閑話08 青地剛輝の始まり

 青地剛輝には父親が居なかった。剛輝がまだ幼い頃に、父親が不倫をした事で両親が離婚。そして、父親は妻子を捨てて家を出ていってしまったからだ。

 しかも母親だけになった青地家には剛輝以外に3人の弟と、1人の妹が居た。母子家庭で子供を5人も育てないといけない。それなのに、父親は家を出て行ったきり養育費も払わず連絡も取れなくなってしまった。

 どんなに節約した生活を送っても、お金が足りない。貯金していたお金も尽きかけて、子供を抱えながら仕事をして稼がなくてはならなくなった。

 剛輝の母親がお金を稼ぐために選んだ仕事は、水商売だった。昼は子供達の面倒を見ることが出来て、夜の仕事なら短期間で多くお金を稼ぐことが出来るから。そう考えての選択だった。

 それを知った剛輝は、母親が水商売をするというのが嫌だと思った。水商売が一体どんな仕事なのか、その時には正確に知らなかったけれど、それでも心配になった。

 どうすればいいんだと剛輝が考えて出した結論は、母親に代わって自分がお金を稼ぐことが出来れば良いんだ、という解決方法だった。

 それから剛輝が調べて知ったのが、テレビや雑誌など様々なメディアの中で活躍している子役という職業だった。

 子供でも、ああやってテレビに出ればお金を稼げるはず。それで稼いだお金を母に渡せば、今の生活が楽になる筈だと、水商売をしなくて済むんだと考えた。

 次に子役になるためにどうすればいいのか、剛輝は母親には聞かずに近所に住む大学生のお姉さんに尋ねに行った。

 お姉さんの方に聞きに行ったのは、母親に尋ねたら心配をかけたり、計画を止められるんじゃないかと思ったのと、お金を稼いできてサプライズで驚かせようとも考えていたから。

「あんな、俺、テレビに出てカネ稼ぎたいんやけど、どうやらった良いの?」
「えっ!?」

 突然訪ねて来た子供にそう聞かれたお姉さんは一瞬、何事かとビックリしていた。だが親身になって相談に乗ったお姉さんは、剛輝の事情を知って協力することを決めた。

「テレビに出たいのなら、オーディションを受けに行けばいいのよ!」
「ホンマか」

 テレビに出たいという剛輝の願いを聞いたお姉さんは、アイドルになりたいんだと少し勘違いして剛輝の願いを受け取った。

 そして、実はアイドルファンであったお姉さんは、自分が知っている有名なアイドルであるS+mileというグループが所属している事務所についてを剛輝に教えた。そしてそれが、アビリティズ事務所という名前の芸能事務所だった。

 オーディションを受けるための応募手続きは、お姉さんに手伝ってもらい郵送した。そして書類審査は問題なく通って、二次審査の通知を受け取った剛輝は次の審査も合格できるように万全を期すため、近所の人達にも協力してもらった。

 近所で社交ダンス教室を開いている先生にダンスの基礎を教えてもらったり、茶道の先生をしている人にマナーを教えてもらったり、ピアノ教室の先生にも音楽の下地を学ばせてもらった。

 皆、剛輝の事情を聞いて手助けしてあげたいという気持ちから協力してくれた。あと、剛輝の子供らしい可愛さ、いつも笑顔、そしてイケメンでもある彼の魅力に心奪われてもいたから。既に剛輝は、近所の人達からアイドル的な存在として見られていた。

 とにかく、色々な人達から教えを受けて色々と努力した後にオーディション二次審査に挑んだ剛輝。そして結果は、無事に合格ということでアビリティズ事務所に所属することが出来たのだった。


***

「どうしたの? 剛輝」
「母さん! はい、これ読んでみて」

 いつもと比べて機嫌がいいというような剛輝の笑顔を見て、一体どんな良いことが有ったのかを尋ねた母親。しかし、答えの代わりに何かの紙を剛輝から手渡されてたので、母親は何だろうと受け取った。

 剛輝が母親に渡したモノは、アビリティズ事務所に所属することになったという契約書。そして、契約内容や給料金額の書かれた紙だった。

「え? ……これは?」
「俺アイドルになったから、お金も一杯稼げるようになったから大丈夫やで」

 そして剛輝が今まで家族の問題を解決しようとして、隠れてオーディションに応募したこと、審査に合格するため近所の人達の協力を得て特訓をしたこと、無事に審査を突破してアイドル事務所に所属することになった、という事を説明した。

 そんな事実を聞いた母親は、顔を俯かせて肩を震わせていた。子供にそんな苦労を背負わせてしまった自分の弱さを反省して。

「……ごめんなさい! 不甲斐ない母親で」

 剛輝は静かに泣き出した母親に、強く強く抱きしめられた。泣きながら、母親の口から謝罪の言葉が出る。

 抱きしめられながら剛輝は、本当は一杯喜んでもらおうと思ってサプライズをしたのに、予定とは違って泣かれてしまった母親の姿にきまりの悪そうな顔を浮かべていた。