第04話 現状認識

 これまでの経緯を彼女に話してみた。何も分からないままに、気がついた時には森の中に一人で居た事。居場所も分からず、森の中で彷徨っていた事を説明すると、今居る場所辺りの事を改めて詳しく教えてもらう事になった。

「ココは、ヴォルトゥトゥスと呼ばれる国のアルパン地方と呼ばれる場所です。今は、
アリーヌ様がこの地を治めていると聞いています。どれか、聞き覚えは無いですか?」
「ごめんなさい、どれも聞いた事の無い名前ですね」

 場所の説明を受けても、やはり覚えがないのでその通り正直に伝える。彼女はなんと言えばいいのか分からない、という表情をして困っていた。
 今度は反対に、俺の住んでいた日本について、住んでいた県や町の名前、家が有る場所の住所等を説明してみたけれど、当然彼女は知らないと答えて更に困ったという表情をしてしまった。

 お互いに出す情報に全く引っかかりが無くて、弱ってしまう。そこで、思い切って俺の感じた予想について話してみることにした。この世界が、自分の知っているモノとは全然違う、異世界なのではないか? という予想について。

 やはりと言うべきなのか、まさかと言うべきなのか、彼女からの返答は思い当たるフシがあるという物だった。

「過去に、迷い人と呼ばれる存在が居たと言い伝えられています。その迷い人とは、記憶を失って自分の住んでいた場所に帰れなくなってしまった、という人の事を指していて、今の貴方と同じように誰も知らない国の名前や町の名前、歴史の流れや偉人の名前を挙げていったそうです。そして迷う人の性別は、やはり貴方と同じ男性だった。だから最終的には、時の権力者に保護され一生を幸せに暮らしたと言われています」
「確かに、今の俺と似たような感じだ」

 記憶を失ってと言うのは、先ほど俺が体験した知らない間に森の中に居た状況に重なっているし、国や町の名前を言い合っても噛み合わないという状況は、今の会話のソレと酷似しているように思える。後半部分の、保護された、や一生幸せに暮らしたというのは、分からないけれど。

 こうして彼女と会話をしていく内に、この世界の常識を教えてもらうことになった。その話の中で特に驚いたのが、魔法に関する話について。この世界には、ファンタジーな世界よろしく魔法が存在しているらしい。

「この世界には、魔法が有るんですか?」
「はい、有ります。……私も、簡単に使うことが出来きます」

 そう言って、彼女は右手を自分の顔の横に持って行って掌を天井に向けた。そうすると、彼女の掌から5センチほど浮いた空間に、一瞬で右掌からソフトボール程の大きさの火の玉をブワッと何かが燃えた音を立てて、発現させた。

 様子をじっくり見ていたけれど、ライターみたいな道具は何も使わず、マジックのように種が有るようにも見えず、本当にあっさりと火の玉を空中に発現させるのを見せられて、魔法が存在している事実を信じるしか無かった。

 そして、火の魔法を直ぐに消すと、彼女は苦々しい顔をして話を続けた。
「こういう力を持つ人を、魔者と呼んでいます」
「まもの?」
「はい、そうです。普通の人間は持たない力、魔の力を持つ者という意味で、魔者と呼ばれています」

 その時の俺は、彼女が何故そのように顔を歪めたのかを正しくは理解していなかった。ただ、単純に魔法が存在している事実に驚き、自分にも使えないだろうかと考えていただけだった。

「そういえば、まだ自己紹介をしていませんでした。俺は、悟と言います」
「あの、名前を教えてもらっても良かったのですか?」
「え? 大丈夫ですよ。色々とあなたに教えてもらって、だいぶ助かりましたから。だから、名前ぐらいは」
「いえ、説明不足でした。この世界で貴方は自分の名前を無闇矢鱈と教えるべきでは無いです。……ただ、教えてもらったことは嬉しく思います。私の名前は、ミヨといいます」

 彼女のミヨという名前を忘れないようにと、頭の中で何度か繰り返す。
 それと、お礼だけは改めて言っておかないと。

「ミヨさん、助けてくれてありがとうございました」
「え?」
 困惑している彼女に、説明を加える。

「ジーニと呼んでいる、あの子に助けて貰って居なかったら、今頃俺はまだ森の中で彷徨っていました。もしかしたら、そのまま遭難して死んでいたかもしれません。ソレに、その後も色々と教えてもらって。だから、ありがとうございました」
「あの子が、そして私も、貴方の助けになって良かったです」

 心の底から、ありがとう、とそう思う。あそこで出会わなければ、本当に森の中を何時間、何十時間も歩くことになっていただろう。山を歩き慣れていない俺は、場合によっては身体に怪我をして歩けなくなったかも知れない。更に、装備道具は何もなく食べ物も獣を狩ったり生えている物を選別したり出来ないから、餓死して死んでいただろう。

 ネガティブな想像は既に無意味だけれど、そう考えずには居られないような最悪な状況だった。

「助けてもらってついでに、悪いのですが森の外へ行く道を案内していただけませんか?」
 どうやら彼女だけの一人暮らしをしているらしいので、家からはなるべく早く出て行ったほうが良いだろうと判断。
 もうコレ以上、彼女にお世話になる事は心苦しいのだけれど、土地勘の無い、ましてや森の中という道が一段と分かりにくい場所なので、案内無しでは絶対に遭難してしまう。だから、恥を忍んで案内をお願いをしてみた。

「……森の外へ、出るつもりですか?」
「なるべく早く出ようと思っています。可能なら今すぐにでも」
「今日は、もう遅いです。今から外に出るのは危険ですから、一晩この家でおやすみになってください」

 結局、ミヨの好意を受け取り一晩だけ過ごさせてもらう事にしたのだけれど、最終的には一晩どころか、しばらく一緒に暮らすことになった。

 

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