第02話 貰えない、冒険身分証明証

 俺は歩く。

 昨日はすぐに森のほうへ入って、モンスターを狩っていたので、周りを見る余裕はなかったが、じっくり見てみると、とても世界がリアルにできているのが分かった。

 これがVRゲームかと、内心かなり驚いている。
 草木にはしっかりと感触があり、歩くごとに草を踏みしめる感触が足の裏に伝わってくる。近くに生えている草を手にとって見ると、細かな繊維まで見えるようで、こんなところもこだわってゲームが作られていることがわかる。
 太陽の日が輝き、じんわりと暖かい。肌に当たる日光から暖かさを感じる。
 空気を深呼吸して吸い込むと、いろいろな匂いがして、気持ちが良い。田舎にある実家を思い出させる。

「これはすごい技術だなぁ」
 思わず思っていたゲームに対する感想が、口から漏れる。VRゲームについての実際の仕組みについては、俺には難しすぎて正しくは理解していないが、たしか脳内に直接イメージを送ることで、脳内を錯覚させて完璧に近い疑似体験をすることができる技術だという。
 それにしてもリアルだなと周りを見回して、改めて思う。

 そんなことを思いながら俺は、開けた道を歩き続けた。

***

 おおよそ1時間ほどを道に沿って歩いて、町へと到着する。道中、モンスターに襲われることなく、特にこれといったイベントも起きることはなかった。もちろんその間も、ログアウトができないか、色々と試してみたが、結局ゲームから抜け出すことはできなかった。
 最初の村に比べれば建物の数も多いようだが、まだ小さな町のようだった。
 木で出来た簡素な囲いをしているが、よじ登って超えることができそうなぐらいの高さだ。モンスターに対する防護柵が、あの高さで大丈夫なのだろうかと少し不安になる。

 道の先には、木の囲いがない部分がある。多分そこが出入口だろう。あそこから入るのかな?

 門へと近づき、町の中へと入ろうとすると、町の方から鎧を着た門兵だと思われる女性が出てきた。

「ちょっと、待ちなさい」
「あっ、はい、なんでしょうか?」

 呼び止められたので、歩くのをやめてその場に立つ。180cmある俺と同じぐらいの、かなり長身の女性だった。

 しかも、顔がキリッと引き締まっていて、かっこいいという評価をして良いような美人だ。

「見ない顔ね。商人にも見えないし、この町に何の用?」
「あ…っと、ギルドに用があってこの町へと来たのですが」

「もしかして、冒険初心者?」
「えぇ、まぁ」
 昨日冒険を始めたから冒険初心者だろう。

「近くの村から歩いてきたの?」
 その女性は、怪訝そうな顔をしながら俺の頭から足の先までジロジロと見ると、そう聞いてきた。何か問題でもあるだろうか。不安になったが、そのまま答えることにした。
「えぇ、その通りです」
「冒険者身分証明証は?」
 何だそれ? 持ってないぞと焦ってしまう俺。
「その、証明証持っていないんですが」

「……そう、冒険初心者ということはまだ、作ってもらっていないのね、まずギルドに行って冒険者身分証明書を作ってもらいなさい」
 数瞬の沈黙後、さらに疑わしそうに目を向けてくる女性。しかし親切にも作り方を教えてもらうことが出来た。

「わかりました、ギルドへはどう行けばいいですか?」
「入ってすぐのところ、向こうにあるわ」
 なるほど、町に入ってすぐか。俺は、女性の指差す方向を確認する。それだけ言うと長身の女性は、すぐに町の中へと戻っていた。
町の中のどこからか見張られていたのかな。町に入ってすぐに捕まったことから、そう考えたが見回しても、見張り台はない。
 とりあえず、町の中へと入ってギルドに行くか。

 僕は簡素な門を通り、町へと入った。
 外からは聞こえなかったざわめきが、門をくぐることによって一気に聞こえるようになった。こんなに人が居たのか。そして、一目見て活気のある町だということがわかった人の往来も多く、通りにはお店がいくつか構えられており、お客の呼び込みが激しい。
「ん?」
 かすかな違和感を覚えるのだが、その違和感の正体がわからない。ぐるっと一周り見て、大きくカタカナで”ギルド”と書かれた看板が掲げられている建物を発見する。違和感の正体はとりあえず置いておいて、ギルドに行くことを優先する。

 ここかなと当たりをつけて、建物の中へ入る。中は薄暗く、人も受付のようなテーブルで区切られている場所の向こう側に一人居るだけで、他には誰も居ないようだった。

「すみません」
 俺が建物に入ったことも気づいていないようで、虚空を見ながらボーっとしていた男性。年は30台後半ぐらいだろうか、少し薄毛の頭に目が行くが、こんな受付のキャラクターも作りこまれていてすごいなという感想も浮かんだ。声を掛けた時にビクッと一瞬身体をびくつかせて、やっとこちらに目を合わせてくれた。

「びっくりした」
 言いながら、姿勢を正しこちらに身体も向けてくれる。そして俺に向かってこう聞いた。
「どうしました?依頼ですか?」

「いや、冒険者身分証明証を作ってもらいたくて」
「へ、冒険者身分証明証ですか?」
 町に入る前に、長身の女性に見られたのと同じように、受付の男性も俺を頭から足の先までジロジロと見た。何か変だろうか。
 あ、っとその前に、確認したいことを先に、確認しておこう。
「その前に、聞きたいんですけれどゲームの運営側に連絡ってつきます?」
「はぁ……?ゲーム?運営側?ギルドの運営に連絡ってことは就職希望の方ですか?」
 やっぱり、相手に伝わらないか。ここから「Make World Online」の運営チームに連絡を付けることができれば、ログアウトも出来るだろうと考えたんだが。

「いえ、なんでもないです。じゃぁ冒険者身分証明証を作ってもらえますか」
 改めて、冒険者身分証明証を作ってもらうようにお願いする。
「あなた、男性でしょう?本当に冒険者身分証明証を?ギルドの就職希望じゃなくて?」
「え?えぇ、そうですが」
 なぜ、いきなり男性かどうか聞かれるのか、よくわからない質問に戸惑いながらも答えると、受付の男性は額にシワを寄せて、ちょっと待ってくださいと俺に言うと、立ち上がり、部屋の奥へと行ってしまった。

 しばらく待つと、男性が紙を一枚持って帰ってきた。そして男性は紙を読み上げて、俺に説明を始めた。
「男性の方が冒険者になる場合は、次の説明する規定を満たしていないといけないのですよ。第一に、冒険初心者Lv.10を超えた者。次に、冒険者ランクAの推薦状。最後に、男性冒険技術試験に合格した者。以上、3つの条件をクリアしないと冒険者ギルドの冒険者身分証明証を発行できません」
「はぁ……?」
 冒険者身分証明証を発行してもらうためには、どうやら、いくつかの条件が必要らしい。冒険初心者Lv.10は既にLv.10に達しているから大丈夫だろうが、推薦状は持っていない。あと、男性冒険者技術試験というのがよくわからなかった。
「俺はもうLv.10なんで最初の条件はクリアしているけれど、残り2つがダメなようです」
 そう言うと、男性がえらくびっくりしながらこう言った。
「へ?あなたLv.10に既に達していると?本当に?確認させて頂いてもいいですか?」
「えぇ、いいですけど」

 男性にレベル確認していいか聞かれ、それに大丈夫と答える。
「じゃあ、レベルの玉で確認お願いします」
 男性は、言うと受付の裏から出て、建物の奥へと俺を誘導する。レベルの玉?よくわからない単語が出たが、とりあえず男性の後に続こう。
 付いて行くと、少し手狭な部屋に案内された。中央に豪華な飾り付けでボーリング玉ぐらいの大きさの、玉が乗っかった台座がある部屋だ。
「じゃあ、おねがいしますね」
 玉を覗き込みながら男性は俺にそう言う。特に説明もなく、どうすればいいかわからないでいると、男性が気づいて教えてくれた。
「あ、ごめんなさい。手を玉の上にかざしてもらえますか」
 片手でいいのかな? 疑問に思いながら玉に片手をかざすと、玉の中に何やら文字が浮かんできた。
——————
ユウ
Lv.10
職業:冒険初心者
——————

 ステータスの一部分の情報のみがその玉の中に浮かんでいるようだった。これならステータス表示で見せても良かったのに。

「本当に、冒険初心者のLv.10に達していますね。驚きました。男性の方で、しかもその若さでLv.10に達するなんて、よっぽど努力なされたのでしょうね」
「はぁ……」
 男性が羨望と尊敬の眼差しで俺を見てくる。昨日1日鍛えただけなのだけれど、これは言わないほうが良いかもしれない。

「それじゃあ、後は冒険者ランクAの方の推薦状ですね。知り合いの冒険者の方にランクAを持っている方が居ますか?」
 居ないな、と言うかまずこの世界で知り合いが居ない。依頼状が手に入らない。
「知り合いに、ランクAの冒険者の人は居ません」

「それじゃあ、依頼で出しましょうか?」
 依頼?推薦状を依頼で書いてもらえるということか。
「依頼で書いてもらえるのですか?」
 俺の疑問に男性が答える。
「えぇ、珍しいですけれど依頼で書いてもらう方も居ます、ただ金額のほうが……」
 しまったなぁ、やはりお金がかかるのか。
「そうですよね、お金かかりますものね。ちなみに、いくらくらい掛かりますか?」
 男性は、顎に手を当てて考え始める。
「そうですねぇ、最低でも25万ゴールドは必要になるかもしれません。ランクAの方の依頼金額が最低25万なのでね。あくまで最低金額なので、受けてもらえるかはまた別ですけれど……」
まだこの世界の金銭感覚がわからないので、それがどれくらいの金額なのかは分からないのが、万という単位にそれなりの金額であることが感じられる。しかも最低金額というのが怖い。
「ちなみに、男性冒険技術試験ってなんですか?」
 気になっていた、男性冒険技術試験というものについて聞いてみた。
「それはですね、男性の方が冒険者になっても大丈夫かどうか、ギルド側が試験をさせて頂いているのです。試験内容は、詳しくは話せない規則になっているのですが、ただ、Lv.10を越しているということなら、試験を失敗する事はなかなか無いようですよ」
 それは良かった、問題はお金だけか。

 男性にお礼を言って、ギルドを出る。念のためにログアウトを試してみたが、ダメだった。結局、何をすればログアウトが出来るかわからなかったが、とりあえずの目標は冒険者身分証明証を作ってもらって、ログアウトできるかどうか試すことだ。
 金を貯めるために、俺はモンスター狩りに出ることにした。

 

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