第08話 異世界での生活

 家主であるミヨさんからの了承を得て、しばらく彼女の家にご厄介になる事となった。

 まさか、異世界にやって来て初体験となる女性との同棲生活をする事になるとは、予想なんて出来るはずのない展開になっていた。

 女性との同棲生活というだけでも気になって仕方のない事なのに、ミヨさんという美しい女性と一緒の家に寝泊まりするなんて、考えただけでドキドキと心臓の鳴る音が聞こえるほど緊張する出来事だった。

 人生を振り返った時に必ず思い出すであろう、人生史の大きな一項目として確実に記されるであろう程の大事件だった。それは、異世界転移という未知の現象に巻き込まれた事と同程度、いや、それ以上の衝撃を俺は受けていた。

 しかし、ミヨさんの方はそれほど大きな出来事だとは捉えていないようで、平然とした様子で俺との同棲を受け入れているようだった。

 できれば、ミヨさんにも同棲することを少し恥ずかしがってくれたりして、気持ちが同じだと嬉しく思えるのだけれど、平然とされてしまうと男として何とも思っていない、と示されているように感じて、自分で考えて自分で少しショック受けたりしていた。

 とにかく、異世界という慣れているはずもない新しい場所での生活は始まった。

 ミヨさんの家は、森の中にひっそりと建てられた自然の恵みがいっぱいの家。そんな家にある窓から見える景色は、葉っぱの緑色と、空の青と白色という自然以外に特に見える色は無い。

 今までの現代生活では当たり前にあった電化製品やら、ガスに水や電気などインフラ設備が非常に整った環境を活用してきた俺にとって、火を起こすことから原始的な方法が必要で、水を使う為には近くの川から汲んできた貯水を使う必要がある。そして、食べる物も森に居る動物を狩るか、山菜を取ってくるか、果物のなる木からもぎ取ってくるか、一食を準備するだけでも非常に時間が掛かる事であった。

 俺一人だったら、絶対に生き延びる事は出来なかっただろう。今の環境に慣れるまでに俺は、かなりの時間を必要としていた。と言うか、完全には慣れることは無いだろうと思えるくらいで、ミヨさんのサポートが無ければ、この先も生き延びることは難しいだろう。

 ミヨさんには世話になりっぱなしで、何か恩返しに出来ることが無いか考えてみたけれど、俺には食料確保のために狩りをする知識も経験も無いし、山菜採りにしても草木の知識が無い。辛うじて思いつくことと言えば、家の中を掃除することで彼女のために常に綺麗な環境を保つぐらいにしか役には立てなかった。

「食料の確保から、生活環境を整えたり、他にも色々と、必要な事は私が魔法の修行をするついでに終わらせますので、サトルさんはあまり気にせず、帰る方法を考えてみて下さい」

 色々と思い悩んでも、ミヨさんからは優しい口調でそう言われて慰められてしまっていた。


***


 元の世界に帰る方法を考えるために、まずは自分の持ち物について再確認してみた。

 前の世界との唯一の繋がりであるモノ。まずはソコから調べようと、着ていた服から調べてみたけれど、特に変わりはなく普通の服だった。
 持っていた財布とスマートフォンも調べてみたけれど、何の変哲もない財布とスマートフォンのままだった。そして、残念な事にスマートフォンの電池は既に消耗され切っていて、スマートフォンは電源を起動できないでいた。

 持ち物をミヨさんに見せてみると、Tシャツの合成繊維に驚いた表情をして食いついたり、財布の中に入っていた札束を観察してみたり、スマートフォンを手に持ちながら、どう使うのか頭を悩ませたりして、色々と興味津々で異世界の住人としての意見も幾つか貰うことが出来た。けれど、帰還に関するような事は気づくことは無かった。

「サトルさんの世界が私と居る世界とは違っていて、色々な発展をしていていると言う事は分かりました。ただ、他に気づくような事はありませんでした。……申し訳ありません」
「ミヨさんが、謝ることはありませんよ! 何か発見があれば良いなと見せただけで、正直言って最初から見つかるとは、あまり期待していませんでしたから」

 他の持ち物について、手に持っていた鞄等は、森の中で目覚めてからミヨさんの家に来るまでの途中に落としてしまい、既に無くした物も多くて、それ以上に調べられる持ち物は手元に無くなった。

 結果的に、帰還するための手がかりは一切見つけることは出来なかった。

 やっぱり、森から出て情報を管理している場所、例えば、図書館のような資料を管理している施設に行って、テニさんから聞いた関係の有りそうな過去の事例を調べるしか、他に方法は無いだろうか……。

 けれど、ミヨさんからは街に行くのは危険だと教えられていて、生きていく知識をミヨさんに習っている途中だった。だから、それらを学び終えるまでは、元の世界へ帰還するための方法を探す行動は、一旦休止ということになるだろう。

 という訳で、暫くの間はミヨさんと一緒に同棲生活を続けながら、異世界の常識を学んだりする勉強の日々を過ごすことになった。

 

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