

「これ、すごく美味しいですよ!」
「それは、良かったです。ドンドン食べてください」

 食べるのに夢中になっていて、食事中は会話もなく静かに進んでいった。料理は美味く、ほぼ一日食事が出来ていなかったこともあり、気付けば過去最高と言って良いくらいの量をあっさりと平らげてしまっていた。

 食べ終わった頃になって、ミラさんにドンドン食べるようにと許可されはしたが、本当に満腹まで遠慮なく食べてしまったことに、またもや反省してしまう。

「食べ過ぎてしまいました。すみません」
「人に料理を食べてもらうのは久しぶりでしたし、美味しそうに食べて下さったので嬉しかったです」

 ミラさんの優しい人柄にふれて、自分の遠慮の無さを反省する一方だった。そして、改めて彼女のような人に助けてもらった自分は、幸いだったと感じる。


 夕食も終えて、後は寝るだけ。俺は、先ほど目を覚ました部屋に案内されて、ソコで休むように言われた。

「この部屋を、自由に使ってください」
 そう言ってから、ミラさんはベッドに向かって指差し、何かを唱えた。すると、ベッドが白い光に包まれて、そして直ぐに光が消える。
 見たところ、魔法を使って何かしたようだったけれど、ベッドの見た目には何も変わりはない。

「魔法で、一応綺麗にしておきました。私が使っている物で申し訳ないのですが、このベッドでお休みになってください」
「そうですか、わざわざありがとございます。ところで、ミラさんは何処でお休みになるんですか?」
「私の事は気になさらず」

 俺の言葉に、表情を一切変化させずに言い切るミラさん。先ほど建物を見て回った時には、他の部屋にベッドが置いてあるようには見えなかった。それに彼女は、いつも使っているベッド、と言っていた。つまり、彼女はベッドを使わず床か椅子で休むつもりだろうか。
 
「いやいや、色々と助けてもらってベッドまで奪ってしまうなんて心苦しいです。俺は床で十分なんで、ミラさんがベッドで」
「いえ、男性の方を床に眠らせるなんてあり得ません。ベッドは貴方が使ってください」
「それこそ、女性が床で寝るなんて考えられません。本来の持ち主であるミラさんが、ベッドを使ってください」
「サトルさんが」「ミラさんが」

 ベッドの譲り合いは十分ほど続いたが、どちらがどちらにもベッドを使うべきだと主張していて意見を変えようとしない。


「じゃぁ、一緒に寝ますか?」
「それでお願いします」
「え?」

 譲り合いで疲れた俺の、ちょっとした冗談だった一言が、一瞬の内に採用された。そして、気付いたらベッドに寝かされ、その横にミラさんが潜り込んでいた。本当に気付いたらそうなっていたので、コレも魔法なのか……。だが、しかし。

「オヤスミなさい」
「え?」

 その一言で部屋の明かりが消されて、一瞬で辺りが暗くなる。冗談だと言う前に既に、全てのことが済んでしまっていた。

 顔をミラさんが横になっている方向へ向けて、今の言葉は冗談だったと言おうとしたけれど、もう彼女は目をつぶって既に寝る体制。いまのさっきで、まだ起きているだろうけれど、声をかけるのに躊躇してしまう様な雰囲気があった。

「良いのかなぁ……」
 まさか採用されるとは思っていなかった冗談だったのに、ベッドの上には二人が横になって一緒。肩と肩が触れ合う具合な程に接近している状況だった。

 しかし、どっちがベッドで寝るかの譲り合いに、あの後も結論は出なさそうだったし、ミラさんの様な美少女と一緒のベッドで寝ることは、役得と言う奴だと自分を納得させる。

 しばらくは、隣に女性が寝ているという未知の状況に緊張していたけれど、思った以上に消耗していたのか、眠りがあっさりやって来て簡単に睡眠に入ることが出来た。

 

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