04.そして、これからどうするか

マリアは早足で、俺の前を進む。
しまったなぁと思う。
あまりにも急だったんで、先程の言葉、
お世辞を言ったように思われただろうか。

「着きました、ココです」

レンガ造りの小さな家だった。
小さいが趣があり、なかなかよさそうな雰囲気の家だった。

彼女は、扉を開けると直ぐに中へと入った。
俺も続いて入る。

部屋の中は、薄暗くなっていた。
と、彼女がランプに火を灯して一気に部屋の中が明るくなる。

そこは、居間なのか木で出来たテーブルと椅子以外には特に目のつくものはない。

マリアは着ていた黒のマントを脱ぎ、持っていた弓と一緒に壁へと掛ける。
狼の死体は床へ置いた彼女。

「今、地図を探してきますから、ちょっと待っててくださいね」
言うと彼女は部屋の奥へと行き、見えなくなった。

俺は一日ずっと歩いていたので、足がもう限界ギリギリだった。
近くの椅子を借りて、座ることにする。

帰ってきた時に出迎えがなかったのを見ると、彼女は一人暮らしなのだろうか。
それとも今は仕事で出ていて、これから帰ってくるところなのか。
ボーっと部屋の中を眺めてみる。

「地図ありました、どうぞ」

そんなことを考えていると、すぐに戻ってきた彼女。
言って、丸く包まった羊皮紙?を俺に見せる。
丸まっていたソレを広げ、テーブルの上へと置く。

見てみると、かなり大雑把に城と街村の位置だけが書かれた地図だった。
というか、文字も普通に日本語で城の街村の名前が読めた。
「見覚えはありますか?」
地形の形は、見覚えはない。左側に大きな海があるらしく、しいてあげるならば、
ヨーロッパの地形に近いような気もするが、城の名前も街の名前も全く分からなかった。

「ダメだ、分からない」
「…そう、ですか」
多分ダメだろうと思っていた俺と違い、
この地図に希望を持っていたマリアは、
俺以上に、残念がっていた。

いよいよもって、異世界に来たのだという考えが強くなる。
もしかしたら過去にタイム・トラベルしたのかとも思ったが、どうも違うようだと直感が告げている。

困ったのは、これからどうするかということだ。
元の世界へ戻るにはどうするか。

でも、改めて考える。

元の世界へ帰りたいと聞かれたら、絶対に帰りたいとは思えない状況だった。
何のために帰る?仕事?生活?恋人?友人?
仕事を生きがいにしていたわけじゃないので、絶対に帰りたいという理由にはならない。
この世界で俺は、生活は出来るかどうか。
世界全体がそうだと分かったわけではないが、
今日一日で見た分だと、この世界はあまり近代文化的ではないということだ。
この中世時代のような、機械がない世界で、生きていけるのか?
そう自分に聞いてみるが、それも絶対に必要ってわけじゃない。
帰りたいという理由にはならない。
恋人もいなかったし。友人も、仕事関係の人たちしか顔が浮かんでこない。
思い返すと、友人なんて…。
住んでいた場所に未練がないなんて、
改めてみると考えると、なんとも寂しい人生だなぁ。

じゃあ、この世界で生きていくのか?
生きていくためには、仕事をしないといけないな。
この世界で俺は何が出来るだろうか。
仕事では、営業とデスクワークを半分半分でやっていたから、
多少の交渉事はできるけれど、体力仕事となると難しい。
考えられる仕事はファンタジーもののお約束、農業に、商業、鍛冶、ぐらいか。
この中だったら商業が一番向いていると思うが。

ダメだ、何をやるにしても、資金、資源が何もなさすぎる。
俺はこの世界のお金を1円も持ていない。


ここは恥をかき捨てて、彼女に頼るしか無い。
結局そういう結論に辿り着き、彼女を頼むことにする。

「俺を雇ってくれないか。何が出来るか自分ではまだ分からないが、何でもやるから、俺を雇ってくれ」

「良いですよ」
ニコニコとあんまりにあっさり言ったので、聞き間違えかと思った。
「俺を雇ってくれるのか?」
「ん~雇うというか、しばらく家に居てもいいと言っているのです。多分、今貴方を追いだすと、後悔すると思うので」

後悔?後悔とはどういうことかと気になったが、
あまり藪を叩いて蛇を出すような行為はしたくないので、
俺は、ただただ彼女の好意に甘えることとした。

そして俺は、運良く異世界に来て一日目で、
住む場所と仕事を確保することが出来た。

 

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