第05話 勇者の伝説

 朝、窓から差し込む光に、自然と目が覚める。身体を起き上がらせて、小さなガラス窓から外を眺め、俺はまだ「Make World Online」に似た世界に居ることを確認する。ログアウトを試してみるがやはり反応なし。

 しかたがないので、俺はベッドから降り、扉を開けて昨日食事を取った部屋へと向かった。
「ユウ! ちょうど良かったわ、今から起こそうかと思っていたところよ! 少し聞きたいことがあるのだけれど」
 扉を出た所に、マリーが立っており、興奮気味にそう言ってきた。口調も、昨日の丁寧な感じじゃなく、少し砕けた口調になっている。
「マリー、おはよう。聞きたいことって何です?」
 俺がそう聞いても、興奮した顔を崩さずに、何やら考えている様子のマリー。
「とにかく、話が長くなりそうだから、座って話しましょう」
 言って、前を歩き、テーブルのある部屋へと向かうマリー。聞きたいこととは一体なんなのだろう。

 俺が座るのを確認した後、マリーがまだ興奮した状態で話し始めた。
「ユウ、貴方ってもしかして勇者様の末裔なの?」
 座るなり、いきなりそんな事を言い出すマリー。
「勇者の末裔? どういう意味ですか?」
 意味がわからず、俺は素直にそう聞き返す。
「昨日、貴方とパーティーを組んだけれど、その後、私は普段通りじゃないレベルアップの上がり方をしたみたいなの」
 普段通りじゃないレベルアップの上がり方? と疑問に思うと、更に言葉を重ねるマリー。
「今朝、レベルを確認したら昨日から一気に三レベルもアップしていたのよ。それって多分、貴方とパーティーを組んだのが原因だと思うの」
「それと、勇者の末裔にはどんな関係があるのですか?」
 冒頭の勇者の末裔という話と一気にレベルアップしたという話、つながりがよく見えなかった。しかし、パーティーを組むことで仲間のレベルの上がり方もおかしくなるのか。
「貴方は、勇者様の伝説を知らないの?」
「勇者の伝説?」
 俺の疑問に、マリーは勇者の伝説を語って聞かせてくれた。
「昔、この大陸には魔王が居たのよ。それで、今よりもっとモンスターが凶暴だった頃、大陸の人たちは、モンスターが凶暴化する原因になっている魔王を何とかしようとしたけれど何も出来なかったの。そこに現れたのが勇者ハヤセ・ナオト様なの」
 マリーは、一度言葉をそこで切って止めた。しかし、ハヤセ・ナオト? もしかして、日本人なのだろうか。それに、名前の感じから男性のようだが。

「勇者様は、大陸のいくつもの街を助けて、凶悪なモンスターを退治して、ついに魔王を封印することに成功するの」
「その後、勇者はどうなったんですか?」
「その勇者様は自分の国に帰っていたんだって」
名前の感じから、日本人だと思うのだが、自分の国ということは、もしかして日本へ帰ることが出来たということだろうか。
「いくつか質問いいですか?」
「どうぞ?」
マリーに、いくつかの質問に答えてもらえた。
「勇者の“ハヤセ・ナオト”ってよくある名前?」
「いえ、家系名じゃ聞いたこともないハヤセに、ナオトって名前も聞いたこともないモノだったんだって」

「勇者は、出身地は?」
「それが、勇者はある日突然、襲われていた街マーリアンにあらわれて、その街を助けたそうよ。出身地についても詳しくは、わかっていないらしい」

「なるほど、ありがとう。ところでその勇者と、レベルアップとどう関係が?」
 まだ、勇者の末裔という話と一気にレベルアップしたという話のつながりが見えないので再度質問してみる。
「その勇者様の言い伝えに、レベルの上がり方が普通の人間と違って、とんでもなく早いって言われているの。しかも、その仲間たちもレベルの上がり方が異常に早くなるらしいし」
「言い伝えなのでしょう、本当なのですか?」

「今も、勇者の末裔って言われているホルスイや、シェイラって冒険者として有名よ。知らない? 彼らのレベルはもちろん、仲間たちも総じてレベルがとんでもなく高いのよ」
 昨日パーティーを組んで、一気にレベルが上ったことで、その勇者の末裔だと考えられたわけか。
 勇者の伝説のハヤセ・ナオトという名前を聞いた時、俺は元の世界へ帰る手がかりじゃないかと感じた。そして、思い切って、俺の置かれている状況をマリーに話してみることにした。

「マリー、俺の話を聞いてください。多分、分からないことも一杯あると思うけれど、とりあえず最後まで聞いてください」
 頷くマリーを確認した後、俺は日本で「Make World Online」というゲームをプレイして、この世界へ来たこと。ログアウトできずに元の世界へ帰れない事、レベルアップが、異常なこと等をマリーに話してみた。マリーは、俺が話し終えるまで疑問の言葉を挟まず黙って聞いてくれていた。

「前半部分がよく分からなかったのだけれど、ユウは元の住んでいる場所に帰れないのね?」
「簡単にまとめると、そういうことですね」
 おおよその話の内容だけでも伝わったのか、マリーが分かっている部分だけをまとめて確認してくる。
「それに、レベルが上がりやすいのも異常って事?」
「そうみたいです」
 ゲームに準拠した世界ならば、仕様道理に上がるはずだが、それが異常にレベルアップがしやすくなっている。

「やっぱり、勇者の末裔じゃないの? レベルの上がり方が早いのは。そして、昨日私とパーティーを組んでからのレベルの上がり方も」

「勇者の末裔というよりも、勇者ハヤセ・ナオトと同じ世界から来たから、そんなふうになったんだと思うけれどね……勇者は、いつ現れたんですか?」

「今からおよそ400年前って言われているわ」
 400年か……。詳しい資料が残っているかどうか。もしかしたら、彼を調べることで日本へ帰る手段が見つかるかもしれない。そう考えた俺は、彼のことを調べることにした。

 

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