01.森での出会い

びっしょりとかいた汗に不快感を覚えながら、目を覚ます。
濡れたYシャツが更に、身体が冷やして寒さを感じる。

起きた時にまず目についたのは、木だった。
辺り一面が森だった。
理解が追いつかず、まずココがどこなのか、思考を回転させる。
地面から、身体を起こして、座り直すと、ぐるりと身体を回して、
周りを見回すが、やはり木や雑草しか見えない。
小さな白い花がチラと視界の隅に捉えたが、花を楽しむ余裕なんてなかった。
記憶の中には無い場所。
俺は知識にある公園や山に似た風景は無いかと考えたが、
こんなにずっと先まで木が茂っている、深い森は記憶にはなかった。

「……森?」
何度見なおしても出てきた結果は、初め見た感想と何ら変わりなく、
結局何も分からなかった。

「って…え?」
目覚める前の記憶を思い出す。
確か、女に突き飛ばされて、電車に轢かれたんじゃ。
そんな記憶がある。

しかし、身体を調べてみてもどこも傷ひとつもなく、
着ていたスーツも、今は土が付いているだけで、
破れたりしていないし、他に異常はない。
あの状況で、助かったのだろうか。
それとも、本当は今夢を見ているだけで、
現実は病院のベットの上だったりしてなんて他愛のないことを考える。

電車に轢かれそうになった時には手に持っていたはずのビジネス鞄は、
辺りには見当たらない。

立ち上がり、スーツの後ろに付いていた土を払う。
と、腕時計をしているのに気づき、今の時間を見ようとしたが、
腕時計は壊れてしまったのか、12:28の時間で止まっていた。
昼の12:28だろうか、太陽が真上にあることを考えると、
昼ぐらいの時間帯だろうが、
それより前に壊れていたとしたら。
例えば夜中の12:28に止まったのだとしたら、
今の時間は太陽を見た感じから、昼頃だろうという推理以外、
特に思いつくこともなかった。

もう一度辺りを見渡したが、変わりなく森のままだった。
立ち上がった視線の高さから見たら、
ビルが建ってるのが見えるかもと思ったが、
木が俺の視線よりも高くあり、視界を遮ってしまっていたのでよく見えない。
周りを少し調べてみたが、ビジネス鞄は見つからなかった。
誰かに持って行かれたのだろうか。

あの鞄に財布とかカード、免許証があるから、失くした時の手続きが面倒なのに、
なんて、今の状況を全く把握しないで現実逃避をしながらも、
とりあえず森の出口を探して、歩くことにした。

***

「ハァ…ハァ…ハァ…」
どれ位歩いただろうか、時計も止まって時間が分からず、
体感的には4時間ぐらいだろうか、休憩もせず歩いたが森から出られる気配がない。
この広さから、もしかしたらいつの間にか富士の樹海へと来たのだろうかと思った。
でも、樹海に来た記憶もないし、何故樹海なのかもわからない。
しかし、イメージにあるような樹海の暗さは全然なく、太陽も見えている。
森には、太陽の陽が指し、明るい。
本当にここはどこだろうかと、何度も考え、全く分からず、歩き続ける。
一刻も早く、この森を出たかったからだ。

と、後ろから不自然な木の擦れる摩擦音が聞こえた。
「…ハァ…誰か、居るのか!…ハァ」
息を切らしながら音がした方へ向く、
そして音の聞こえた方向に声を掛けてみるが返事はない。
しかし、たしかに音を聞いたのだ。

ガサッとひときわ大きな音を立てて、何かが物陰から現れる。

物陰から出てきたそれを見て、
最初は、犬かと思ったが、犬の表情よりも鋭い眼光と牙。
次の瞬間、直感的に狼だと結論にたどり着く。
それも、数頭居るようだった。ワラワラと森の影から狼が現れる。

「…くっ、っ」
ジリジリと近寄ってくる狼。
何とか逃げようとするが、動いた瞬間に、俺の喉元に飛びついてくるビジョンが浮かび、
そのせいで動けないでいる。

と、こちらをジッ見ていた狼がいきなり視線を外して、あさっての方向を見る。

今のうちに逃げようと、逃げるときに一気にダッシュするために
中腰になった時、変化が訪れる。
細い棒のようなものが狼に突き刺さっていた。
狼はビクンと跳ねて、大きく一声鳴くと、地面へと横たわった。
「え?」
口から空気が漏れる。
急な展開についていけない、棒の先には羽のようなものが付いている。
矢だ!
他の狼達は、散り散りに森のなかへと消えていき、すぐに見えなくなった。
よろよろと、木に身体の体重を預けながらへたり込む。
昨日の電車といい、狼といい、死ぬ危機が短い時間に2度もあるなんて。

「……大丈夫ですか?」
女の子が森の奥から現れ、心配したように声を掛けてくれる。

返事をする余裕がなかった。
何故なら、あまりにも美しいココロを見てしまったからだった。
今までに見たことのない、真っ白なココロ。

「大丈夫ですか、どこかケガをしてるんですか?」
彼女の、俺を心配するココロの動きに見とれながらも何とか返事をする。
「大丈夫だ、問題ない」

「よかった」
彼女の、笑顔のココロを見て、自分は一目惚れしたのだと気づいた。
ココロを見て人を好きになるなんて、
そんなことが自分に起きるなんて信じられなかった。
そうさせたのは、彼女の美しいココロのせいだ。
生きてきた中で見た一番の綺麗なココロだと思った。

彼女の事をもっと知りたいと思い、名前を聞く。
「俺は佐間勇人、名前を。…名前を、聞かせてくれないか」
性急すぎたかと、不安になるが、彼女はしっかりと答えてくれた。

「私の名前は、ロサ・マリア。ワワラルズ村のロサ・マリアです」

 

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