第07話 働く場所

「おまたせしました、パンケーキのセットです」
 お皿が目の前のテーブルに置かれる。オーソドックスなパンケーキに、スクランブルエッグとソーセージが添えられている。期待していなかったが、結構美味そうだ。
 フォークとスプーンを持ち、まずパンケーキを食べてみる。
「うまい」
 思わず口に出るぐらいに、フワッフワッで甘すぎず、美味しい。添えてある、スクランブルエッグとソーセージを食べてみると、こちらも十分に美味しい。

「これ、美味しいですよ」
 盆を持ってこちらを伺っていた女の子に感想を言う。それ程に美味かった。しかし、疑問が一つ。
「なんで、こんなにうまいのに客が居ないんですか?」
 これ程ならば、固定客も居そうなものだが、俺が店に入ってから朝食を食べ始めるまで、誰一人として客は来なかった。そして、この後も客が来そうな雰囲気はない。なぜ客が来ないのか、そんな風に疑問を投げかけてみたが、女性と女の子、どちらも答えを返してくれなかった。

 美味い朝食を食べ終わる。期待していなかった分、予想以上の出来だったので、今後も機会があればこの店を利用しようと心に決めていると、突然女性が声をかけてきた。
「そういえば、貴方お金に困っていましたよね! もしよければ、ココで働かない? お金は弾みますよ」
 女性が、朝食を食べ終わった俺に、そんな事を言う。
「いきなり何です? 仕事ですか?」
 俺は警戒しながらも、時給を弾むという言葉に興味の気持ちが沸き上がった。

「えぇ、給仕をしてくれたら、一日一万五千ゴールド払うわ」
「ちょ、ちょっとお母さん! そんな大金払えないわ」
 カウンターでこちらを伺っていた女の子が、母親らしい女性の言葉に待ったを掛ける。
「大丈夫よ、男性の給仕が付けばこのお店も絶対繁盛するわ」
 女性は、自信満々に娘と思われる女の子を説得している。俺はといえば、一日一万五千ゴールドに心動いた。正直、一万五千は美味しい。昨日の狩りの結果を考えると、十五時間分狩りをするぐらい貰える。しかも安全に一定で稼げるということだ。
「どうします? 引き受けてくれませんか?」
 そうだな、給仕の仕事をして、給料をもらい、時間の開いた時にモンスター狩りをすればいいかと結論づけた俺は、仕事を受けることを決めた。しかし、すぐには仕事を受けず、いくつかの質問をしてみた。
「仕事の給仕って、何をすればいいですか?」
「通りに出てもらって客引きと、メニュー取りです」
 女性は、すぐに答える。客引きとメニュー取りか。

「給料は本当に一日一万五千ゴールド頂けるのですか?」
「店が繁盛すれば、もっと渡せると思います。だけど今は、とりあえず、一万五千ゴールドを約束します」
 金額は、申し分ない。
「どれ位働けばよいですか?」
「朝から夕方ぐらいまで、お昼休憩ありでよろしくお願いします」
 朝から夕方までか。一日一万五千ゴールドとすると、単純計算で、約十七日間で、二十五万ゴールドが手に入る計算になる。

「夕方以降は良いんですか? 夕食とか、夜の飲みの場所としてお店を提供しないんですか?」
「さすがに男性の方に、夜遅くまで働いてもらうわけにはいきませんから」
 そういうものなのだろうか。逆に男性だからこそ、夜まで働くものだと思うけれど。まぁ、いいかと結論づけて、俺はようやく仕事を受けることを伝えた。
「分かりました、仕事受けさせてもらいます」
「本当ですか! ありがとうございます。良かったわね、アレンシアちゃん」
「ちょ、ちょっと待ってよ! いきなり連れてきて働かせるなんて本当に? そんなの無茶よ!」
 女の子の名前は、アレンシアと言うのだろう。その子が、猛反対している。確かに、いきなり連れてきて働かせるなんて無茶な話だろう。しかし、母親と呼ばれた女性は頑なに俺を雇おうとしている。
「いいのよ、アレンシアちゃん。絶対男の人が呼び込みしたら繁盛するから。絶対よ」
「で、でも……」
「お母さん命令です! 彼は雇います」
 ショボンと肩を落とすアレンシアと呼ばれた女の子を後にして、女性は俺の方に向かい今更ながらに、自己紹介した。
「私は、チェーナと言います。それで、こちらが娘のアレンシア」
 改めて彼女たちを観察する。チェーナと言った、俺を店に案内した女性は、子供が居るとは思えないぐらい若い美貌をした女性で、身長は160cmぐらいと低い。比べて、アレンシアと呼ばれた女の子は、大人びた顔立ちをしている。身長も、170cmぐらいはあるだろうか、女性にしては大きい方だ。
「俺はユウです。よろしくお願いします」
(給仕の職業を取得しました)
「へっ?」
 頭のなかに、ゲームアナウンスが流れる。「Make World Online」には、職業というシステムがあり、取得した職業は1つを自由に設定することが出来る。今設定されているのは、“冒険初心者“という職業。職業というシステムは前情報の知識として知っていたが、職業の数は公表されていない。給仕なんて細かな職業まであるならば、かなりな数の職業があるだろうと考えられる。それとも、これも異世界トリップによる影響なのだろうか。
「じゃあ、早速客引きよろしくおねがいしますね」
 ニッコリと満面の笑みで、エプロンを俺に向けてそう言うチェーナ。どうやら、それを付けろということらしい。俺は、彼女の望むとおりにエプロンを付けて、表通りに出て客引きをすることになった。

 

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