02.現状把握

「…ロサ・マリア」
彼女の名前で聞き、俺は口の中で彼女の名前を小さく呟く。
まずはじめに思ったのは、ココロと同じように、”マリア”という清楚な名前であると感じたこと。
そして、日本人離れしたココロから、
日本人ではないだろうというのはわかっていたが、
名前からも日本人でないことが分かる。

「良い、名前だね」
マリアの喜ぶココロを見てみたいという気持ちが半分と、
ほんとうにそう思った気持ちをマリアに伝える。

「あの、…ありがとうございます」
深々と頭を下げて言う。
喜ぶココロを見せてはくれなかったが、照れるココロを見せてくれたので良しとする。

マリアのココロにばかり目が行っていたが、改めて見ると格好もどこか見慣れない服装だった。
昔にネットで見た、アフガニスタンのなんと言ったか、正式名称は忘れたが、
民族衣装というのだろうか。それに近い。

黒いスカートの下にズボンを履いて動きやすくしているのだろう。
同じく、黒のマントを羽織り、背中にはマリアの身の丈と同じほどもある160cmぐらいの
大きさの弓と何本かの矢をマントの上から斜めに背負っている。

「ところで、ココは何処だか教えてくれないか」
とにかく、現状をしっかり把握して次に起こす行動を、
決めないとイケないと考えて、場所を聞く。

「ここは、アーデンの森と呼ばれている場所です」
「アーデン?」
聞いたことのない場所だった。
名前の語感から、ヨーロッパあたりなのだろうか。
でも、彼女は普通に日本語を話している。
知らないうちに拉致されて、知らないところへ放り込まれたのか。
そんなことはあるのだろうか、一体何が目的なのか。ドッキリ?

「そうです、アーデンと呼ばれる精霊様が住む場所です。
本当は男性は入っちゃダメなはずなのに。なんで貴方はココに居るんです?」
言い方は特にキツさは感じず、本当になんでだろうと疑問に思ってそう言っていることは、
マリアのココロを見て分かった。

「俺もよく分からずここに居るんだ」
言って、嫌な考えが頭によぎる。
精霊だって?精霊信仰なんて言葉を聞いたことがあるが、多分そんな話じゃないだろう。
宿っているという言葉じゃなく、”住む”なんて言葉を使っている時点で、
精霊が実在しているかもしれないという考えに至る。

マンガやアニメによくあるような”異世界”へと来てしまったんじゃないだろうか。
突飛な考えだったが、そうとしか考えられなかった。

「…チョット聞きたんだけど、日本って場所を知ってる?」

「ニホン?…わかりません」
日本語を普通に話しているから、日本という国を少しでも知っているんじゃないかとも思ったが情報は得られない。
それに、そもそも今いる場所は異世界だって仮定で話を進めると、
彼女は日本なんて国を知っているはず無いと思う。

しかし次に彼女はこう続けた。

「でも、聞いたことのあるような気がします。なんだったっけ?」
顎に右手を当て、考えこんでいる。
思い当たるだって?
じゃあ、さっき考えた”異世界”と言うのは、考え過ぎだろうか。
ココが辺境の地で、日本という国を知らないということはありえるだろうか。
じゃあなんで日本語が通じてるのか、って話に結局戻るけれど。
考え事を深めていこうとすると、マリアが言う。

「とにかく、男性がこの森にいると聖霊様に怒られてしまいますから、
早く出ないとイケないですよ、案内しますから外に出ましょう」
「すまない、案内を頼む」

「っと、そうだ」
彼女は、何かを思い出して進もうとしていた足を止めてクルッとこちらに向き直る。

「忘れるところでした。ちゃんと持って帰らないと」
言って、先ほどの狼に近づくと、胸の辺りからナイフを取り出す。
「お、おい」
「あ、血抜きするんでちょっと待っててくださいね」
そう言いながら倒れていた狼から矢を抜く。
彼女は何処かに持っていたナイフを取り出し、
躊躇いもなく、狼の胸に突き刺す。
刺された狼は、刺された箇所から血を流し出した。

あまりにも手慣れた様子に、関心さえする。

血が流れ出すのが止まるまで、彼女はそっと狼を撫でていた。
血が止まると手足を、これまた何処かに持っていた紐で縛り、
手足に結んだ紐の先を弓にへと結びつける。
狼は見た目には結構でかい様に見えるが、彼女はそれを軽々と担ぎあげた。
「お待たせしました、それじゃあ行きましょう」

言って彼女は歩き出した。
俺はひとつ頷くと、彼女の後をゆっくりとついて行った。

 

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